2017 Fiscal Year Annual Research Report
Structure of asymptotic solutions of integrable systems and WKB analysis
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26287015
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
竹井 義次 同志社大学, 理工学部, 教授 (00212019)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 完全WKB解析 / 可積分系 / パンルベ方程式 / インスタントン型形式解 / 楕円函数 / 非遺伝性変わり点 / 仮想的変わり点 / 完全最急降下法 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.パンルベ方程式の超級数(transseries)解やインスタントン解は、解のストークス現象や大域的漸近解析を論じる際に重要な役割を演じる。特に、インスタントン解の解析的な意味付けはこの分野における20年来の懸案の問題であったが、昨年度、「バーコフ標準形を通じてパンルベ方程式から楕円函数の満たす微分方程式への変換を構成することにより、インスタントン解に解析的な意味付けを行う」という画期的なアイデアが得られた。本年度はまず、このアイデアをさらに発展させるべく、楕円函数の方程式への変換論とパンルベ方程式の初期値空間及びモノドロミー保存変形との関連についていろいろな予備的考察を行った。新しい明示的な結果を得るまでには至らなかったが、パンルベ方程式の完全WKB解析を次の段階に進めるための準備を整えることができた。同時に、平成30年3月に開催された日本数学会年会函数方程式論分科会での特別講演をはじめ、いくつかの(主として国内の)研究集会でこのアイデアについて研究報告を行った。
2.一方、廣瀬三平氏(芝浦工業大学)、河合隆裕氏(京都大学)、佐々木真二氏(トロント大学)と進めているホロノミック系の完全WKB解析に関する共同研究に関しては、ホロノミック系を次元の低い多様体に制限した際に現れる「非遺伝性の二重変わり点」について新たな知見が得られた。すなわち、通常は解のストークス現象等に関係しないこの不活性な二重変わり点が、制限した微分方程式の低階項に摂動を加えると活性化されることが具体例に対する解析を通じて示された。以前に青木貴史氏(近畿大学)や河合隆裕氏と共同で開発した完全最急降下法を援用して示されるこの結果は、二重特性的な偏微分方程式の解の特異性の伝播理論とも密接に関連しており、非遺伝性の二重変わり点の役割を明らかにする重要な知見であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
非遺伝性の二重変わり点の活性についての結果を除いて、残念ながら本年度は明示的な研究成果は得られなかった。しかし、ここまでの研究経過を振り返れば、「変わり点の交差」が起こる点での解析を軸としてガルニエ系や可積分系の漸近解析を進展させるという当初の研究目標からは多少研究の中心が逸れた感はあるものの、パンルベ方程式の漸近解析に関して「バーコフ標準形を通じて得られるパンルベ方程式から楕円函数の満たす微分方程式への変換を利用して、インスタントン型形式解に解析的な意味付けを行う」という画期的なアイデアが得られたことや、線型のホロノミック系の完全WKB解析に関連して「非遺伝性の二重変わり点」が発見され、さらにその役割も次第に明らかにされつつあるなど、研究はおおむね順調に進展していると判断して差し支えないものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
離散パンルベ方程式のストークス現象を明示的に記述する接続公式の導出は本研究課題の目標の一つであり、そのためにインスタントン型形式解の解析的な意味付けを確立することを目指す。その第一歩として、インスタントン解の解析的意味付けのアイデアの核をなすバーコフ標準形を利用した楕円函数の満たす微分方程式への変換と、パンルベ方程式の初期値空間や周期積分、モノドロミー保存変形との関連を明らかにしたい。Lisovyy 等による conformal block に基づくパンルベ方程式のタウ函数に対する最新の結果等を参考にしつつ、共同研究者の N. Joshi 氏(シドニー大学、豪)や小池達也氏(神戸大学)、岩木耕平氏(名古屋大学)等と密接な連絡を取りながら研究を進める。さらに、こうした楕円函数の満たす微分方程式への変換と離散パンルベ方程式の関連についても考察してみたい。
また、ホロノミック系に付随して現れる高階常微分方程式の非遺伝性の二重変わり点については、本年度に得られた新しい知見がどの程度一般的に成立するのかを検証することが当面の課題である。完全最急降下法がこの問題の解析に予想以上に有効であることがわかったので、完全最急降下法の数値解析を得意とする佐々木真二氏(トロント大、カナダ)の協力を随時仰ぎながら、この方面の解析を推し進める。さらに、この問題は物理学における非断熱性遷移確率の問題とも深く関連することが明らかになりつつある。非断熱性遷移確率の問題や「変わり点の交差」現象との関連にも留意しながら研究を進めたい。
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Causes of Carryover |
本年度は、私立大学への異動に伴って本務の用事が増え、研究報告のための国内外での研究集会への参加や、共同研究者である N. Joshi 氏が所属するシドニー大学への訪問日数等を、当初予定していたものより減らさざるを得なかった。次年度使用額が生じたのはこうした理由による。異動後の新しい環境にも多少慣れてきたので、本務との調整をうまく行って、最終年度にあたる次年度は、本年度からの繰越し分と翌年度の研究費を合わせて用いることにより、研究成果報告のための出張や共同研究者との交流を積極的に行っていく予定である。
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