2015 Fiscal Year Annual Research Report
北海道における先住民族の「知」の接合に関するアクション・リサーチ研究
Project/Area Number |
26284135
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
ゲーマン・ジェフリー ジョセフ 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (80646406)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
飯嶋 秀治 九州大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (60452728)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 文化人類学 / アイヌ民族 / 先住民族 |
Outline of Annual Research Achievements |
H27年度は、26年度当初の研究計画で予定していた国際研究合宿の開催が実行できたとともに、H27年度はじめに構想した地域調査が地域国際研究会という形で結実した。また、アイヌメンバーの提案により、ロシアのカムチャトカを訪問し、終戦後三回目と思われるアイヌ同士の国際交流を実現させた。研究の目的である研究者、海外先住民族の学者およびアイヌ民族の人々が共同で先住民族の「知」の接合について考え、話し合い、理解を深める作業が着々と進んだ一年間であったといえる。さらに、10月にトロムソ大学の研究者を北海道に招へいして、開催した国際研究会が地域のアイヌの方々に好反響を呼んだことや、H25に開催したシンポジウムでの海外先住民族出身講師の講演録抜粋をアイヌの支援団体が出版した本に掲載することができた。研究プロジェクトの成果を北海道大学の教育・研究体制に還元し、それを地元のアイヌの人々に開かれた形で提供することにより大学と地域の連携に貢献できた。これらは当初掲げた目標の確実な成果である。
一方で、プロジェクトのアイヌメンバーの主導によるアクションリサーチの側面が順調に進んでいる。H27年度上旬に構想した、地域調査の実行を通じて、調査の中心を地域に移すという提案や、ロシア行きの提案がアイヌの参加者から発生したものであることや、地域研究会の開催地や札幌の研究会の参加者について、常にアイヌの協力者に相談した成果である。
これらの研究活動を通して得た知見はH27年度において次の学術大会で発表してきた:1)台湾のAcademia Sinica、2)東京のCanadian Association of Japan Studiesの年度大会、3)ワシントンのNative American and Indigenous Studies年度大会、4)千葉県の中央ヨーロッパ東ヨーロッパ学会、5)九州人類学会。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた国際研究合宿はやや遅れ気味であるが、それにとって代わる地域の国際研究会を換算すると、研究計画書の柱であった先住民族の「知」の接合の主な要因やそのメカニズムに関する分析作業は順調に進んでいる。しかしそれぞれの要因の相互関係や、プロジェクトのアイヌ民族参加者にとっての意義に関する更なる分析が必要と思われる。一方で、ロシア交流の成果は当面地域の政治的な絡みから、信頼関係づくりには時間を必要としそうで、プロジェクト期間内にデータを一般公開できるかどうかは明言できない状況にある。但し、先住民族アイヌの「知」を中心とした断続的な交流に向けた感触を得たことは確実であるため、今後が期待される。
上記のように、アイヌメンバーの提案であった地域の研究会の開催やロシアとの交流ができたことがプロジェクトのアクションリサーチの構想からすると大きな成果である。一方で、当初予定していたアクションリサーチに関する成果発表会は多少遅れている。今年度からプロジェクトに新たに加わった5-6人のアイヌ民族の方々との協議により、彼らの出身地域への発信の形態や、研究成果の発信のありようについて、さらなる話し合いが要される。また、文字媒体より口頭の伝承を好む、海外先住民族出身の活動家との間に協議が必要であり、本年度もそれらが実現できるよう、数回の研究会を予定している。
なお、研究代表者がつとめる北海道大学教育学院の別組織である教育学部が教育の一環として実施しているフィールドワークを、アイヌの地域でも行ったこと、他学部のアイヌ講師の招へいへの協力や、本格的な調査に向けて北海道のある地域へ継続的に予備調査に通った等、現在萌芽的に行っている地域・組織・人との関係性つくりにより、今年度に科研プロジェクトに新たな要素が加わる可能性があることも付言に値する。
|
Strategy for Future Research Activity |
アイヌの「知」の接合に関わる要因について、更に話し合いが深められるよう、今年度予定している研究会までに記録の分析を進めている。今まで研究会で出てきた課題について、成果を年度末に報告書にまとめ、国際シンポジウムの形で発表ができるよう、今年度内に数回の合同研究会・編集会議や国際研究合宿を行い、課題のさらなる分析を予定している。
一方で、簡単に会うことができないロシアのアイヌの方との話し合いはインターネット上で継続する予定で、プロジェクト期間後にも関係性が発展できるよう努力する。更に、今年度から開始した地域との交流の結果一つとして、北海道大学に対する地域開発への協力の依頼を市民団体の代表から受けており、現在基礎研究の段階にあるプロジェクトがより応用的な側面を帯びる可能性が出てきたので、地域の方々との継続的な話し合いにより、実際的な研究計画ができるよう努める予定である。
最後に、研究プロジェクトのアクション・リサーチの側面には関わっていないが、その可能な成果の一つであるフィールドワークやゲスト講師の体制づくりといった異文化間理解教育への応用の検討、現在予備調査に行っているアイヌの民族教育に関する調査の継続等に取り組む予定である。
|
Causes of Carryover |
3月に執行した分の支払いが4月になってしまったため、次年度使用金額が生じた
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
4月の支払いより、既に使用済みである。
|
Research Products
(28 results)