2015 Fiscal Year Annual Research Report
高分解能原子核乾板と超解像顕微鏡法を用いた暗黒物質検出システムの開発
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26287037
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
久下 謙一 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 教授 (10125924)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中 竜大 名古屋大学, 学内共同利用施設等, 助教 (00608888)
佐藤 修 名古屋大学, 学内共同利用施設等, 助教 (20377964)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 放射線 / 素粒子実験 / 原子核乾板 / 飛跡検出 / 暗黒物質 / 蛍光標識化 |
Outline of Annual Research Achievements |
ダークマター検出の国際プロジェクト(NEWS; Nuclear Emulsion for WIMPs Search)が本格的に動き出した.その検出手段としての原子核乾板の特性向上と飛跡検出技術の多方面・総合的な開発が求められ,技術開発の方向の最適化と実用化に向けた検証が進められた. ダークマター検出に適した感度の原子核乾板が必要とされるが,乳剤調製の段階での感度調節は,異なる乳剤を多数調製する必要がある.ストック乳剤から簡便な処理で感度を変える方法を求めた.増感剤や減感剤を塗布前に添加する方法と,塗布後の乾板をそれらの溶液に浸漬する方法による感度調整法を試みた.同時にS/N向上のためにノイズとなるカブリも簡便に低減する方法を探求した. ダークマター検出に不可欠な低速粒子の飛跡の選択的検出法のため,低速粒子特有の核阻止能による結晶欠陥生成を検出する現像法として,内部現像の手法に着目し,電子阻止能による感光を除去する減感剤と併用することで,選択的検出に適した乳剤設計と処理法を開発した.また,赤色光後露光補力の温度依存性をさらに詳細に調べ,補力の最適条件を求めた. ダークマターによるμm以下の微細な飛跡を光学顕微鏡で検出するための超解像的な顕微鏡技術の開発を進めた.蛍光標識化法において,昨年度見いだした特異的な発光メカニズムに基づく解析をさらに進めた.蛍光標識化法に適した色素の探索を行い,励起状態を順に伝達する3色素の組み合わせにより吸収波長と発光波長を大きく分離することで,S/Nの向上を目指した.また蛍光発光への基板の影響などを調べた.これらを飛跡検出に適用する条件を探索した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
感光材料の開発は進捗がみられた.乳剤塗布前に添加するだけで感度調節とカブリ除去の両方が得られる添加剤として,テトラゾリウム化合物を見いだした.これは添加量の調節で段階的に感度を下げ,またカブリを大幅に低減した.逆に増感剤としてはトリエタノールアミンが有効であることを見いだした.塗布済み乾板を増感剤溶液に浸漬するという,さらに簡便な方法で感度上昇が得られた.これは超微粒子乳剤に特に有効であった.また,赤色光後露光補力の温度依存性が明らかになったことで,露光後の補力処理による感度上昇の条件が得られた.これらの方法によれば感度の異なる乳剤を毎回調製する必要がなく,1種類のストック乳剤から必要な感度の感光材料が得られることになる.これは原子核乾板の調製場所ではなく,使用場所で感度調節が可能となることであり,輸送中のバックグラウンド放射線の露出の影響を避け,予備実験の結果に即応した最適実験計画をたてることができる. 種々の銀塩写真技術を適用した新しい検出技術が開発された.内部現像法により,低速粒子の核阻止能の作用のみを選択的に検出する技術の可能性が示され,これはダークマターを選択的に検出することを可能にする. 蛍光標識化法用の色素が発光しない問題の解決を受けて,色素間の相互作用による発光というメカニズムの知見を元に,蛍光標識化法の色素を探索した.3色素からなる青色光吸収,赤色光発光の色素系を構築した.吸収波長と発光波長を大きく分離することで,発光の観察が容易となる.新規な蛍光発光メカニズムという観点から,吸着媒体の影響などの基礎的な知見も多数得られた.ただ飛跡を検出するための発光条件の最適化がまだ確立されておらず,この条件の確立が急務である.
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Strategy for Future Research Activity |
NEWSプロジェクトの進捗に伴い,それに合わせて最適化した原子核乾板の調製と処理法,微細飛跡検出技術の確立を進める. 原子核乾板のための元乳剤は名大で調製するが,ダークマター検出実験はイタリアのグランサッソ研究所で行う国際プロジェクトになる.乳剤をイタリアへ輸送し,そちらで塗布して感光材料に仕上げるので,ストック乳剤を適した感度に調節する技術が必須となる.輸送中のバックグラウンドの放射線露出を考えると,現地で高感度に仕上げて,減感剤とカブリ防止剤で適宜調節することになり,これらの処理技術の確立が急務である. 微細飛跡検出に適した高分解能を得るために超微粒子乳剤を用いるが,超微粒子乳剤は元々感度が低く,またこれまでの感光材料と増感特性などが異なる.超微粒子乳剤に適した増感法の開発を引き続き継続する.トリエタノールアミンやテトラゾリウム化合物などの添加剤の特性を解明し,超微粒子乳剤の感度調節に適用することで,簡便・普遍的な感度調整法の確立を目指す.赤色光後露光補力の適用も検討する. 微細飛跡評価技術の開発を引き続き継続する.特に蛍光標識化法は発光メカニズムがかなり明らかになったので,その知見を生かして飛跡検出への最適化を図る.飛跡検出のためには発光強度の増強と,S/Nの向上が必須であり,最適処理条件の確立を図る. 内部現像法,プラズモン共鳴発光法などの新しい飛跡解析技術の特性を明らかにし,適用条件を確立することで,より精緻で簡便な飛跡検出法を開発する.
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Causes of Carryover |
幅広く技術開発を進めたので,成果がまとめきれていない部分があり、論文投稿がずれ込んでしまって、投稿料等としていた分が未使用で残ってしまった。 また、国際会議での発表を予定していたが、東京での国際会議で招待での発表があったため、そのほかの成果の発表もそこで行い、外国出張旅費の一部が不要になった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
順次成果を投稿する準備を進めており、論文校正依頼や投稿料が見込まれる。 NEWS計画の進捗により、共同研究等の打合せが予定されている。また国際会議での発表も予定しており、2015年度より多い外国出張旅費が見込まれる。
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Research Products
(13 results)
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[Presentation] エマルション暗黒物質探索実験NEWS(2) 超微粒子乳剤の低バックグラウンド化に向けた研究2016
Author(s)
木村充宏、中竜大, 浅田貴志, 桂川貴義, 吉本雅浩, 梅本篤宏, 古屋駿二, 待井翔吾, 市来浩勝, 佐藤修, 久下謙一, NEWS collaboration
Organizer
日本物理学会年次大会
Place of Presentation
仙台
Year and Date
2016-03-19 – 2016-03-22
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[Presentation] The Simulation about Effects of Micro Construction in the Nuclear Emulsion2015
Author(s)
Asada T., Naka T., Katsuragawa T., Yoshimoto M., Umemoto A., Furuya S., MachiiS., Tanaka A., Kuwabara K., Kuge K., Nakamura M.
Organizer
The 1st International Conference on Advanced Imaging (ICAI)
Place of Presentation
Tokyo
Year and Date
2015-06-17 – 2015-06-19
Int'l Joint Research
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[Presentation] The performance and status of directional dark matter search with the nuclear emulsion2015
Author(s)
Asada T., Naka T., Katsuragawa T., Yoshimoto M., Umemoto A., Furuya S., Machii S., Ichiki H., Sato O., Tawara Y., de Lellis G., Di Crescenzo A., Aleksandrov A., Tioukov T., Sirignano C., D’Ambrossio D., Di Marco N., Pupilli F., Rosa G., Monacelli P.
Organizer
CYGNUS2015 5th Workshop on Directional Detection of Dark Matter
Place of Presentation
Los Angeles, USA
Year and Date
2015-06-02 – 2015-06-04
Int'l Joint Research
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