2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
26285046
|
Research Institution | Kochi University of Technology |
Principal Investigator |
吉原 直毅 高知工科大学, 経済・マネジメント学群, 客員教授 (60272770)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
後藤 玲子 一橋大学, 経済研究所, 教授 (70272771)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 経済理論 / 経済的脆弱性 / 社会的選択 / 搾取問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
Roberto Veneziani氏(Leader, University of London at Queen Mary)との共同研究によって分析してきた妥当な搾取の定義についての哲学的背景を明らかにした論文が、投稿先のEconomics and Philosophy誌より改訂・再投稿の通知を受け、改訂作業を行っている。 妥当な搾取測度の公理的研究に関しては、異質労働の存在する生産経済の論脈で再構成する研究論文が、Cambridge Journal of Economics誌にアクセプトされた。 また、異時点間資源配分問題の論脈で再構成する研究論文を完成させ、Social Choice and Welfare 誌に投稿し、改訂・再投稿の依頼に基づいての改訂・再投稿作業を行い、現在、ジャーナルからの最終返事を待つ状態にある。 金子創氏(慶応大学経済学部助教)との共同研究として行ってきた国際貿易問題の論脈で生ずる先進国-途上国間の不等価交換問題として指摘される搾取関係の継起性に関する動学的一般均衡論的分析は、従来の文献では議論されたことのなかった均衡集合の存在を新たに証明し、そこに属する均衡では搾取関係の継起性に関する従来の文献による知見とはかなり異なる新たな知見が得られた。それらの成果を纏める研究論文の完成を待つ段階にある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトで開始した研究論文のうち、昨年度3本が、Journal of Economic Surveys誌やMetroeconomica誌などのレフェリー制国際学術誌で公刊される事が決まった他、今年は新たにCambridge Journal of Economics誌やMetroeconomica誌などへの掲載が決まっている。また、Social Choice and Welfare 誌に再改訂中の論文を始め、最終アクセプトに近い段階にある論文が3本ほどある。 また、国際貿易問題の論脈で生ずる先進国-途上国間の不等価交換問題として指摘される搾取関係が、完全競争均衡下で動学的継起性を有する為の必要十分条件に関する研究は、主要な定理の証明作業が全て終了し、ディスカッション・ペーパーとして公開すべく最後の詰めの作業の段階にある。 その他、市場経済システム下での「社会的排除」や搾取問題を生じさせる経済成長と所得分配のメカニ ズムが孕む原理的な構造的問題を探求する為の、経済成長・資本蓄積と所得分配の長期動学のメカニズムに関する研究の一環として、完全競争市場における要素所得分配決定のメカニズムを特徴づける研究を新たに開始した。従来の教科書的な説明では、要素所得分配も効率的資源配分の実現を推進する市場の競争原理によって決定されるとされ、「社会的排除」問題も競争メカニズムの敗者へのセーフティ・ネットの充足という視角で対策が考えられる事が多い。しかし、古典派経済学の議論に遡れば、競争原理の問題というよりは、むしろ階級間の政治的抗争関係の反映する余地もある、という議論になる。この様な古典派的視角が、現代の経済理論の体系下で生かす余地を探るのが、この研究課題である。
|
Strategy for Future Research Activity |
諸市民の多様なニーズ充足に関する評価基準を踏まえた厚生概念を定式化する研究は、後藤玲子氏との共同研究として、論文を纏め上げ、いくつかの国際誌に投稿しているが、まだ掲載先が決定していない。これは課題に即して新たに構成した我々のフレームワークが、従来の社会的選択理論・厚生経済学の範疇をかなり超えた性質を持つために、査読者の理解を得る事が困難である事に起因している。これまでは、解析的解明を柱とする論文の性格より純粋理論系の学術誌に挑戦してきたが、まずはもっと方法論的なレベルからの解説を含めた、より概念的な論文として再構成する必要があると判断し、その方向での作業を開始したところである。 妥当な搾取の定義についての公理的分析の研究は、コア研究論文とその副産物的研究論文から為り、そのうち後者に関しては、概ね完成し、査読付き国際誌への掲載もほとんどすべてが決定される段階にある。他方、コア研究論文に関しては、考察する公理の1つの数学的に高度に技術的な性質もあって、主要定理の証明がまだ完成していない状況にある。これに関しても、直面していた困難を解消する数学的解法を最近、開発する事が出来、基本的な証明の見通しが立ち直った状況にある。今後、この方針に基づいて、主要定理の証明を完成させ、ワーキング・ペーパーとして公開できる状況に出来るだけ早く到達したいと思っている。 経済成長・資本蓄積と所得分配の原理的メカニズムを探求する研究に関しては、研究の進展に伴い、要素所得分配決定メカニズムの研究など、新たな課題が出てきている。改めて今後の長期的研究プロジェクトとして継続していく意向である。
|
Causes of Carryover |
妥当な搾取の定義についての哲学的背景を明らかにした論文が、投稿先のEconomics and Philosophy誌より改訂・再投稿の通知を受け、改訂作業を行っているが、これは本質的な改訂稿を要求されている。哲学研究の査読者をも説得できるように叙述を練り上げるのはかなり困難であり、共同研究者との直接的研究ミーティングをこの夏の期間に集中して行って、作業を行う事となった。その為に次年度への期間延長が不可欠となった次第である。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
妥当な搾取の定義についての哲学的背景を明らかにした論文の改訂作業のため、共同研究者との直接的研究ミーティングをこの夏の期間に集中して行う。
|