2017 Fiscal Year Annual Research Report
植民地史を書き換える-東南アジアの日本占領行政からみた欧米植民地支配
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26284111
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
早瀬 晋三 早稲田大学, 国際学術院(アジア太平洋研究科), 教授 (20183915)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
倉沢 愛子 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 名誉教授 (00203274)
後藤 乾一 早稲田大学, 国際学術院(アジア太平洋研究科), 名誉教授 (90063750)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 東南アジア史 / 植民地史 / 日本史 / アジア太平洋戦争 / 写真資料 / グラフ誌 / 在留邦人 / メディア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、まず日本軍が東南アジアを占領するにあたって、どこまで欧米の植民地支配の実態を知って占領地行政に臨んだのか、占領後実際にどのような問題に遭遇し、どのように対処したのか、具体的な事例から欧米の植民地支配の実態を明らかにすることである。つぎに、その明らかになったことを踏まえて、東南アジア植民地史を書き換えることである。また、基礎資料の発掘とその資料を整理した資料集の発行をおこなう。 2015年2月に朝日新聞大阪本社で新たに「発見」した富士倉庫資料(写真)には、これまでにわかっていた東南アジア関係の写真千数百枚に加えて、戦中のものを中心とする新たな写真が三千数百枚あることがわかった。写真そのものに貴重なものが含まれているが、それぞれの写真の裏書きから撮影者や配信先など具体的な状況がわかる。これらの文字情報を入力し、早瀬晋三・白石昌也編『朝日新聞大阪本社所蔵「富士倉庫資料」(写真)東南アジア関係一覧』(早稲田大学アジア太平洋研究センター、2017年3月、422頁)としてまとめて出版した。 近代日本とアジア太平洋地域にとって基本的な情報を収集し、一般に提供した民間の組織として、1915年に創立された南洋協会がある。その機関誌は情報の宝庫であり、索引などを作成して研究工具として、早瀬晋三編『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月、全2巻(356+321頁))を発行した。また、植民地史を書き換える成果のひとつとして、東南アジアからみた歴史問題を取りあげ、早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』(岩波現代全書、2018年3月、224+22頁)を出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最初の年度に、3つの資料を「発見」した。そのもっとも重要な資料である朝日新聞大阪本社所蔵の富士倉庫資料(写真)について、インドシナを菊池陽子(東京外国語大学)、タイを加納寛(愛知大学)、ビルマを根本敬(上智大学)、マラヤを左右田直規(東京外国語大学)、東インドを舟田京子(神田外国語大学)と姫本由美子(トヨタ財団)、フィリピンを早瀬が分担して、裏書きなど文字情報を入力する作業を進め、資料集として発行することができた。これらの研究協力者や入力作業を手伝ってくれた若手研究者や学生らと、写真1枚1枚を検討し、不鮮明なものを点検し、内容について議論する研究会を通算10回おこなった。また、2016年6月5日に大阪大学で開催された「東南アジア学会第95回研究大会」で中間報告として発表し、会員から貴重なコメントをいただいた。その様子は、翌朝『朝日新聞』大阪市内版で紹介された。 早稲田大学アジア太平洋研究センター研究部会「アジア学の包括的資料調査」と共同で進めていたものとして、『南洋協会発行雑誌 解説・総目録・索引』を出版した。また、早稲田大学特定課題研究と共同で進めている「東南アジアにおける「戦争の記憶」の追跡調査・補足調査」では、マレーシアとシンガポールで調査をおこない、国際シンポジウムなどに出席した機会を利用しておこなった韓国、フィリピン、タイでの短時間の調査とあわせて、著書『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』にいかした。 なお、本研究は、科学研究費基盤研究(A)一般(課題番号25243007)平成25~29年度「第二次世界大戦期日本・仏印・ベトナム関係研究の集大成と新たな地平」(代表:白石昌也)と連携しておこない、研究会や国際ワークショップの開催などで協力した。
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Strategy for Future Research Activity |
朝日新聞大阪本社所蔵の富士倉庫資料を有効に活用するためには、同時期に日本で発行された写真雑誌『写真週報』『同盟グラフ』『アサヒグラフ』『FRONT』などに加え、占領地で発行された『ジャワ・バルー』『新世紀』『昭南画報』などのグラビア誌を参考にする必要がある。また、図書館にほとんど所蔵されていない『画報躍進之日本』の後半部分(1940~44年)を入手したのに加えて、日本占領地で販売された日本語、中国語、英語、マレー語などで書かれた雑誌『太陽』『大東亜青年雑誌ヒカリ』が存在したことを確認した。管見の限り前者は数号しか図書館に所蔵されていない。後者はまったくなく所蔵が確認できないが、2号だけ古書店で高価(1号86400円)で販売していた。2012~15年に編集・復刻した『南方開発金庫調査資料』(龍溪書舎)と『南洋協会発行雑誌 解説・総目録・索引』などの研究工具とあわせて活用し、欧米の植民地支配と日本の占領行政の理解を深める。 本研究の最初の年度に、発見した3つの資料のうち、残る2つの資料のうち、戦前・戦中にフィリピンで貿易をおこなっていた大阪貿易会社・大阪バザーの創業者一族の松井家文書、および、玉砕したホロ島の生存者の一人藤岡明義が1946年に収容所で書いた手記を分析する。この手記を元に出版したものが4つあり、その内容を比較・検討する。松井家資料には、1930年前後約4時間分の映像フィルムが含まれている。 また、分担者の後藤乾一はこれまでの沖縄、台湾、東南アジアに加えて、小笠原の近代史から日本の南方進出、植民地化・占領を考察する学術書の出版を準備している。同じく分担者の倉沢愛子は、インドネシアの文化庁と共同で日本占領期のインドネシアに関する史料のリスト(日本語文献のインドネシア語訳を含む)を作成中である。
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Causes of Carryover |
愛媛県歴史文化博物館所蔵の松井家文書のなかに、1930年に撮影されたと思われるフィルム約50本(約 220分)があり、DVD化して関連文書とあわせて分析する予定であったが、博物館の担当者安永純子学芸員が、2017年10月から長期入院して文書の利用ができなくなった。安永氏が退院後自宅療養を経て仕事に 復帰した後、協力して文書の整理、フィルムの分析をおこなう予定である。 松井家文書は、愛媛県歴史文化博物館のほか大洲市立博物館にも所蔵されており、文書調査には数日を要すると考えられる。すでに松井家関係者が映像を見て、写っている人物などを特定しているが、フィルムの分析には当時のフィリピン社会およびフィリピン在留邦人社会の基本的知識を必要とする。代表者の早瀬は『フィリピン近現代史のなかの日本人-植民地社会の形成と移民・商品』(東京大学出版会、2012年)などを出版しているが、新たに関連文献を収集して参考にする必要がある。また、本研究で整理した朝日新聞大阪本社所蔵の富士倉庫資料(写真)や研究工具として出版した『南方開発金庫調査資料』『南洋協会発行雑誌 解説・総目録・索引』などを活用して考察を深め、富士倉庫資料の整理に関わった研究協力者らと研究会を開催し、フィルムを検討し議論する。
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Research Products
(11 results)