2016 Fiscal Year Annual Research Report
学校適応促進のための「読み書き学習支援」と「社会スキル発達支援」の統合
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26285213
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山本 淳一 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (60202389)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 発達支援 / 学習支援 / 読み書きスキル / 社会スキル / コンピュータ支援指導 / 発達障害 / 自閉症スペクトラム障害 / 学習障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度には、発達障害児を対象に、就学移行のための総合的なアセスメント(評価)と支援を実施した。評価として、発達障害児の行動と同時に、これまで開発した「小学校1年生で必要とされる行動チェックリスト」、「保護者へのインタビュー」、「保護者ストレス尺度(Parent Stress Index)」を実施した。 開発した「学校適応のための包括的就学移行支援プログラム(Keio School Start Program: KSSP)」を、発達障害児2名をペアとして、2ペアに対して適用した。集団活動の基礎となるスキル獲得のため、個別課題を週1回実施した。「社会スキルのビデオ課題」、「読み」、「協調運動」などをターゲット行動とした。また、獲得した行動の定着をはかるため家庭でも取り組んでもらえるよう「コンピュータ支援指導教材」を開発し、タブレット型PCに実装し、保護者がそれを用いて家庭で支援を行った。同時に、学校シミュレーション場面を設定して、集団指導を週1回実施した。「読み聞かせ」、「経験したことの発表」、「質問応答」、「共通の趣味をめぐる会話」、「姿勢・注意保持」、「共同運動」などをターゲット行動とした。 個別指導、家庭での指導の結果、以下のことが示された。(1)読み書き評価のスコアが向上した。(2)ビデオ映像に対する適切なコミュニケーションを獲得した。(3)大人との間の協調運動が可能となった。集団指導の結果、以下のことが示された。(1)全般的注意、適切な姿勢の保持時間が増加した。(2)指示従事行動(コンプライアンス)が安定して出現するようになった。(3)適切な質問応答が可能になった。(4)問題行動(離席、かんしゃくなど)が減少した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究で、読みスキル、書きスキル、理解スキル、表現スキル、適応スキル、コミュニケーションスキル、社会スキル、集団生活スキルなどの項目をモジュール化し、それぞれに対して、以下の3段階の支援構造を設定して、支援を進めてきた。このことで、現在までにそれぞれのスキルの向上を示すデータを得てきた。支援構造として、以下の設定を行った。(1)個人への支援、(2)セラピストとの相互作用の中での支援、(3)友人(peer)との相互作用の中での支援。特に、個別指導場面、家庭指導場面、学校シミュレーション場面を設定し、獲得が必要な各モジュールに対応させた文脈の中で、学習を進めてきたことが成果につながったと考えられる。 平成27年度には、「読みスキル」、「理解スキル」の学習に関して開発した「コンピュータ支援指導教材」を用いて大きな効果を得た。平成28年度では、読み・理解の促進へのコンピュータ支援指導を継続するのと同時に、小学校で必要とされる「適応スキル」、「コミュニケーションスキル」、「社会スキル」、「集団生活スキル」を映像として作成し、コンピュータプログラムとして実装し、ビデオモデリング手法を用いて指導することで、大きな成果を得た。 多様な支援技法と運用方法を活用し、学習ユニットを最大化することが、それぞれのスキルの「正確性」と「流暢性」の確立につながったと考えられる。 成分分析の結果、以下の支援方法が有効であった。(1)時間当たりの先行刺激・行動・後続刺激の「学習ユニット(learn unit)」を高率で成立させる「高率指示従事行動連鎖(high probability request sequence)」指導方法。(2)興味のある教材を活用する「確立操作(establishing operation)」による「行動改善効果(behavior-altering effect)」。
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Strategy for Future Research Activity |
幼小移行支援について、発達の全体像を客観的に明らかにし、包括的な適応促進を進める統合的方法の効果を明らかにするという研究全体の目的のもと、平成28年度までに、支援プログラムの基本を完成させ、個別プログラムをコンピュータに実装し、その成果を得てきた。大学ラボ、家庭をつなぐための運用方法の成果も明らかになった。おおむね期待通りの成果が得られた。 一方で、以下のような今後の研究課題も見えてきた。(1)個別のコンピュータ支援指導プログラムを完成させることができたので、それらを統合して、階層的なプログラムとして再構築し、それを組み込んだ新たなコンピュータ支援プログラムを作成し、タブレット型PCへの実装化を完成させることが次の研究課題である。(2)就学後の行動に関しては、保護者へのアンケートを中心としたフォローアップの結果、安定した学校適応がなされていることが示された。今後は、実際の学校訪問、詳細な学校場面についての保護者、本人への聞き取りを行うことで、より詳細な条件分析ができると考えられる。(3)セラピスト、教師との対応関係では安定した行動を獲得でき、問題行動もなくなった。しかしながら、友人との「共同会話」、「同期運動」などについては、まだ支援が必要なスキルも存在した。友人との社会的相互作用を「流暢」になるまで移行支援プログラムを継続する(スキル獲得)か、小学校での適応のための基盤づくりを確実に実施する(環境整備)か、についてはさらなるフォローアップ研究が必要である。
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Causes of Carryover |
平成28年度には、新しいコンピュータを購入せずに、既存のコンピュータを効率的に運用することで、発達障害幼児へのコンピュータ支援指導のデータ収集と解析を行った。そのため、直接経費を節約できたことが、次年度使用額が生じた理由である。平成29年度において、追加研究として、参加児の小学校入学後の適応度、学習・発達過程、問題行動、保護者のストレスなどについての、フォローアップ研究を実施することで、幼児期から小学校期への移行過程と、必要な支援方法を明らかにすることができると考えた。新たな映像データベースの作成と個別的なプログラムを統合した新たな包括的コンピュータ支援指導プログラム構築の中心を担う、ホストコンピュータを購入することで、研究目的をより精緻に達成することができる。また、映像データを記号化する作業のための謝金、英語論文を作成するため、英文校閲費も支出する予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
データ処理の完了後、7月をめどに包括的コンピュータ支援指導プログラムの構築に着手する。その時点で、プログラムを統合する上で、最も機能性の高いコンピュータを購入する予定である。収集した映像データを記号化する作業のため謝金を支出する。また、9月に論文執筆を完了し、投稿するため、英文校閲費を支出する。
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Research Products
(3 results)