2014 Fiscal Year Annual Research Report
個人・環境両変数を考慮した視線研究に基づくASD児者への社会的な合理的配慮の検討
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26285207
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
安達 潤 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (70344538)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内山 登紀夫 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (00316910)
齊藤 真善 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (50344544)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 対人認知 / 会話の同調性 / 発話速度 / 自閉スペクトラム症 / 視線研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)TX300の実験システム構築: CRT提示測定に問題はなかったが実空間測定は較正を視線に直行する平面で行わねばならず前後移動対象の測定精度が下がったため実験場面の工夫が必要である。(2-1)一画面同調性知覚課題実験(発話速度):測度は正答率と注視数。統制(ctr)群は30名の大学生・卒業生、臨床(asd)群は研究者が募ったIQ85以上の12名で全者に研究参加の書面同意を得た。各群特性(ctr,asd)はage(20.97±1.71,26.58±8.15,P=.037),IQ(110.9±10.7,109.58±14.24,P=.745),AQ(15.4±5.47,26.92±9.36,P<.001)。発話遅速別の正答率(ctr,asd)は遅 (.912±.026,.812±.041),速 (.849±.027,.703±.043)。遅速×群のANOVAでは遅速(F(1,40)=13.29,P=.001)と群(F(1,40)=1432.06,P <.001)の主効果が認められた。遅速別の群間単純主効果は遅(P=.046)、速(P=.006)。AQ/IQと正答率の相関はctrの速・IQ(r=.386,P=.035),asdの遅・IQ(r=.65,P=.022)のみ有意。注視数データのAOI(目・鼻・口・頬顎・髪・首・身体・背景)×遅・速×群のANOVAではAOI(F(1.81,106.38)=30.52,P<.001)の主効果、発話とAOIの交互作用(F(2.66,106.38)=8.115,P<.001)が認められた。群別・AOI別の遅速の単純主効果はctrは目(遅>速,P<.001)、頬顎(遅<速,P<.001)、asdは背景(遅>速,P=.003)であった。(2-2)動画刺激作成:「発話スタイルの複雑さ」要因で刺激作成、パイロット測定を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)実験環境の構築については、CRT提示については問題を認めなかったが、実空間測定については問題点の把握に留まった。研究代表者が平成27年度より北海道大学への所属変更が確定し新所属での測定条件確定が求められるため、把握された問題点に基づく測定条件の確定を平成27年度に行うこととした。(2-1)やりとり速度(発話速度)要因の実験実施については、今年度の中で実施することができた。データ補完を考えるとすればasd群のN数を増やすことであるが、現時点で12名となっており、論文化が可能なN数には達している。また年齢におけるctr群とasd群との有意差を解消するための協力者リクルートを行う必要性を検討する事も考えられる。実験が示した結果は、正答率で示された会話場面の同調性知覚にctr群>asd群の遂行差があることに加え、速い発話では両群とも遂行が低下するだけでなく群間差が大きくなることが示された。ただし群別にAQ値およびIQ値と正答率の相関分析を行うとIQにのみ、ctr群では速い発話、asd群では遅い発話で有意な結果が示された。速発話では課題遂行が難しくなるため、IQ要因が影響しなかった理由を考えると、ctr群では遅発話が容易であった、asd群では速発話の困難度が高かったという可能性が考えられる。AOIに関する注視数の群間差は有意ではなかったが、速発話状況での注視数変化は、ctr群では目と頬・顎に認められたが、asd群では背景にしか認められずasd群は速発話状況に対して遅発話と同様の注視方略であったことを示唆している。以上の結果は、発話速度という環境要因変化に対する各群の遂行と注視方略の変化の差異を示しており、個人-環境両変数の関連を一定程度把握し得た。(2-2)作成した動画刺激の要因は対人刺激の複雑度ではなく発話スタイルの複雑度となったが、パイロット測定は行い得た。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)実空間での測定条件確定については実空間での大型スクリーンを用いた測定条件を確定する。この条件は較正を取りやすく、その後の実空間での測定に繋がる中間段階と考える。その後、実空間での実験場面を工夫し、実空間での測定の予備検討を行う。また今年度はTobiiグラス2を導入し、TX-300とは装着型アイトラッカーでの実空間測定の予備的検討を開始する。(2)「発話スタイルの複雑性」の変化により対人注視の変化を測定する。測度は発話内容理解の正答率とAOI分析による注視行動。本実験については、H26のパイロット測定の分析結果から実験条件修正の要・不要を検討して実験を実施していく。修正不要の場合にはデータ数を積み上げる。(3)対人刺激の複雑性要因を導入した同調一画面実験の動画刺激を作成する。作成に当たっては、多様な非言語的動作だけでなく、小物を扱う等の要素の導入も検討する。(4)動画刺激による拍手課題を実施する。本実験パラダイムは実空間の遂行測度のみでは既に行っているため、動画刺激を作成して注視行動の測定を付加していく。(5)手遊び模倣課題の予備検討を行う。合わせて、asd幼児協力者リクルートの可能性を開拓していく。(6)平成26年度に実施した「やりとり速度要因」による一画面同調性知覚課題の協力者数の積み上げを行う。 平成27年度は以上の推進方策計画を通じて、個人・環境両変数がasdの人たちの対人認知に及ぼす影響を検討していく。
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Causes of Carryover |
福島大学分(70,000円):臨床群の協力者リクルートに予想以上に時間を要し、予定していた複数の実験パラダイムにすべて参加している協力者がいないことから、謝金の支払いを平成27年度に繰り越したため。 北海道教育大学札幌校分(2,446円):残金が少額なため、消耗品での支出も検討したが、研究目的に沿った、妥当な消耗品が見当たらなかったため、平成27年度に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
福島大学分:平成27年度にかけて、協力してくれている臨床群の協力者の方々に、実験に参加してもらい、データを積み上げていく。 北海道教育大学札幌校分:今年度の分担金と合わせて、本研究の目的に沿った支出としていく。
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