2015 Fiscal Year Annual Research Report
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26286068
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Research Institution | NTT Basic Research Laboratories |
Principal Investigator |
向井 哲哉 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子光物性研究部, 主任研究員 (70393775)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 俊 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (10403130)
生田 力三 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (90626475)
稲葉 謙介 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子光物性研究部, 研究主任 (10564990)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 量子メモリ / 量子通信 / 冷却原子 / アトムチップ |
Outline of Annual Research Achievements |
通信波長と可視光との量子変換技術を持つ大阪大学では、冷却ルビジウム原子を量子メモリーとして利用する量子通信の基礎研究を行った。即ち、光周波数フィルタリングによる微弱光検出技術、および、高繰り返し光パルス計測技術を冷却原子系に組み込んで、次のような遠隔地間での量子相関の計測に成功した。まず、冷却原子集団へ入射した光子をスピン波として原子集団内に保存する。次に、これと同時に発生する反ストークス光を伝令光子として通信波長帯へと波長変換して光ファイバーで伝送した後、同時計測を行って非古典性を確認した。さらに、原子集団から再生した光子との相互相関を測定することで、遠隔地間での量子相関を確認した。本実験は、原子集団を量子メモリーとして、固体の量子変換器を用いた初の量子通信実験(相互相関計測)となる為、論文発表の準備を進めている。 一方、冷却原子技術で蓄積を持つNTTでは、アトムチップ上の磁場トラップ中に生成したルビジウム・ボース凝縮体を、D1線を用いる2光子誘導ラマン遷移によりラビ振動させることに成功した。ここで計測されたラビ周波数、及び、エネルギーシフトのラマン光周波数依存性は、4状態3周波数モデルによる2光子誘導ラマン遷移で理解できることを確認した。計測の結果、共鳴から自然幅の 150 倍以上離れた周波数のラマンパルスを用いた場合、ラビ振動1回程度でコヒーレンスが失われてしまうのに対して、2つの励起状態の中間の周波数でエネルギーシフト量がほぼゼロと成る条件を用いれば、コヒーレンスが 1/e に減衰するまでに量子ビットの反転操作を7回以上実施可能であることを確認した。これらの結果は磁場トラップ中のボース凝縮体を量子媒体とする、光学的量子制御の基礎として重要である。また、フォトニック結晶光共振器についてはSiN基板を用いた第一試作が完成し、これを光で励起する顕微観測系を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
冷却原子系を量子メモリとして用いた量子通信実験に関しては、当初の目標とした「マクロ系での光子-原子結合系」の作製、並びに、「原子-通信波長光子間での量子相関」を達成した。本格的な応用に向けた高効率化に関しては新たな課題が考えられるが、マクロな系については本計画の当初の目標を達成したと考えられる。 一方、オンチップ化に関しては、オンチップ・ボース凝縮体の光学的手段に寄る内部状態の量子制御を先行させた為、光ポテンシャルの導入は計画より遅れている。しかしながら、現在光ポテンシャルの導入を進めており、H28年度前半にはチップ上で、磁場+光ポテンシャル中のボース凝縮体の光学的量子制御が実現する予定である。また、原子-光子間の強結合に向けた光共振器の開発に関しては、NTT研究所内のフォトニック結晶研究チームからの協力を得ながら研究を進めている。具体的には、ナノメートル精度で動作する光学系を導入し、SiNフォトニック結晶光共振器の真空装置内への導入を検討中である。 以上の研究を進めてきた結果、量子通信実験とボース凝縮体を用いる実験との融合を図る上での課題も明らかとなってきた。即ち、MOTを用いる現在の量子通信実験では、9ミリ秒間で原子を冷却し、1ミリ秒間にマイクロ秒の測定を990回繰返す測定のサイクルを1週間程度積算している。この測定を、数十秒に1回生成される凝縮体に適応すれば、9ミリ秒の原子冷却時間が約千倍に延長される結果、測定時間が1000週間(19年以上)となり、現実的ではない。従って、各実験系の融合を図るには、光共振器の導入に寄る相互作用の増強、もしくは、量子通信実験の高効率化は不可欠の課題である。 上記のように、光子-原子ハイブリッド量子系の研究は、遠隔地間での光子-原子間の非古典的な相互相関を実現し、新たな課題を明確にしつつ、おおむね順調に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度(H28年度)は上記の研究進捗を考慮して、大阪大学では非古典イベント数の増大に寄る高効率化を試みる。具体的には、現在の磁気光学トラップに光格子ポテンシャルを導入して原子の運動を制御することで、原子系に書き込まれたスピン波の散逸を防ぎ、量子メモリーの記録時間の延伸を行う。また、光子の記録・再生に光共振器を導入することによる高効率化も検討する。これと並行して、原子系を2重化して、複数の原子集団を用いる量子計測に向けた実験系の改造も行う予定である。 一方、NTTに於いては、誘導ラマン実験により先送りされていた1次元光格子ポテンシャルをアトムチップ系に導入することにより、原子の運動を制御してコヒーレンスの改善を試みる。また、チップ上に複数の原子集団を生成し、それらを独立に制御する実験を実施する予定である。これらの実験技術は、大阪大学で行うマクロ系の技術と同時に開発することで、効率的な研究の進捗を目指している。また、SiNフォトニック結晶光共振器をアトムチップ実験系へ組み込むことで、アトムチップ+光共振器の実験系の構築を行う計画である。 以上のように研究を進捗させ、大阪大学とNTTの実験結果から総合的に判断し、アトムチップ、光共振器、量子波長変換を組み合わせたハイブリッド量子系による量子通信の基礎技術について明らかにする予定である。 なお、NTTの冷却原子実験研究の人的リソースの不足の問題に関しては、本年度も7月より仏国のESPCIより研修生を受け入れて、研究の進捗を図る予定である。
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