2014 Fiscal Year Annual Research Report
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26286041
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
AN TOSHU(安東秀) 独立行政法人理化学研究所, Kim表面界面科学研究室, 研究員 (70500031)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | スピンエレクトロニクス / 熱工学 / 排熱利用 / エネルギー効率化 / 磁性 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)スピン波熱移送の高効率化:多結晶イットリウム鉄ガーネット(YIG)試料の厚みと面内サイズのアスペクト比を変化させ、下面の表面スピン波と上面の表面スピン波の間の相互作用を変えて熱移送効率を調べた。同様に、不純物ドープにより飽和磁化とキュリー温度の異なる多結晶YIG 試料とYIG 薄膜についても熱移送効率を調べた。以上の実験において、先ず、異なる形状、熱伝導率の試料において熱移送効率を定量的に抽出する解析手法を確立し、最適な材料と形状の解析を進める体制を構築した。 (2)スピン波熱移送の制御:スピン波熱移送効率を制御する目的でスピン注入による熱移送量の変調を試みた。YIG 試料の下面に常磁性体であるプラチナ(Pt)細線を蒸着して電流を印加することにより、スピン軌道相互作用が大きいPt 細線からYIG 界面へスピン流によるスピントルクが電流の向きに依存して正負の向きに印加され、表面スピン波が増強・減衰され試料端まで運ばれる熱量を変調する。このための実験系を整備して、先ず、室温でのスピン注入によるスピン波熱移送の制御の観測を試みた。この結果、熱移送の制御には成功していないが、実現に向けてPt細線の幅、膜厚の最適化の検討を進めた。 (3)スピン波冷却効果の観測:YIG 試料を用いてスピン波冷却観測のための装置を整備した。平成26年度中に、ヒーターやペルチェ素子により加熱・冷却して温度制御された熱浴に試料を接触させて数十度の温度勾配を試料中に印加する機構、スピン波励起に相当する数100エルステッドの静磁場を印加する機構、赤外線カメラにより冷却効果を観測する機構を大気中で整備した。並行して、真空槽内で同様の実験を行うことができる装置の設計を終了した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
多結晶イットリウム鉄ガーネット(YIG)試料を購入していた三菱電機メテックス社がYIG試料の生産を終了したことにより、新規にYIG試料の購入先を探す必要が生じ研究計画に遅れが生じたが、新たなYIG試料の入手先を確保できた。また、購入を予定していた赤外線温度計測カメラの選定にも時間を要したことにより温度計測装置の構築が遅れたが、目的の性能を満たす赤外線カメラの選定を終えることができた。真空中でのスピン波熱移送計測装置の設計も当初予定より遅延が生じたが、各部品の選定を終了している。
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Strategy for Future Research Activity |
熱移送効果の高効率化と熱移送効果を利用した冷却効果の観測に引き続き取り組む。また、これまでに設計を完了した真空槽内で動作する熱計測装置を用いた実験を開始する。試料と熱電対をマイクロメートルスケールに微細化して熱移送による温度計測を高性能化することにも取り組む。観察試料においては、イットリウム鉄ガーネット磁性絶縁体(YIG) 以外に反強磁性磁性半導体であるマンガンテレル(MnTe)を用い、スピン波熱移送効率を高めてスピン波冷却効果の観測の実現を狙う。この際、キュリー温度やネール温度付近に試料温度を設定する。 さらには、より確実にスピン波冷却効果の観測を実現するために、サブミリメートルサイズの試料と微小熱電対用電極を作成して用いる。これまでに、提案者により見出されたスピン波熱移送効果はマイクロ波源により表面スピン波を励起するためマイクロ波印加により試料温度が上昇してしまい試料冷却を実現することは難しい。本提案ではこれを解決するために試料を温度勾配下におくことで熱的にスピン波を励起し外部からの熱源を排除して温度上昇を防ぎ、スピン波冷却効果の観測を狙っている。一方で、熱スピン波の伝搬距離と熱スピン波の励起強度はマイクロ波励起に比較して小さいことも予想される。平成26年度中にはミリメートルサイズの試料を用いてスピン波冷却の観測を試みたが、平成27年度には、フォトリソグラフィー技術を用いて数百ミクロンサイズの試料とミクロンサイズの微小熱電対電極を作成する。以上より、高精度、且つ、高速に時間分解して試料温度を計測し確実にスピン波冷却効果の観測を達成する。
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Causes of Carryover |
赤外線温度計測カメラの選定、多結晶イットリウム鉄ガーネット(YIG)試料とマンガンテレル反強磁性体半導体材料の購入先の選定、真空中でのスピン波熱移送計測装置の設計に遅延が生じ、次年度にこれらを購入することとなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
赤外線サーモカメラ(平成27年6月納入予定)、高真空チャンバー:排気装置、赤外線透過窓付(平成27年度7月納入予定)、その他の真空部品、磁性材料を早期に購入する。
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