2016 Fiscal Year Annual Research Report
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26287059
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
平山 祥郎 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20393754)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | メゾスコピック系 / 量子細線 / スピンエレクトロニクス / 半導体物性 / 先端機能デバイス |
Outline of Annual Research Achievements |
H28年度はH27年度にInSb系トレンチ型イン・プレーン・ゲートQPC(量子ポイントコンタクト)で安定した量子化特性が得られたことを受けて、水平磁場あるいは垂直磁場印加時の1次元サブバンドの交差を精密に測定し、g因子に異方性があることを確認した。また、左右のイン・プレーン・ゲートに異なるバイアスを加えることで、InSbの特徴としてパラレルチャンネルが形成されることも明らかにした。これらの成果については2016年の半導体国際会議(ICPS)に投稿し、口頭発表に採択された。また、抵抗で読み出すNMRと組み合わせると、1次元チャネル内のスピンの振る舞いがより明確になることが期待されることから、これに向けた予備検討として、InSb2次元系での動的核スピン偏極の研究を推進した。エッジチャネルの重要性を示した成果は量子ホール系での電子スピンと核スピンの相互作用の新しい側面を明確にしたインパクトのある研究としてNatureCommに採択された。さらに、原子層堆積絶縁膜を利用してトリプル・ゲートQPCを完成させることを視野に入れ、これまで研究してきたAl2O3絶縁膜に加えて、HfO2絶縁膜の検討をスタートした。トリプル・ゲートQPCに関しては、その基本的な振る舞いを理解する必要があることから、QPCの作製がInSb系より容易なGaAs系でのトリプル・ゲートQPCの研究を進めた。H28年度は移動度が低い状況でもセンターゲートにより量子化が明瞭に観測できること、また、トリプル・ゲート構造では1次元チャンネルのポテンシャル形状を反映してファブリー・ペローモードが明確になることを実験的に明らかにした(APL2016で発表)。また、NMRを用いた実験に向けて、GaAs系QPCにおける電子スピンと核スピンの相互作用の基礎について、その理論的理解を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画で予定しているInSb系スプリットゲート型QPCはInSbと絶縁膜の界面の問題などが未解決で作製の目途が立っていないが、トレンチ型のイン・プレーン・ゲートQPCにおいて安定した量子化特性が得られ、1次元サブバンドの交差からg因子の異方性も確認された。さらに、左右のイン・プレーン・ゲートに異なるバイアスを印加することで、トレンチに沿った蓄積型1次元チャネルの形成も把握された。トレンチ型イン・プレーン・ゲートQPCについては、NMRによるInSb1次元系のスピン物性理解など精密な物性研究が進められるレベルに到達したと言える。さらに、その基礎となるInSbの抵抗検出NMRに関してもその理解が進み、量子ホール系における電子スピン・核スピンの本質に迫る成果が得られた。原子層堆積については、Al2O3が良いのかHfO2が良いのかの結論には至っていないが、トレンチゲート、絶縁膜、センターゲートを組み合わせることでトリプル・ゲートQPC作製への方向性が確立した。さらに、トリプル・ゲート構造の有用性、特に移動度の低い系での有用性をGaAsトリプル・ゲートQPCで実験的に確認することができ、QPC構造における電子スピンと核スピンの相互作用に関してもGaAs系QPCで理論、実験の両面で大きな進展が得られた。これらの成果により、InSb量子構造での本研究計画の完成に向けた素地が固まった。また、着実な研究の進展を受けて、H27年、28年と半導体量子構造におけるデバイス作製、特性評価、物性物理に関する論文掲載、会議発表が順調に行われた。 以上から、これまでの成果を総合的に判断して、本研究計画の実現に向けて「概ね計画通りに進展」していると結論した。
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Strategy for Future Research Activity |
InSbQPCに関しては、平成28年度までに得られた成果をまとめて論文にすることを急ぐ。また、InSb細線におけるパラレルチャネルの形成に関しては専門家を加えてできるだけ厳密な計算を行い、そのメカニズムを明確にする。 平成28年度の成果でInSb二次元系の抵抗検出NMRなどの研究が大きく進展したことを受けて、作製したInSbQPCにおいて、抵抗検出NMRの研究を進める。1次元サブバンドスピン状態が交差する場合に核スピン偏極が見えるかどうかを研究するとともに、2次元系で信号が見えている傾斜磁場中での充填率2の量子ホール強磁性状態とQPCを組み合わせることでどのようなスピン物性、核スピン偏極が出現するかを検討する。抵抗検出NMRが実現されれば、核スピン緩和時間、さらにはナイトシフトの測定を行うことでInSb量子細線系における電子スピンの振る舞いを明らかにする。 また、量子ポイントコンタクトの制御性を高めるために、これまで用いてきたAl2O3絶縁膜のほかにHfO2絶縁膜を原子層堆積装置で堆積し、両者の振る舞いを比較する。比較した結果、特性の良い絶縁膜を用いて、量子化特性測定に成功しているトレンチ型インプレーンゲートQPCに絶縁膜を堆積し、トレンチゲートの間にセンターゲートを追加する構造を作製する。センターゲートに正の電圧を印加することでGaAsトリプルゲートQPCのように1次元閉じ込めの増強が期待され、このような状況で伝導特性にスピン分離が出現するか否か、0.7構造はどのように変化するか、g因子の値や異方性がどのように変化するかを実験的に検討する。InSb系とGaAs系のQPCの研究を並行して進めることで、0.7構造などの理解を深める。さらに、新しい試みとして超伝導になるインジウムオーミックコンタクトをQPCに近接して形成することで超伝導電流を1次元チャネルに流すことに挑戦する。
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Causes of Carryover |
グループで一番低温に到達する希釈冷凍機が、H26年度から継続して使用できない状況にあり、この装置を用いた実験の進行が遅れている。特に強い共鳴磁場を加えるNMR実験にはこの装置が好ましい。希釈冷凍機の主要部分を取り換える予算はないため、装置メーカーであるオックスフォードインスツルメントと協議しながら、一つ一つ可能性のある部分をチェックしている状況にある。H29年度は本研究計画の最後の年になり、良好なデバイスもいくつか完成していることから、RF共鳴振動磁場の強度を落とした実験を他の稼働している希釈冷凍機で進め、研究計画が最終的に遅滞なく完成するようにする。その一方で、期待している装置が稼働すると実験効率が大きく向上することから、引き続き装置の修理も継続し、H29年度中の再稼働を目指す。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H29年度は希釈冷凍機の修理を進めるが、並行してRF共鳴磁場を弱めた実験を他の装置で進めることで、研究提案が遅滞なく実現できるようにする。装置の修理の状況に関係なく、今年度は希釈冷凍機での実験時間が増大することから、例年以上の液体ヘリウム使用を予算に見込んでいる。これまでに良好な特性が得られているInSb量子構造を用いて、電子スピンの振る舞いの評価、抵抗検出NMRを利用した精密な物性実験を進める。また、H29年度は研究計画の最終年であり、得られた成果の論文化、国際会議での発表に一層力を入れる。
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Research Products
(33 results)