2017 Fiscal Year Annual Research Report
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26284087
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
本村 凌二 早稲田大学, 国際学術院, 特任教授 (40147880)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 雄祐 東京大学, 人文社会系研究科, 助教授 (60237443)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 史学 / 比較史 / 識字率 / 通時的研究 / 読み書き能力 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は研究会を3回開催しまず中世ドイツの写本・印刷技術の歴史に焦点をあてた。ドイツ文学の研究者を講師に迎えドイツ中世文学における写本から見られる文字情報の重要性と通時的な識字率の関係性について考察した。ドイツの文字文化と当時の社会史との関係は密に繋がっており文字の記録は古代ローマ時代からくらべればかなりすたれ中世に再び徐々におこなわれるようになった。それは伝承から始まり口頭のみで後世に伝えられる形態の口承文学からであった。 歴史的に見てゲルマン人は文字情報を使わず、中世に入ってから書記の仕事として書写され始めると文字も大文字から書きやすく読みやすい文字が求められ、写本の技術も発展していった。『ニーベルンゲンの歌』と哀歌も写本の探しから始まり3種の型が発見され、その内容から文字情報はなく使者の口頭伝承から手紙のやり取りがあったくらいである。3種の写本も内容にそれぞれ特徴があり時代とともにキリスト教的解釈が支配していくようになった。 また社会史的観点から中世ドイツでは大抵の騎士は文字が読めず下級貴族(詩人)、宮廷官吏が詩作し読み書き能力を身に付けていったが、通時的にみてフランスの教育システムの方がかなり進んでいたと考えられる。 海外調査ではロンドンにてリテラシ―の文献の調査と北東部のイタリアにて多民族の侵入などによる植民都市の歴史や交易による影響を調査し海運業などから影響を受けた識字率についての資料を収集した。 さらに研究分担者の研究実績はICTを活用した読み書き・文書管理研究の一環として、学際研究教育プログラムのテキストマイニングを行い、成果を学術論文として公開した。また、16~19世紀のスペイン植民地帝国における文書管理実践に関する共同研究の成果をインターネット上に可視化する試みを歴史研究者、地理情報研究者と共同で進め、サイトを公開した(関連論文を2018年度に公開予定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は研究会にて前年度に引き続き地域的な研究に焦点を当てた。特に欧州のドイツ中世文学から文字文化の中で伝承文学の歴史について研究することができたことは、特徴のある通時的な比較研究ができたといえよう。また民族社会史的な要素が大いに関連していることもあり、地域的にも遅れていることを理解することができた。さらに写本技術においては優れた文字装飾の技術が発展し、現在では文化遺産となるまでに至っている。しかしそこにいたるまでの歴史的背景と社会史的な影響はやはり大きく存在しており、ドイツ中世において当初は身分の高いとされる騎士による伝承から始まり、続いて詩人が写本することで文字、物語を伝えることとなった。そして記憶として残す活版作業の本の制作がおもに修道院の写字室で行われていたことから、口承文学から文字、挿絵も重要であったことも確認できた。また視覚的に記憶される装飾文字や図像などから文学の発展へとつながった。文字の記録文化の中でも文字が変動していく様は、現代の情報化社会のリテラシーの問題点を探る上で、要因となると確信している。 今年度は、特徴のある文字の記録文化の歴史について議論できたが、今年度の研究分野と考えていた東アジアの中国における教育学や漢詩の教えについて究明することができなかったことについては、来年度専門分野の研究者との議論をできる限りしたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は最終年度であり、総括に向け再度検討し議論を重ね、生存のための読み書き能力と知識の問題に踏み込んで分析する。無文字社会から印刷術の普及、革新的な情報化社会の普及により、問題点は複雑化してきている。その中でリテラシーの分析は、何よりも通時的研究であるとともに地域的な比較研究の資料の分析が重要視される。識字率の歴史的推移および言語態・地域の編差を分析することによって、社会に生きる人々の意識や心性の差異を際立たせることが予見できる。その流れから識字率の問題として初等教育学の形態やその普及が大いに関連性をもち、発展途上国の開発援助する際の論点の提供と的確な指標を示すことができると考察できる。 本研究の特色である社会史を比較することにより基軸を明確にして論点をしぼりつつ、現代社会の諸問題、おもに識字率の観点からそれらを定義し研究を解析していきたいと思う。その成果は、近未来社会にとって確実に意義をもち、教育現場における質の向上性をもたらす重要な解決策へと導くものであると信じている。
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Causes of Carryover |
今年度計画していた東アジアの中国における長期間の教育学とその根底となる漢詩の教えについて、東洋史からみた漢詩の影響力についてはすでに研究対象として分析した。しかし、中国で根強く浸透し宗教の布教による人々の生活環境への甚大な影響力など、諸国へも歴史的抗争により波乱の生存環境となったことについて同じアジア圏地域においての重要な比較研究を現地調査も含め、研究会を実施することができなかった。だが、今後の比較研究として必要となる要素であるので研究者との議論をもち、リテラシー教育の問題点、その因果関係を体系化できるように進めたい。 最終年度により、比較研究の文献や資料の分析と生存に関わるリテラシーの問題点について、通時的、地域別に様々な要素から導き出される要因を探るにあたり、海外の現地調査の実施と専門の研究者との研究会の費用として予算を使用する予定である。さらに、研究成果として報告会や報告書の作成の費用として予算を充てる予定とする。
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Remarks |
研究分担者は国立民族学博物館の研究会の成果を材料に歴史文書可視化システムを完成した。データベースへのリンク: http://bunteku.sakura.ne.jp/hisGisMinpaku/ 研究代表者は、『エコノミスト』・「歴史書の棚」に書評を毎号掲載。毎日新聞、読売新聞、産経新聞に書評を掲載。『時評 2018』(中央公論)に書評を掲載。
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Research Products
(6 results)