2015 Fiscal Year Annual Research Report
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26284087
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
本村 凌二 早稲田大学, 国際学術院, 特任教授 (40147880)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 雄祐 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (60237443)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 史学 / 比較史 / 識字率 / 通時的研究 / 読み書き能力 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は研究会を2回開催した。まず、日本と歴史的にも親近感があり、現在も日本と深い関係のあるモンゴル・中国の地域に焦点をあてた。東アジア史や漢字の研究者より、漢人=中国人という考えを基に漢字の変遷と普及について研究者と意見交換をした。漢字の語源も多種であり、その影響は朝鮮、日本とアジア広範囲に及び、とりわけ宗教や学問の分野では著しいものがある。 次に古代オリエント史の研究分野から、楔形文字からギリシア文字、ローマ字への推移とともに、そこで変化していくリテラシーの動態について考察を進めた。実際に葦ペンを使用した楔形文字の書き方や保管法、算術(60進法)など当時の知識人が興した文字使用の実態の一部を知ることができた。文字数が数百・数千もある楔形文字やヒエログリフから二十数文字しかないアルファベット文字が開発されるなかで、行政管理のみならず人間の生存の機微を描く文学が生まれてくる。その研究状況は重要である。 海外調査では、イタリア語の訛りが残るサルディーニャ島の遺跡と言語調査を行い、南フランス地方の文化遺産と碑文資料も調査した。国内調査では、江戸から明治へと優秀な人材を発掘した信州高遠藩の藩校「進徳館」や歴史博物館で資料収集をした。文武両道の特色ある教育と識字率との関係も探ることができた。 平成27年度・研究分担者の研究実績は、読み書きの学際的研究のための方法論の研究を、読み書きの技術的・物理的側面、特にデジタル技術と人文知の相互作用に焦点を合わせ、人文情報学の研究者と共同で進めた。まず、人文学に基礎を置く学際的な研究・教育の展開を分析するために論文や書誌情報のデジタルデータを蓄積し、そのテキストマイニング・可視化を試みた。また、伝統的なものづくり、デジタル技術、そして読み書きの関係を江戸時代の祝祭の復元事業と連携しつつ分析し、やはりテキストマイニング・可視化の方法を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度と同様に研究会の開催により、地域面や通時的な研究内容が細分化され、より研究内容を各地域・各言語に把握することが進んでいる。全体を通しても細分化された地域・言語が歴史の変遷とともに社会の影響を受けながら、融合や変化をしていく様が少しずつ明らかになることで、歴史学の研究者に多様な論点を展開することができている。各々の時代の文化・教育・生活環境・宗教など影響された部分にリテラシーがどのように変化をしてきたことを分析していくとやはり共通点や相違点などが必ずあげられる。さらに言語学・文化人類学からも現代のコミュ二ケーション能力と技量に至るまでの社会史的分析を試みることの重要性も人類の生存と大いに関係していることが研究を遂行することで明確になってきている。 実証史学における海外の現地調査においても、古代から現代へと時間の流れがあっても、島という特別な環境で風化せずに現存する訛りがある。現在、母国語が共通である人々にとっても理解できないほどの訛りの強さは、環境と人口動態との関係性を引き出すこともできる。人々の生活環境が言語の表音、表象に変動をもたらすこともわかってきた。比較研究の一環とする江戸時代の藩校の調査でも、教育面から読み書き能力の発達の原点を探り、アルファベット圏や漢字圏等との関係を比較し、論説できるような史料も収集できている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず本年度の研究会では言語の広がりと密接な関係のある宗教、特にキリスト教の普及における言語の影響を究明することにしている。また、歴史的に日本と密接な地域の東洋史にも焦点をあて、おもに中国の宗教(仏教など)や漢詩による表象やその保存、普及などについて研究を遂行する。その際現地に研究者を派遣し、生の史料・データを収集する予定である。 またキリスト教の普及について研究会にて考察し、言語や文字の保存や宗教的観念の布教などから人々の生活と関連する要素を上げ、研究の成果を期待する。 海外調査においても生存のための医学の知識や衛生観念の普及などから考察できるリテラシーの問題点を探り、国内調査でも昨年度と同様に、日本の藩校の調査を行ない、比較検討する。 さらに他の地域の現地調査も含め、専門研究者からの助言も受けながら、文字文化、伝統、教育、宗教などを通してみられる社会史的背景との関連性をまとめ、生の史料のデータベース化への作業に移行できるよう基盤を作成していく。最終的にはアクセス可能な原資料を最新の文献情報の体系化に移行し実現できるように努める。
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Causes of Carryover |
現地調査における生の史料の収集において、今年度は地域も広げたが、さらなる地域の史料集積ができていないこともあり、来年度への研究調査費用と研究資料購入に経費を残している。またデータ体系化にするまでに至る作業に対しても支出経費が少額であることもあげられる。研究会において、研究分担者と情報交換を重ね、引き続き最善の対策を練っていく予定である。 今年度は海外の社会情勢も不安定なこともあり、海外からの研究者の招聘をすることはできなかったが、来年度以降の国際的な研究発表会に向けて言語学・人類学の海外研究者を招聘し、通年的な研究成果に繋げていくために予算の計画を立てている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究会でも研究分野として重要な地域となっているアジア圏の主たる言語である漢字の発祥の地の中国について、まだ文字、言語に対する研究対象となる古文書の収集や現地調査による生の史料収集が必要であると考えられる。そのため、研究協力者に現地調査を依頼し、その経費に充てる。その他の海外調査でもギリシア語やラテン語にも調査を広げ資料収集に努める予定である。 研究会も年度内に3回開催し、各言語文化圏の専門研究者に講演してもらう予定である。そのための講演謝金としても使用予定である。
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Remarks |
(掲載)【読売新聞】2015年5月12日:特集:酒都を歩く(英国編)に「二つの帝国(上)...ローマとイギリスをつなぐもの」5月19日:「二つの帝国(下)...ロンドンでローマを想う」 (早稲田大学主催講演会)2016年1月:研究代表者と親交のあるヤマザキマリ氏に「イタリアと日本の狭間に生きる」と題し、二つの国の生活に密着した文化の交流についての講演会を開催。
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Research Products
(8 results)