2014 Fiscal Year Annual Research Report
J.R.コモンズ『制度経済学』と新発見された1927年草稿との比較分析
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26285048
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宇仁 宏幸 京都大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (90268243)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 菜々子 名古屋市立大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (20438196)
塚本 隆夫 日本大学, 経済学部, 教授 (40102412)
徳丸 夏歌 京都大学, 経済学研究科(研究院), 講師 (40646783)
高橋 真悟 東京交通短期大学, その他部局等, 教授 (60726206)
中原 隆幸 阪南大学, 経済学部, 教授 (70264744)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | J.R. コモンズ / 制度経済学 |
Outline of Annual Research Achievements |
J.R.コモンズの主著『制度経済学』と、最近、代表者の宇仁が新発見したその1927年草稿を比較検討することが本研究の目的であるが、本年度は、次のような成果があった。 1.宇仁による論文「J.R.コモンズの累積的因果連関理論――『制度経済学』と1927年草稿の比較分析」『季刊経済理論』第51巻第2号(査読付き)によって、1927年草稿の来歴や概要について、学術的にも認められたかたちで、社会に公表した。加えて、この論文では、コモンズの「累積的因果連関」という概念がどのように定式化されているかも明らかにした。 2.2014年度進化経済学会全国大会において「J.R.コモンズ『制度経済学』の現代的意義」と題するセッションを企画し、本研究の代表者、分担者を含む6名が、『制度経済学』とその草稿などに関して、様々な角度から報告した。様々な方法により進化経済学を研究する様々な研究者と活発な意見交換が行われたことは、本研究の方向付けにとって有益であった。また進化経済学の発展にとっても貢献したと考えられる。 3.2015年6月にパリ第7大学において開催される予定の、「レギュラシオン理論シンポジウム」において、「J.R.コモンズの制度経済学とレギュラシオン理論」と題するセッションを本研究の代表者宇仁が企画し、このセッションで日本から分担者4名が報告することに決定した。本年度は、この報告の準備を行った。このシンポジウムは世界各国から数百名の研究者が参加する予定であり、そこで本研究の代表者と分担者4名が、日本での研究成果を報告することは、世界への発信という意味で意義深い。 4.J.R.コモンズの主著『制度経済学』の邦訳書の上巻をナカニシヤ出版から刊行した。上巻の訳者は分担者の中原であるが、本研究の代表者と全分担者が様々な形で協力した。この主著の邦訳書が刊行されたことによって、日本のコモンズ研究は大きく前進すると期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度においては、次の3つの角度から、1927 年草稿と『制度経済学』との比較検討を計画したが、いずれも順調に進展した。 (1) キー概念の修正に関する検討。1927 年草稿と比べると『制度経済学』においては、コモンズのキー概念のいくつかが名称変更、意味の拡張がなされた。たとえば、①3 つの取引概念のうち一つが、「司法的取引」から「割当取引」へと名称変更された、②価格の人為的コントロールを意味する「専有的希少性」の意味が拡張された。このように諸キー概念が拡張された理由を探るために、代表者と分担者が『制度経済学』の邦訳を共同で進める中で、当時、コモンズが注目した文献を詳細に調査した。 (2) 累積的因果連関論の形成に関する検討。『制度経済学』でコモンズは、ミュルダールやカルドアが提示した累積的因果連関モデルに極めて近い構図に到達していたと考えられる。本年度は、分担者の藤田がミュルダールに関する研究を進めるとともに、宇仁がコモンズが構想した累積的因果連関論の詳細な構図についても分析を深めた。 (3) 主権論と制度進化論の発展に関する検討。「主権」とは、1927 年草稿においては、司法による裁定を意味していたが、『制度経済学』においては様々な継続的事業体(政府、生産組合、企業、労組など)各々を駆動させる「原理」へと拡大された。つまり各事業体の内部における、対立する諸慣習の淘汰と秩序創出を通じて制度は進化するととらえられた。『制度経済学』では、コモンズが「人為的淘汰」と呼ぶ制度進化プロセスの意味が、重層的な複数のプロセスへと拡大した。本年度は中原がレギュラシオン理論の制度的妥協とコモンズの「対立、相互依存、秩序」概念との比較検討を行った。また高橋はコモンズの「行政的アプローチ」について研究を進展させた。さらに塚本はミッチェルの書いたコモンズ論を手ががりにコモンズの制度進化論の構図を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策は次の4つである。 (1) プラグマティズムへの接近状況に関する検討。Hodgson (2003)は、『制度経済学』においてはパースの思想に傾倒したため、その定式化が崩れたと批判した。本研究では、『制度経済学』と1927 年草稿の第4 章「ヒュームとパース」を比較するという方法で、コモンズは経済学方法論としてパースに従うが、行為論としてはデューイの社会哲学に依拠していることを明らかにする予定である。 (2) イリーの諸著作とコモンズとの往復書簡に関する検討。ドイツで学んだイリーは、経済と法の連関を問題とするコモンズの研究姿勢を方向づけた師の一人であり、コモンズに大きな影響を与えてきた。そこで、コモンズの理論が発展した理由を、このマイクロフィルム資料に含まれるイリーの諸著作と諸草稿およびコモンズとの往復書簡を検討するという方法を用いて考察する。 (3) 貨幣主権と政治主権に関する検討。現在、ユーロ圏では、EU がもつ貨幣主権(通貨発行権)と各国がもつ政治主権(課税・財政権)との齟齬という問題が浮上している。テレらは、この主権の齟齬という問題を検討する際に、コモンズの理論が議論の土台となる可能性を見出した。本研究は、1927 年草稿とほぼ同じ時期に書かれた「支払共同体」というタイトルの草稿も検討することにより、「支払共同体」という継続的事業体の原理として貨幣主権が、政治主権とは別のものとして位置づけられていることを明らかにする。 (4) コモンズ理論の現代的意義に関する検討。『制度経済学』では、1929 年大恐慌後のデフレからどのように脱出するかという当時の現実的課題を見すえて、コモンズは自身の概念や理論を発展させたと考えられる。1927 年の草稿と『制度経済学』との比較という方法を通じて、需要不足、失業、デフレなどの現代の経済的諸問題に対応するための制度・政策論としての含意を引きだす。
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Research Products
(12 results)