2015 Fiscal Year Annual Research Report
スピン分解STMとARPESによる表面スピンナノ物性の研究
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26287061
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小森 文夫 東京大学, 物性研究所, 教授 (60170388)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮町 俊生 東京大学, 物性研究所, 助教 (10437361)
矢治 光一郎 東京大学, 物性研究所, 助教 (50447447)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 走査トンネル顕微鏡 / 角度分解光電子分光 / スピン分解 / 時間分解 / 磁性 |
Outline of Annual Research Achievements |
SR-STM装置を整備しつつ用いて、以下のような成果を得た。Cu(001)表面上の単原子層窒化鉄Fe2Nにおいて、表面鉄原子の軌道に選択的なトンネル現象を観察した。従来、探針―表面間の距離Lに依存するSTM像の大きな変化は観察されていなかったが、この系ではそれが生じている。鉄の3d状態とsp状態の軌道の広がりが異なるために、トンネル電流への3d状態への寄与がLに依存することを理論計算との比較により明らかにした。これは、表面局所電子状態を軌道選択的に測定する手法の開拓ともなった。また、単原子層窒化鉄Fe2N は表面全体に均一に作製する方法がないために、マクロな測定ができなかった。本研究で、その方法を確立することによりXMCDによるマクロスピン状態測定を行い、窒化鉄で期待される高い磁気モーメント測定に成功した。これは、応用が期待されるこの物質の詳細な物性を測定する基盤を確立したと言える。Cu(001)面では、スピンスパイラル構造が期待できる良質のfccFe-Mn単結晶2層薄膜を作製する方法を確立した。これは、今後の局所スピン構造研究へと発展させる基盤となる。 レーザーSARPES装置では、Cu(111)清浄表面において、ラシュバ型スピン分裂始状態から単純に期待されるスピン配向であることを明らかにした。これにより、従来の低分解能で測定された結果を否定し、スピン軌道相互作用に起因する電子物性の誤解を解き、正確な理解へと導いた。また、波数空間での表面スピン構造に興味が持たれているワイルセミメタルTaAsへき開表面では、特徴的なスピン偏極表面バンドを観察し、その波数依存した3次元スピン偏極の向きが理論の予想とよい一致をみた。これにより、ワイルセミメタル表面のスピン偏極電子状態の理解が大きく進展した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SR-STM装置を整備しつつ用いて、Cu(001)、Cu(111)およびPt(111)表面上に磁性体を作製し表面局所電子状態を測定した。Cu(001)面では、スピンスパイラル構造が期待できるfccマンガン薄膜をfcc鉄薄膜の上に作製した。良質の単結晶薄膜を作製する方法を確立し、マンガン表面での超構造を調べた。Cu(001)とCu(111)面では、単原子および数原子層の窒化鉄薄膜作製方法を確立した。その中の単層Fe2N/Cu(001)では、探針―表面間距離に依存した軌道選択的トンネル現象をみいだした。また、窒化鉄組成と膜厚に依存した局所電子スピン状態変化を観察した。さらに、これら試料のマクロな磁性をXMCDを用いて調べた。Pt面では、CePt合金原子層を作製する方法を確立した。これらの研究のため、金属蒸着装置を既設装置に付加し、故障した制御装置を修理して研究を遂行した。 レーザーSARPES装置は、当初の目標よりも測定試料温度が高かったので改造し、より低温での測定を実現した後、いくつかの系で実験を行った。Cu(111)清浄表面では、理論計算とも整合する表面金属バンドのラシュバスピン分裂を観察した。ワイルセミメタルへき開表面では、特徴的なスピン偏極表面バンドを観察し、理論計算とよい一致をみた。3次元トポロジカル絶縁体へき開表面とシリコン基板上のビスマス薄膜における表面ラシュバ型スピン分裂バンドでは、入射レーザー光の偏光に依存した放出電子スピン方向の回転が観察され、それを解析した。また、Pt吸着Ge(001)表面での表面擬1次元バンドのスピン偏極を測定した。これらの測定の途中で、高電子分光装置では装置内で放電が起こり、一度分解して整備を行った。また、励起レーザー光光源も何度か発信しなくなり、その都度修理を行ってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
改良したSR-STM装置を整備しつつ用いて、Cu(001)およびCu(111)表面上に本研究によって成長条件を明らかにした超構造単結晶窒化鉄単原子層薄膜、および、Cu(001)表面上に成長させたfcc強磁性Fe-反強磁性Mnの2層薄膜磁性体を対象として研究を行う。面内磁化測定に有効なFe蒸着探針及び面直磁化測定に有効なCr蒸着探針を用いて、これらの表面のスピン分解測定を行う。また、窒化鉄薄膜上にCo, Mn, Crを蒸着した系において、それぞれの単原子とクラスターの局所磁気結合を調べる。これらの系のマクロな磁性は、研究室でのレーザー磁気カー効果測定および軌道放射光を用いた軟X線磁気円2色性測定による磁化曲線測定や磁気モーメント測定によって調べる。これら磁性体の研究に加えて、次に述べるレーザースピン角度分解光電子分光(SARPES)と相補的な占有・非占有状態測定として、いくつかのスピン依存準粒子干渉測定をスピン軌道相互作用に起因した様々な表面スピン偏極状態について行う。 SARPES装置では、スピン軌道相互作用に起因した様々な表面スピン偏極状態として、BiおよびPb吸着金属・半導体表面、金属薄膜量子井戸上のBi吸着表面,ワイルセミメタル薄膜表面などのスピン偏極バンドを調べる。ここでは、昨年度の研究において発見した、光電子スペクトルの入射光偏光依存性から、スピンを含めた表面電子状態についての詳細な情報が得られることを積極的に利用し、詳細な測定を行っていく。また、フェムト秒パルスレーザー高調波のうち11eVまでのエネルギーのパルス真空紫外光が利用できるようになるので、レーザー光源からSARPES装置まで光を導入するビームラインを建設する。これにより、赤外光励起真空紫外光検出の時間分解SARPES装置を完成し、3次元トポロジカル絶縁体表面で測定を行う。
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Causes of Carryover |
装置改良のための部品の納品が年度末までになされなかったので、その代金を繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
納品された部品の代金として使用する。
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Research Products
(34 results)
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[Journal Article] High-resolution three-dimensional spin- and angle-resolved photoelectron spectrometer using vacuum ultraviolet laser light2016
Author(s)
Koichiro Yaji Ayumi Harasawa, Kenta Kuroda, Sogen Toyohisa, Mitsuhiro Nakayama, Yukiaki Ishida, Akiko Fukushima, Shuntaro Watanabe, Chuangtian Chen, Fumio Komori, and Shik Shin
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Journal Title
Rev. Sci. Instr.
Volume: 87
Pages: 07, 1-15
Peer Reviewed / Int'l Joint Research / Acknowledgement Compliant
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[Presentation] Self-ordered quasi-one dimensional graphene lateral superlattice2015
Author(s)
Satoru Tanaka, Kohei Fukuma, Kohei Morita, Shingo Hayashi, Takashi Kajiwara, Anton Visikovskiy, Takushi Iimori, Koichiro Ienaga, Koichiro Yaji, Kan Nakatsuji, Fumio Komori
Organizer
Sixth Graphene and 2D Materials Satellite Symposium
Place of Presentation
Nagoya Univ.(愛知県名古屋市)
Year and Date
2015-06-28 – 2015-06-28
Int'l Joint Research
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