2014 Fiscal Year Annual Research Report
ヨーロッパにおける多元的法秩序の調整メカニズム―制度設計と「裁判官対話」
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26285012
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 洋一 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (50201934)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
寺谷 広司 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (30261944)
濱本 正太郎 京都大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (50324900)
須網 隆夫 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (80262418)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | EEA法 / EFTA法 / EU法 / ヨーロッパ人権法 / 国際法 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度の研究計画の柱は,第一に,研究の基礎となる文献・資料の系統的調査・収集,第二に,共同研究者間での討議による問題意識の明確化,第三に,ヨーロッパでの調査であった. 第一の系統的文献・資料調査・収集については,まず内外の文献・資料をリストアップするとともに,EEA研究に不可欠な英独語学術雑誌であるにも拘らず,国内所蔵の無いEuropean Law Reporterのバックナンバー入手に着手した. 第二の共同研究者間の討議による問題意識の明確化については,まず,本研究申請後に寄稿を正式に要請されたEFTA裁判所創立20周年記念論文集に,伊藤,須網が論文を発表することができたこと,第二にBaudenbacherEFTA裁判所長官の9月来日時の講演会において,濵本が対照報告を行い,国際裁判所における外国法の参照に関する問題状況につき意見交換ができたことを挙げることができる.これまでの研究において,各自がある程度の方向性を見出しつつあるが,更に具体的な問題群を特定し,研究を深めるための準備作業として,国際法研究者とヨーロッパ法研究者との有益な討議となった. 第三のヨーロッパでの調査・資料収集については,共同研究者全員が,2014年6月に開催されたEFTA裁判所主催の同裁判所創立20周年国際シンポジウムに参加し,その機会にEFTA裁判所の関係者,EEAの「監視委員会」,EU裁判所,欧州委員会等で面談を行うことができたことの意義は大きい.まず,EEAの条約規定自体とその運用の間には相当なギャップが存在することが指摘されていたが,そもそもそのようなギャップの存在も,文献だけではなかなか分からないうえ,またシンポジウム自体およびそれに続く祝賀会自体が,一種の非公式な「裁判官対話」の場となっていることを実際に体験する得難い機会となったからである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究計画の柱の第一に挙げた系統的文献・資料調査・収集については,EEA研究に不可欠な英独語学術雑誌であるにも拘らず,国内所蔵の無いEuropean Law Reporterのバックナンバー入手に着手したものの,円安等の事情もあり,当初予想していた以上に高額であることが判明したため,予算の制約上一挙に入手するのを断念せざるをえなかった. 第二の共同研究者間の討議による問題意識の明確化については,EFTA裁判所創立20周年記念論文集に,伊藤,須網が発表した論文,EFTA裁判所Baudenbacher長官の9月来日時に議論の対象となった,国際裁判所における外国法または他の国内・国際裁判所判例の参照問題が今後の研究の手がかりとなるのではないかとの印象を得たところである.その意味で,これまでの研究において,各自がある程度の方向性を見出しつつあったが,更に具体的な問題群を特定し,研究を深めるための準備作業を着実に進めることができたと言えよう. 第三のヨーロッパでの調査・資料収集については,共同研究者全員が,2014年6月に予定通り開催されたEFTA裁判所主催の同裁判所創立20周年国際シンポジウムに参加し,その機会にEEA法の関係者と精力的に面談を行い,謂わば「裁判官対話」の舞台裏をも垣間見ることができた点で,当初の計画通り,あるいはそれ以上の収穫をえることができたと言える. ただ,2014年末以降になって,当初の計画では可能性を認識しつつも,帰趨が明らかでなかったイギリスのEU残留を問う国民投票問題の可能性が現実化してきたこと,更にEU裁判所が,2014年12月の意見において,EUのヨーロッパ人権条約加盟案につき,基本条約違反判断を下すことになったことについては,特に後者は,本研究にとって重要な事件であったが,最近の出来事であったため,未だ十分に検討することができなかった.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度においても,初年度の三つの柱を基本的に継続する予定である. 第一の柱である,文献・資料の系統的収集継続の必要性については言うまでもない.これまでの調査から,残念ながらEEA法については,EFTA裁判所の財政的・人的資源の制約ゆえに,EU裁判所におけるような加盟国横断的な文献・判例評釈情報のデータベースが存在していないことが判明したこと,また研究対象国には,日本の比較法研究の蓄積の手薄な国が多いため,地道にEEA関係各国毎の文献調査を継続せねばならない. 第二に,共同研究者間の討議による問題意識の明確化を引き続き図ることにしたい. 計画立案段階において,本研究課題に密接な関係を持ちうる三つの出来事として,第一に,スイス・EU間協定の改定問題,第二に,イギリスのEU残留を争点とする国民投票,第三に,EUのヨーロッパ人権条約加盟およびそれと関連するヨーロッパ人権裁判所の制度改革問題を予想していたが,後二者につき昨年末から重要な展開が見られたからである.まず,イギリスのEU残留を争点とする国民投票の可能性が現実化してきたことにより,EEAのEFTA側加盟国の拡大につながる可能性が生じてきた.また,上記第三の問題につき,EU裁判所が,2014年12月の意見において,EUのヨーロッパ人権条約加盟案が,EU法の自律性を損なうことを理由とする基本条約違反判断を下したことにより,同条約案の大幅な見直しが避けられない状況となった.現在,同意見につき評釈が現れ始めているところであり,既に同意見をテーマとする研究集会がヨーロッパにおいて企画されつつある.今後の制度設計・条約再交渉が改めて検討事項となった結果,今年度以降,それに伴い少なからぬ文献が生産されることが予想される. 第三に,ヨーロッパにおける調査研究も,前述のような新たな動向を直接的な接触によりつかむために不可欠である.
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Research Products
(6 results)