2016 Fiscal Year Annual Research Report
古代ギリシア・ローマ史における新しい「衰退論」構築に向けた統合的研究の試み
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26284114
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
南川 高志 京都大学, 文学研究科, 教授 (40174099)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
栗原 麻子 大阪大学, 文学研究科, 教授 (00289125)
長谷川 岳男 鎌倉女子大学, 教育学部, 教授 (20308331)
井上 文則 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (20400608)
藤井 崇 関西学院大学, 文学部, 准教授 (50708683)
桑山 由文 京都女子大学, 文学部, 教授 (60343266)
南雲 泰輔 山口大学, 人文学部, 講師 (70735901)
阿部 拓児 京都府立大学, 文学部, 准教授 (90631440)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 古代ギリシア / ローマ帝国 / 衰退 / 都市 / 心性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究第3年目である平成28年度の最も重要な課題は、イギリスで国際研究集会を開き、研究成果を披露するとともに、同学のヨーロッパ人研究者の報告を聞き、討論することであった。第2年度末に開催した京都大学でのシンポジウムを踏まえて研究集会の課題をより明確にした上で、本科研費共同研究グループからの報告者や研究集会各部の司会者を決め、ヨーロッパ人研究者側の報告者、コメンテーターを依頼、プログラムを印刷し、ホームページに案内を載せて参加登録を受け付け、予稿集を用意するなど、周到に準備を進めた。そして、平成29年3月20日と21日の両日にわたり、オックスフォード大学ウルフソン・カレッジを会場として、計画通り国際研究集会を主催した。オックスフォード大学だけでなく、ロンドン大学、ケンブリッジ大学の教員や関係者も参加してくれ、当該研究テーマに関するイギリスの重要な研究者が大勢集まったので、報告も討論も非常に充実していた。 国際研究集会のテーマは、第3年目の初めまで幾度も協議した上で、本科研費共同研究グループのオリジナリティを示すことができそうな「古代ギリシア・ローマ世界における衰退と衰退叙述」とした。そして、課題を3つに分けて、第1部「古代の衰退に関する現代における叙述」、第2部「古代における衰退叙述の形成」、第3部「比較史的アプローチ」とし、各部に3報告と1コメントを配した。研究集会では、各部とも3報告のそれぞれに対する質疑とコメントを聞いた後の全体討論をおこなったが、ローマ帝国終焉期の理解にはイギリスのEU離脱にも絡めて現代ヨーロッパの状況分析にまで議論が及び、研究活動や歴史解釈と現実政治との関係について参加者の注意を喚起した。会の終わりに、オックスフォード大学名誉教授ファーガス・ミラー卿が研究集会全体のまとめと会の意義を話され、残された課題について全員で確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
順調に進展していると評価したのは、第3年度の最も重要な課題であったイギリスでの国際研究集会の準備と開催が計画通りになされ、研究について予想通りの成果を上げえたと判断したからである。第2年度末までに実践した成果と議論の結果を踏まえて、衰退だけでなく衰退叙述/衰退言説を主要テーマとして取り上げることを決定した。そして、イギリス、オックスフォード大学で開催する研究集会では、研究代表者の南川が趣旨説明をおこなった上で、第1部の「古代の衰退に関する現代における叙述」に関して研究分担者の長谷川が、第2部の「古代における衰退叙述の形成」については研究協力者西村と岸本が報告し、第3部の「比較史的アプローチ」では研究分担者井上が報告することを取り決め、3つの部の司会を研究分担者栗原、阿部、藤井がそれぞれ担当することとした。こうした取り決めの後、外国からの報告者の分も含めて予稿集を作成、準備を十分整えて開催に望んだ。研究集会は計画通り開催され、科研費共同研究メンバー8名を加えると第1日目35名、第2日目が38名の出席者があり、とくにテーマに関係するオックスフォード、ケンブリッジ、ロンドンの諸大学の研究者が集ってくれ、議論が高度でかつ非常に多岐にわたることとなった。科研費共同研究メンバーが報告に関する意見を聞き、今後の研究の展開の重要なヒントを得たことはいうまでもない。また、日本人研究者だけでは知り得ないヨーロッパの学界事情や政治を踏まえた意見表明、議論もあり、科研費共同研究メンバーは多くの知見を新たに得ることもできた。この1年間、代表者も分担者・協力者もこの国際研究集会のために多大の努力をしたが、その努力に見合う成果を得ることができたと自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究最終年度にあたる第4年目は、第3年度目末にイギリスで開催した国際研究集会の成果を改めてとりまとめ刊行することに、まずは力を注がねばならない。次に、この研究集会の内容と成果を日本語で紹介する文章を作成する。全編英語でとりまとめる成果報告書を刊行するので、日本語版は比較的簡単な紹介文にとどめ、本研究の専用ホームページ上に発表する予定である。 本研究の当初の計画で最終年度に予定していた課題についても、できる限り努力しなければならない。それは東洋の歴史との比較であり、すでに研究分担者の1名が担当し、イギリスでの研究集会でも報告していたが、共同研究メンバー全体に拡大して実施する。このために、東洋史の研究者を招いて研究会を開く予定である。 以上を実施した上で、4年間の研究代表者・研究分担者の作業の成果を年度末にとりまとめる。さらに、研究代表者は、本研究をさらに展開させるにふさわしい次の研究テーマを明確にする努力をしなければならない。そのために、国際研究集会開催を通じて深めることができた研究者間の国際交流を踏まえて、次の課題に関する意見交換や研究資料調査などおこなう必要がある。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた大きな理由は、イギリスでの国際研究集会に討論スタッフとして参加予定であった研究分担者1名が、家族の急な病気で参加できなくなり、また研究分担者1名と研究協力者1名が別途の予算で渡英することになって、予定していた招聘旅費の一部が使用されなかったためである。ほかに、当初の計画では予稿集の作成を印刷業者に全部任せることにしていたが、準備期間の関係で編集など作業の大半を研究分担者のボランティアでおこなったため、予稿集作成経費が結果的に大幅に安価で済ませられたこと、オックスフォード大学の研究集会会場の使用料が予定よりも低額であったことなどにもよる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ごく簡単なものとする計画であったイギリスでの研究集会の成果報告書を、より本格的な刊行物とするために使用し、また予算不足を感じていた第4年度目の課題(東洋の歴史との比較、次の研究課題と資料調査)について予算を充てることで、充実した内容となるようにする予定である。
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Research Products
(5 results)