2014 Fiscal Year Annual Research Report
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26285046
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
吉原 直毅 一橋大学, 経済研究所, 教授 (60272770)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 経済理論 / 経済的脆弱性 / 社会的選択 / 搾取問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
市場経済システム下での経済的抑圧問題を搾取的問題といわゆる「社会的排除」問題とに概念的に分類する必要性について言及するサーベイ論文をディスカッション・ペーパーとして書き上げた他、サーベイ論文の専門誌に投稿し、現在、改訂・再投稿のプロセスにある。 また、Veneziani氏との共同研究によって分析してきた妥当な搾取の定義についての哲学的背景を明らかにした論文を書きあげ、ロンドン大学での国際ワークショップで報告・討論し、この分野の世界第1線の哲学研究者であるSteiner教授やVrousalis博士などとも交流を持った。 また、完全競争均衡下の搾取関係の継起性に関する動学的一般均衡論的分析の研究を開始し、技術革新と資本主義経済の収益性に関する新たな知見を導く研究成果を得た。この研究は現在、なお、進行中である。 また、社会的不遇優先性基準と平等主義的処遇の基準との原理的緊張関係に関係する研究として多元的なベーシックニーズを全ての市民に保証する社会選択ルールの可能性を追求する論文を書いた。この論文は、現在、あるGeneral journalで改訂・再投稿のプロセスにある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H26年度で概ね6本のディスカッション・ペーパーを新たに仕上げている。また、H26年度以前に書き上げた論文を含めた学術雑誌投稿中の論文のうち、Revise and Resubmitの段階にあるものが現在6本ある。そのうちの3本はReviseの作業が終了して、再投稿を終えているか、ないしはまもなく再投稿の手続きを行う段階にある。これらの研究論文のテーマは、市場経済システム下での搾取的経済的抑圧問題に関わる論文、社会的不遇優先性基準と平等主義的処遇の基準との原理的緊張関係に関係する研究として多元的なベーシックニーズを全ての市民に保証する社会選択ルールの可能性を追求する論文、完全競争均衡下の搾取関係の継起性に関する動学的一般均衡論的分析の研究、経済的抑圧から自由な衡平的資源配分の分権的な実行可能性に関わる論文などである。 また、これらの研究論文をInternational Meeting for Social choice and welfare, ASSA, Society for Advancement of Economic Theory, Eastern Economic Associationなどの国際会議での報告の機会を得た他、国内外のワークショップやコンファレンス等に招かれての報告も、マサチューセッツ州立大学アーマスト校、ニューヨーク州立大学アルバニー校、ロンドン大学クイーンメリー校、慶応大学、東北大学など、多数の機会を得ることができ、国内外の多様な研究者との研究交流を推進できた。上記の研究テーマの論文の執筆や報告、再改訂作業などに追われていたこともあり、市場経済システム下での「社会的排除」の原理的生成可能性についての研究は、標準的なワルラス型完全競争市場モデルの拡張を行い、社会的排除の概念の数理的定式化を行う作業にはまだ着手できていない。これは今までにない新しい研究テーマであるだけに、まだアイディアが完全に成熟しきっていない段階である。
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Strategy for Future Research Activity |
搾取的経済的抑圧問題の研究は、研究代表者の吉原と研究協力者のRoberto Veneziani准教授(University of London at Queen Mary)との共同研究を中心に引き続き、推進する。妥当な搾取の定義についての哲学的背景を明らかにし、論文にまとめる作業を継続する。また、その定義に基づく搾取測度の公理的研究、及び完全競争均衡下の搾取関係の継起性に関する動学的一般均衡論的分析を継続する。また、技術革新と資本主義経済の収益性に関する新たな知見を導く研究をまとめ、ディスカッション・ペーパーに仕上げる。さらに、搾取的経済取引に関する人々の公正観についての調査を行う経済実験を、吉原とRoberto Veneziani氏、及び実験経済学研究者のPeter Matthew 教授(Middlebury University)との共同研究として開始する。 また、被災者の基本的ニーズに関する絶対的脆弱性問題を解決する研究は、吉原と研究協力者のYongsheng Xu教授(Georgia State University)との共同研究として行う。請求問題(claim problems)に関するメカニズム・デザイン論の発展的アプローチを採用し、1次元の空間で論じられてきた従来の請求問題と異なり、本研究では原理的に多次元請求空間上でのニーズ財配分メカニズムの理論的設計問題を考える。ニーズ充足の不十分さを等しく配分する均等負担ルールと、各ニーズ財をその充足の緊急度の最も高い個人に優先的に配分するルールという2つの解を提起し、それぞれの性能の違いを公理的に分析する。 また、市場経済システム下での「社会的排除」の原理的生成可能性についての研究は、Roberto Veneziani氏、Yongsheng Xu氏などのこれまでの共同研究者たちとの意見交流を通じて、標準的なワルラス型完全競争市場モデルの拡張を行い、社会的排除の概念の数理的定式化を行う作業に着手する。
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Causes of Carryover |
現在(再)改訂作業中の論文や新たにディスカッション・ペーパーとしての仕上げが可能な段階の論文等、H26年度中に作業が終了しなかった校閲対象論文が最低でも5本確実に存在する。その5本分に相当する校閲謝金分を、次年度使用に廻す必要があった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
搾取測度の公理的研究、及び完全競争均衡下の搾取関係の継起性に関する動学的一般均衡論的分析、技術革新と資本主義経済の収益性に関する新たな知見を導く研究、等々の研究会議および作業を集中して行う為に12月にロンドンに2週間ほど出張する。以上の研究プロジェクトの打ち合わせや作業の他、搾取的経済取引に関する人々の公正観についての調査を行う経済実験に関する、吉原とRoberto Veneziani氏、及びPeter Matthew 教授との研究打ち合わせおよび作業の為にも、7月~8月に約2か月間米国アーマストへ出張する。 また、被災者の基本的ニーズに関する絶対的脆弱性問題を解決する研究を、吉原と研究協力者のYongsheng Xu教授(Georgia State University)との共同研究として行うため、その計画遂行の為の研究打ち合わせの為に、9月に米国アトランタへ2週間ほど出張する。
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Research Products
(5 results)