2016 Fiscal Year Annual Research Report
個人・環境両変数を考慮した視線研究に基づくASD児者への社会的な合理的配慮の検討
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26285207
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
安達 潤 北海道大学, 教育学研究院, 教授 (70344538)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内山 登紀夫 大正大学, 心理社会学部, 教授 (00316910)
齊藤 真善 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (50344544)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 特別支援教育 / 自閉症スペクトラム / 視線研究 / 対人交流 / 合理的配慮 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)発話の複雑性課題:22名のAsd成人と30名のTypical成人の2群を対象に、発話の複雑性が発話内容の理解と注視行動に及ぼす影響を検討した。発話の複雑性は標準、倒置、連続の3条件を各2試行で設定し、1分程の短い話をする女性の動画を視聴後、3つの質問で発話の理解を確認した。測度は正答率と1試行の総注視数である。注視の分析領域は目、鼻、口、頬・顎、額、髪、首、身体、背景とした。正答率の結果、群のみに主効果が認められ、Asd群の正答率が有意に低かった(P=.006)。AOIの結果、複雑性,AOIの主効果、群×AOI,複雑性×AOIの交互作用が認められた。また複雑度3条件とも「口,首,身体,背景」で群の単純主効果(Asd>Typ)が、Typ群の「目」で複雑性の単純主効果(標準>倒置>連続)が認められた。 (2)動画による交互拍手課題:ASD者3名を対象に、拍手を用いた協調動作課題を実施した。条件は刺激の種類(円の水平移動、人間の拍手)×モダリティ(映像のみ、音声のみ、映像と音声)×テンポ(一定、変速)×交互性(なし、あり)の4要因24水準の実験計画とした。常時変動する人間の運動周期の特性を考慮し、記録した拍手音の打間と刺激音とのタイミングのズレを評価するために方向統計学の知見を用いて、ズレを角度データに変換後(統計分析フリーソフトRパッケージ;“circular”)、平均及び分散を算出した。協力者の数が少なく結果は傾向としてしか述べられないが、モダリティの影響が他の要因よりも大きいと推測された。具体的には、「音声のみ」条件よりも「映像のみ」条件および「映像と音声」条件のズレが大きかった。「映像のみ」条件のズレの大きさは視覚-運動間の変換の困難さを、「映像と音声」条件におけるズレの大きさは視覚-聴覚間の感覚統合に困難があることを示唆していると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度計画であった「手遊び模倣課題」は幼児の協力者を得ることができず、特別支援学校の児童を対象に実空間での動作模倣課題を計画し準備を進めた。しかし実施時期が冬期となったため、通学バスの遅れで対象児童が不安定となったためデータを収集することができなかった。特別支援学校での研究実施に係わってトビーグラスを投入したため、実空間でのトビーグラスの測定を十分に行うことができなかった。但し、特別支援学校在籍する対象児童でトビーグラスが測定可能であることは確認できた。 交互拍手課題については、注視行動の測定を検討しているが、3名の協力者のうち2名から、動画を見ずに音に集中する方が実施しやすいとの報告があり、実際その2名は、Tobiiによる記録の結果からも、注視時間が大変短いことがわかった。安定的に計測するための教示方法、実験環境の設定を検討中である。実空間での実施については今年度の結果を反映させつつ、実験環境を検討しており、安定的なキャリブレーションを実現するための道具立てに進んでいる。 実空間(授業場面)におけるASD者の視線の動きについて、分析方法を検討中である。ASD の予測的な視線の動きを客観的に評価するために確率的な数理モデル(隠れマルコフ過程)を用いることを検討している。具体的には、数値計算ソフトウェアMATLABを用いて、AOI領域間の遷移確率モデルを作成し、教師による授業方法との関係を検討する予定である。また実空間での会話場面における測定については、会話場面での実験操作要員の一つである発話の複雑性について、動画刺激での実験を行い、今後の実空間における会話場面での実験構成につなげていく。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の進捗状況はやや遅れているものの、複数の実験計画の準備が整ってきており、また北大におけるASD協力者リクルート体制がある程度整ってきたため、平成29年度は、これらについてデータ収集を進めていく。乳幼児の手遊び模倣課題については、分担研究者である内山が係わっている乳幼児発達支援のフィールドに研究依頼をおこなっていく。平成28年度に準備をした実空間における動作模倣課題については、昨年度の特別支援学校に加えて新たなフォールドで実施の可能性を検討していく。 動画による対人認知研究は、同調性の知覚、発話の複雑性の両課題とも、データが積み上がってきているため、これらの結果をまとめていく。また、発話の複雑性については、注視領域を指示した条件での遂行を動画刺激と実空間で測定し、一対一の発話による情報伝達場面での合理的配慮を検討していく。交互拍手課題については、平成28年度の動画刺激実験を実空間での実施に展開していく予定である。その際、今年度の研究結果を反映させ、実験構成と実験環境を改訂していく可能性も見込んでいる。 実空間での実験については、TX-300を用いる実験についてはキャリブレーションの課題がまだ存在している。これについては安定的に注視標を提示できる環境を整えていく。また、トビーグラスについては、実空間での測定が可能であることは確認できているが、その後の分析が煩雑であるため、一試行の時間をできるだけ短く設定し、実験の実施とデータ分析の実行可能性を高めていく。授業場面での予備測定とデータ検討は平成27年度に終了しているため、授業における教員の情報伝達要因を整理し、同じフィールドで平成29年度にデータ収集を進めていく。分析方法については先に述べたように、高効率で精度の高い分析方法を検討中である。 また、平成28年度までに積み上げたデータを学会発表あるいは論文投稿につないでいく。
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Causes of Carryover |
学会発表を予定していたが、研究の進捗が遅れているため、発表に至らなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験の実施に係わる費用に加え、学会発表あるいは論文投稿の費用として使用する。
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