2015 Fiscal Year Annual Research Report
瞳再配置光学系を用いた広帯域高コントラスト偏光観測システムに関する研究
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26287026
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
村上 尚史 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80450188)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 光赤外線天文学 / 応用光学・量子光工学 / 太陽系外惑星 / コロナグラフ / フォトニック結晶 / 偏光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、すばる望遠鏡などの既存の地上大型望遠鏡や将来のスペース望遠鏡への、高コントラスト観測システムの搭載を目指した機器開発を推進することである。開発する観測装置は、太陽系外惑星、特に地球型惑星の光を直接検出し、その詳細な分析を通じて生命活動の痕跡を発見することを究極目標とする。太陽系外惑星を直接観測するためには、すぐ近傍の明るい恒星光が観測の妨げとなるため、恒星光のみを強力に除去しなければならない。我々は、恒星光を除去するための手法として、焦点面位相マスク法の開発を進めている。
焦点面位相マスク法は、望遠鏡瞳が円形であれば、点光源と見なせる恒星を理論上完全に除去することができる。しかしながら、実際の望遠鏡は望遠鏡瞳に副鏡とその支持機構(スパイダ)の影が映りこんでしまい、これが観測性能を著しく劣化させてしまう。この問題を解決するため、本研究課題では新たに「瞳再配置法」を提案し、その開発を推進している。H26年度は、提案した瞳再配置法の簡易版シミュレータを構築し、実証試験に着手した。H27年度は、この簡易版シミュレータを発展させ、提案する手法により観測性能が向上することを実験的に実証した。さらに、実観測により近いフルシステムの装置シミュレータ構築に着手した。
また、高コントラスト観測システムの問題点として、観測装置の光学収差により恒星光が完全に除去できず、スペックル状の恒星ノイズが惑星観測を妨げてしまうことが挙げられる。この問題を解決するため、本研究課題では「スペックル相関除去法」という新たな技術による系外惑星の偏光観測法を提案し、H26年度にはそのキーデバイスとなる液晶空間光変調器(LCSLM) を購入した。H27年度は、主に計算機シミュレーションを通じた本手法の性能評価などを実施し、購入したLCSLMの動作試験にも着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度当初に計画していたH27年度の実施計画として、(1) LCSLMを用いたスペックル相関除去法の計算機シミュレーションおよび実証試験の両面での性能評価、(2) 広帯域で動作可能な焦点面コロナグラフマスクおよび関連技術、特に本研究課題で購入したLCSLMによる高コントラスト補償光学の開発、(3) 瞳再配置法のフルシステムのシミュレータ構築、実証試験および計算機シミュレーションの両面での性能評価、であった。
(1)については、現在はLCSLMの動作試験を推進している段階であり、スペックル相関除去法の本格的な実証試験までは至らなかった。しかしながら、計算機シミュレーションを通じた詳細な性能評価(様々な実験環境を模擬したシミュレーション)を実施するなどの進展があった。(2)については、本研究課題を推進する過程で、LCSLMを活用した光波面補正技術により恒星スペックルノイズを除去する「ダークホール技術」を新たに提案した。提案する手法は、焦点面マスク法にも適用可能であると考えており、達成できるコントラストがさらに向上すると期待される。上述のLCSLMの動作試験は、スペックル相関除去法およびダークホール技術の実証試験を並行して進めるための準備としての位置づけである。最後に(3)について、瞳再配置法では、副鏡とスパイダの影を避けるように複数個(通常は4個)のサブ開口を取り出す必要がある。これまでに、2個のサブ開口による簡易版シミュレータを構築しており、H27年度もその開発を推進し、本手法により観測性能が向上しうること実験的に実証した。さらに、4個のサブ開口を用いた、より現実的且つ高効率なフルシステムのシミュレータ構築に着手した。特に、H27年度は、そのための重要なデバイスであるピラミッド型ミラーの製作を実施した。
上記の成果を総合的に考えて、全体としておおむね目標通りに進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
H27年度の進捗を受けて、上述の(1)から(3)の開発項目を継続する。(1)のスペックル相関除去法については、現在実施しているLCSLMの動作試験の完了後、高コントラスト偏光観測システムのシミュレータを構築し、実証試験を実施する。(2)の広帯域で動作可能な(アクロマティックな)焦点面コロナグラフマスクおよびその関連技術開発については、上記(1)とも関連し、LCSLMを用いた光波面補正技術(ダークホール技術)の開発を推進し、焦点面マスクコロナグラフと組み合わせた光波面補正の理論や装置システムの設計を行う。本開発項目は、我が国独自技術による極限高コントラスト観測用テストベッドを構築するという本研究課題を推進する上で、極めて大きな意義がある。(3)の瞳再配置法については、4個のサブ開口によるフルシステムのシミュレータ構築を継続し、提案する技術により観測性能が向上することを、フルシステムで実験的に実証する。具体的には、副鏡の影をもつ望遠鏡瞳と焦点面マスクコロナグラフを組み合わせたときに比べ、瞳再配置法を導入することにより高いコントラストが得られることを実証する。また、瞳再配置法は光波干渉技術を用いているため、シミュレータ構築においては光学素子のマウント(保持)機構を安定化させる必要がある。そこで、現在すでに取り組んでいるが、計算機シミュレーションを通じて必要とされる光学システムの安定性を評価し、その結果をもとにシミュレータの安定化を図る。
以上の開発項目を実施することにより、本研究課題で提案した観測技術を統合し、我が国独自の技術による高性能な高コントラスト観測システム実現に向けた見通しを得ることが目標である。また、本研究課題で得られた成果を、国際会議および国内学会などの場で積極的に発表していく。
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Causes of Carryover |
瞳再配置光学系を構築するため、使用する光ビームの大型化が必要となることが明らかとなり、そのための大型レンズの製作を検討していた。しかしながら、その後の検討により、波長依存性の観点からもレンズ系ではなくミラー系の方が有利であると考え、代替として非軸放物面ミラーの購入を決定した。非軸放物面ミラーは、当初予定していた大型レンズに比べて非常に安価である。また、現在はLCSLMの動作試験を推進している段階であり、スペックル相関除去法およびダークホール技術の本格的な実証試験は次年度にずれ込んだ。これらの要因により、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は次年度予算と合せて、上述のLCSLMの動作試験が完了次第、スペックル相関除去法およびダークホール法のための室内実証試験のためのシミュレータ構築に使用する。また、瞳再配置法においては、シミュレータ光学系の設計および構築が着実に進展しており、今後はH28年度のなるべく早い段階でシミュレータ構築を完了し、実証試験データを取得したいと考えている。また、装置の安定化の検討も行い、そのための光学部品(安定化光学マウント等)の導入も検討する。また、本研究課題で得られた成果を国内外に積極的に発表するため、学会参加のための旅費等も計上する。
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Research Products
(10 results)
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[Journal Article] Coronagraph experiment on dark-hole control by speckle area nulling method2015
Author(s)
M. Oya, J. Nishikawa, M. Horie, K. Sato, N. Murakami, T. Kotani, S. Kumagai, M. Tamura, Y. Tanaka, T. Kurokawa, Takashi
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Journal Title
Optical Review
Volume: 22
Pages: 736-740
DOI
Peer Reviewed
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