2014 Fiscal Year Annual Research Report
マンガン窒化物の電気抵抗極大:特異な伝導機構解明と抵抗標準材料への展開
Project/Area Number |
26286038
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
竹中 康司 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60283454)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
生田 博志 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30231129)
金子 晋久 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 研究科長 (30371032)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 新機能材料 / 抵抗標準 / 薄膜 / 逆ペロフスカイト |
Outline of Annual Research Achievements |
金属でありながら電気抵抗-温度曲線に緩やかな極大を示す逆ペロフスカイト型マンガン窒化物Mn3AgNにおいて、マンガニンを凌駕する極めて小さな曲率(2次の抵抗温度係数)β=(1/ρ)(d2ρ/dT2)をもたらすドーパントとしてこれまでに知られていたFe、Inに加えて、Cuを同時置換し、さらにはMnの比率を化学量論の3より増やすことにより、小さな|β|とピーク温度Tpの制御を同時に達成した。例えばMn3.03Ag0.62Cu0.19In0.15Nにおいて、β=-0.20ppm/K2、Tp = 307 Kとなり、室温域で既存材料と比べ遜色ない温度特性を実現した。 単結晶薄膜の合成に関して、通常より20倍程度強力な磁場を用いる強磁場スパッタ法により、基本組成Mn3Ag1-xCuxNの成膜を行った。まず初めに様々に条件を変えて成膜し、成膜条件の最適化を行った。特に、スパッタガスの窒素分圧や基板-ターゲット間隔を最適化した結果、エピタキシャル薄膜を得ることができた。しかしながら、X線回折の結果、ピーク半値幅が広いなど、結晶性が低いことがわかった。そこで、様々な条件でアニール処理を行ったところ、窒素中アニールではむしろ結晶性が低下したが、真空中でアニールすることにより、結晶性が向上することがわかった。真空アニール前の試料では、抵抗率の温度依存性が磁気相転移点で明確な変化を示さなかったのに対し、真空アニールにより結晶性が向上した試料では、磁気転移に対応する変化が明確に観測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電気抵抗-温度曲線に現れる極大の曲率(|β|)と極大を示す温度(Tp)を、構成元素の組成調整によって独立に制御することが難しいMn3AgNに対しては、|β|とTpの同時最適化は、組成の調整を綿密に行うことが求められる、難しい課題となっていた。これに対し、先に見つかっていたIn、Feといったドーパントの添加に加え、Mnの比率も変えることを同時に行うことで、この課題を解決できた。材料開発の上では大きなブレークスルーと言える。 また、単結晶薄膜については、上述の最適化された組成についての成膜こそまだであるが、抵抗温度曲線に緩やかな極大を示す基本組成Mn3Ag1-xCuxNについては、バルク試料と矛盾ない特性を示す高品位薄膜の合成に成功しつつあり、平成27年度以降の研究に道筋をつけることができ。当該マンガン窒化物の単結晶薄膜は、中国を中心に世界各地で合成が試みられているものの、バルク試料の特性とかけ離れたものしか得られていない。本研究の成果によりはじめて、バルク試料との比較、さらには特異な伝導機構の背景にある物理の議論が可能になりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に見出した、βとTpを最適化するための構成元素置換の手法を用い、同程度のβを、室温だけでなくもっと広い温度域で実現する。また、その組成について、精密な電気抵抗評価を行い、温度安定性と経年変化を評価する。 平成26年度の成果をもとに、Tpとβを制御した一連の組成について、単結晶薄膜を合成し、単結晶膜において組成とTpおよびβの相関を明らかにする。例えば基板とのミスマッチによる歪、バルク焼結体における粒界、窒素欠損の差異など、バルク焼結体と単結晶薄膜の物理特性の違いを生み出す要因を検討する。抵抗極大温度Tpについては、研究の当初は磁気転移温度との対応から磁性が決めていると提案されたが、その後の研究で必ずしも磁気転移温度だけで決まっておらず、窒素欠損や、粒界など試料の焼結状態も決定因子となっている可能性が示唆された。また、電気抵抗一般に言えることとして、焼結体での測定結果には粒界等の付加的な効果が含まれてり、抵抗の絶対値やβも影響されている可能性がある。単結晶薄膜とバルク焼結体との結果を比較して、これらの効果を定量的に議論して、Tpとβを決定する因子を明らかにする。 上記課題で得られた単結晶薄膜を用いて直流電気抵抗率等の電子輸送係数の精密測定ならびに、翌平成28年度に本格化する赤外-紫外反射分光による伝導度のダイナミクスの予備的評価を行う。あわせて磁性や磁気抵抗などの物性評価を行い、磁性との相関を調べる。
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Causes of Carryover |
主として、スパッタ強磁場スパッタ法によるマンガン窒化物薄膜の作製において、当初予定していたターゲットより少ない種類のターゲットで実験を効率的に行えたため、スパッタ・ターゲット代や原料試薬費用が予定より少額で済んだことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
その一方で、平成26年度のバルク試料における組成調整の研究成果より、抵抗温度曲線における曲率|β|とピーク温度Tpの最適化は想定していた以上に試行錯誤が多いことが明らかになりつつあり、平成27年度に計画する薄膜試料での機能最適化においては、原料試薬、成膜用基板などで支出が膨らむものと予測される。研究目標達成のためには、平成26年度の未使用経費をそこに充当することが必要である。
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