2014 Fiscal Year Annual Research Report
阿蘇地域を中心とした古墳時代の九州島における情報伝達・文物交流の実証的研究
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26284122
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
杉井 健 熊本大学, 文学部, 准教授 (90263178)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 裕介 別府大学, 文学部, 教授 (30633987)
志賀 智史 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, その他部局等, 研究員 (90416561)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 考古学 / 古墳時代 / 阿蘇 / 平原古墳群 / 漆生古墳群 / ベンガラ / 高塚横穴群 / 古人骨資料 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.阿蘇地域の熊本県側および大分県側の2箇所で古墳の調査を実施した。熊本県側の調査対象は阿蘇市平原古墳群で、6号墳の墳丘および墳頂部の発掘調査、2・3号墳の測量調査、さらに1981年に調査され未報告のままとなっていた1号墳石棺およびその出土遺物についての調査を行った。おもな成果として、6号墳は、主体部構造の確認には至らなかったが、葺石を良好に残す2段築成の円墳(直径30~31m)であること、3号墳は方墳の可能性があることが明らかとなった。また6号墳の時期は古墳時代中期前葉から中葉、3号墳は中期後葉と推測できた。他方、大分県側では豊後大野市漆生古墳群の測量・発掘調査を行った。その結果、大久保1号墳は2段築成の前方後円墳(墳頂36m)であること、方墳との指摘のあった城山古墳は削平が著しく、墳形の確定には至らないことなどが示された。また、出土遺物がほとんどないため時期の判定は難しいが、前期に属す古墳群である可能性が指摘された。 2.阿蘇地域の古墳関係資料、集落関係資料の収集作業を開始した。その作業を通じて、未報告ながら阿蘇地域の古墳時代を考察するうえで重要と思われる古墳出土資料をいくつかピックアップした。なかでも高森町高塚横穴群出土の武器・武具は、阿蘇地域を介した文物交流を考えるうえで重要と判断されたため、調査・分析の実現の可能性を探ることとなった。また、熊本県地域出土の未報告の古人骨資料についても調査を開始することに決定した。さらに、大分平野の古墳出土埴輪、および弥生時代から古墳時代の赤色顔料(ベンガラ)について、資料の収集と分析を進めた。 3.2015年3月15日、大分県豊後大野市中央公民館を会場にして調査研究成果報告会を開催し、それぞれの調査・研究の進捗状況を披露した。この報告会は一般にも公開するかたちで実施し、調査・研究成果の社会への発信に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、阿蘇地域を介した古墳時代の情報伝達・文物交流のあり方を、具体的な考古資料を通じて明らかにするというものである。 そのためには古墳を実地に調査することが必須であり、研究第1年目の平成26年度は、そのためのフィールド調査を軌道に乗せることが、もっとも重要な課題であった。それを、九州島の東西にある大分県側および熊本県側で実現できたことは、今後の研究の進展にとって大いに有益なことである。 フィールド調査と並行して、既存の古墳出土遺物の比較を通じたモノの動きを具体的に考察することも重要な課題である。これに関しては、資料収集作業を進めるなかで、次年度以降に整理・調査・分析対象とするべきいくつかの資料を抽出することができた。これは今後の研究の発展に直結する大きな一歩である。また、当初からその重要性を認識していた埴輪や赤色顔料(ベンガラ)の調査も着実に行うことができた。 ただし、集落関係資料の収集作業が若干遅れ気味であり、これは改善すべき点である。したがって、上記区分を(2)と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
熊本県阿蘇市周辺および大分県豊後大野市周辺での、古墳を対象としたフィールド調査を継続する。これに関連して、新たな調査対象古墳を追加する可能性も考えている。 資料収集作業を通じて抽出した既存の古墳出土遺物の整理・調査・分析の実施を実現する。そのためには、関係各位・機関との調整を図る必要があるが、これについては研究協力者の助けを借りながら、すでに実行に移している。 なお、今年度の資料収集作業を通じて、阿蘇地域の集落関係資料がきわめて少ないことも明らかになりつつあるので、これに関しては古墳出土資料の分析によってその内容を補うことも考慮に入れながら、今後の研究を進めたいと考えている。
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Causes of Carryover |
フィールド調査の実施において地元の公民館を宿舎に借用するなどの倹約に努めたこと、資料収集作業をアルバイト等を使用せず研究代表者自身で行ったこと、可能な限り既存の機器や物品を利用したこと等により、次年度使用額が生じた。 こうした倹約を行ったのは、①研究を進めるなかで、次年度に新たなフィールドを対象とした調査にも取り組むことを計画し始めたため、それに必要とされる経費(三次元計測に係る費用等)を確保する必要が考えられたこと、②研究の第2年目以降に整理・調査・分析することを計画した既存資料の多くが鉄製品(甲冑・鉄鏃等)や古人骨資料であったため、それらの資料化・分析には多くの費用(物品費、研究協力者等への旅費・謝金)が必要となることが予想されたこと、③最終年度の配分予定額のみでは報告書の刊行が難しくなることが予想されるため、それを見越した基金助成金の使用計画を立てたこと、などがおもな理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
1.新たなフィールドを対象とした古墳の測量・発掘調査にかかる費用として使用する。 2.鉄製品や古人骨資料の整理・調査・分析にかかる費用として使用する。 3.研究の最終年度(平成29年度)に出版することを予定している報告書の作成経費として使用する。
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Research Products
(5 results)