2014 Fiscal Year Annual Research Report
学校適応促進のための「読み書き学習支援」と「社会スキル発達支援」の統合
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26285213
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山本 淳一 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (60202389)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 特別支援教育 / コンピュータ支援指導 / 読み / 書き / 社会スキル / ルール理解 / 視線追跡反応 / 発達障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の実績として、まず第1に、学校適応のための包括的で系統的なアセスメント・ツールを構築した。以下はその評価項目の例である。1.「読み書きスキル」(1)文字(清音、特殊音節)、単語、句、文の「読み」。(2)ひらがな文字(清音、特殊音節)、単語、句、文の「書き」。(3)数。2.「社会スキル」(1)基本的コミュニケーションスキル。(2)日常生活スキル。(3)ルール理解スキル。(4)会話スキル。 第2に、コンピュータを活用した学習・発達支援教材を開発した。「読み書きスキル」として、漢字の学習のためのコンピュータ支援指導プログラムを開発した。各試行において、視覚刺激としての漢字を提示し、同時に聴覚刺激としてその読みを対提示した。2つの刺激の対提示の直後に、絵を提示することで「意味」を付与するプログラムとした。10漢字を1セットとし小学校1年生の発達障害児に適用した。その結果、2回の同時提示訓練で、全問正解に到達した。 第3に、コンピュータ支援教材として、タブレット端末を用いて社会スキルの指導を行った。その結果、適切な行動をあらかじめ画像化してそれを模倣させる「モデリング」訓練ではなく、iPadなどのタブレット端末を用いて、対人相互作用場面における子ども自身の行動を撮影しておき、その行動が出現した直後に映像として子ども自身に示すことで、自分の行動を自分自身でモニターする「ビデオフィードバック」訓練が有効であることがわかった。 第4に、小学校高学年の児童を対象に、読んでいる時の視線追跡反応の計測と、読み理解の評価を行った。その結果、単語提示数が増加するほど、空間スペースの影響を受けやすく、適切な視線移動が難しいことがわかった。「分かち書き」の使用が有効であることが示された。さらに、単語、文節単位で読み指導を行うことで、文章理解も向上することがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
幼小移行支援においては、発達の全体像を客観的に明らかにし、包括的な適応促進を進める統合的方法が重要であるという観点から、先行研究の精査ならびに実際の小学校での予備的観察を通して、発達障害児の小学校適応促進のために、以下のような包括的評価項目を作成した。これまでは、それぞれの発達障害児に対応した少数の項目に焦点を当てて支援を行うことが多かった。それに対して、本研究では、系統的で包括的な評価システムを構築した。発達障害児への支援の結果、項目ごとの違いはあるものの、全体的に向上がみられた。 平成26年度に、本研究で開発したコンピュータによる発達・学習支援教材は、漢字の読みと意味の理解に関するものであったが、「漢字、読み音声、絵」を同時にまた時間的に近接させて提示することで、直接的な選択反応を求めなくても、漢字の読みと意味の理解がなされた。このように、刺激をほぼ同時に提示するだけで、その間の関係が獲得されることがわかったことで、発達障害児に負担を与えずに学習を進めることができる教材であることが示され、設定した目標を達成した。 これまで、読み書きの学習支援でタブレット端末を使った実践、研究は多いが、社会スキルの支援に用いた研究は少なかった。本研究は、相手の目を見る、発表を聴く、手をあげて発言する、おもちゃを貸す、などの社会スキル促進に、その有効性が確認できた点が新しい達成であった。 視線追跡装置を使った読みの研究では、文節間のスペースが読みに大きな影響を与えることがわかった。この点から、読み困難の神経科学的メカニズムとして、刺激の視覚空間上の処理が困難であることが推測できた。文節単位で刺激を提示することで、読みの正確さと流暢性が向上することがわかった。神経科学的メカニズムの解明によって、効果的な発達支援法を検討していくという当初の目的が達成できた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度においても、平成26年度に得られた研究結果を、研究参加者を増やしてさらに発展させる予定である。包括的支援による発達促進を目的として、以下の点に重点的に支援を行う。1.「読み書きスキル」(1)短文字の拾い読み、単語・文節単位での流暢な読み、文の流暢な読みなど。(2)姿勢の制御、鉛筆の操作、消しゴムの操作、なぞりがき、視写、聴写、経験したことを書く、など。(3)大小の理解、順番の理解、数を数える、など。2.「社会スキル」(1)模倣、着衣、あいさつ、順番を待つ、学習の際の姿勢を保つ、など。(2)学校生活のルールを守る、友人と決めたルールを守る、など。(3)質問に応答する、自分から適切なことばで伝える、簡単な相互作用のある会話をする、など。 「読み書きスキル」の学習支援研究として、「絵・画像の命名」「文字・単語読み」「文章理解」「文章表現」の4段階で構成されるコンピュータ支援教材を作成し、その効果を評価する。「文字」「単語」「文節」を単位として画面上に提示し、「視覚的定位→読み→視覚的定位→読み→」の行動連鎖を学習させる。「文章表現」の学習スキル支援教材は、まず文字・単語を「なぞる→見て書く→聞いて書く」という段階で構成し、その効果を評価する。 「社会スキル」の発達支援として、対面場面での支援の獲得の後に、タブレットコンピュータを活用し、自己の行動のセルフモニタリングを含んだ、コンピュータ支援指導を進める。特に、「会話」「コミュニケーション」「自己制御」などへの支援を系統的に実施する。社会スキル教材は、問題場面における人数、文脈の複雑さを段階的に設定する。 研究は、評価と支援と繰り返し、評価尺度間の関係、多方面にわたる支援効果の波及などの分析を行う。得られた結果を集約し、幼児期から学齢期にスムースに学校適応を促す学習・発達支援方法をまとめる。
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Causes of Carryover |
平成26年度には、物品費として、プログラム開発用コンピュータ、コンピュータ支援指導を受ける幼児・児童用コンピュータ、ビデオカメラを購入する経費として、合計700000円を計上した。平成26年度の研究を遂行するにあたって、プログラム開発用コンピュータ、研究参加児用コンピュータ、ビデオカメラについては、活用できる既存の物品があったため、購入する必要がなくなった。 人件費については、研究補助者の雇用を予定していたが、謝金の支払いが必要のない共同研究者とデータ収集を進めることができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度では、コンピュータ支援指導を受ける研究参加児を増やす。そのため、平成27年度使用額となった物品費も含めて、複数台のラップトップコンピュータ、およびタブレット端末を購入し、それぞれを使って家庭で指導を実施してもらい、データ収集を行う。その際、実施状況のデータとするため、ビデオカメラも購入する。複数台の購入により、さらに多くの家庭でのデータ収集が可能になる。 平成27年度よりデータ解析の必要性が高くなるので、謝金を支払って研究補助者を雇用し、データのコード化と解析を効率的に進める。
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Research Products
(8 results)