2015 Fiscal Year Annual Research Report
3次元電子正孔系におけるポリ励起子相出現可能性の理論的解明
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26287063
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
前園 涼 北陸先端科学技術大学院大学, 情報科学研究科, 准教授 (40354146)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ポリ励起子 / 拡散モンテカルロ / 電子相関 / 電子正孔ガス / 間接遷移型半導体 / トリオン |
Outline of Annual Research Achievements |
間接遷移型半導体を舞台としたポリ励起子相の可能性解明を目標に据え、電子相関に信頼性の高い理論手法を用いて、3次元電子正孔ガスの大域的相図を解明する研究を行った。「引力ポテンシャルによる束縛と、遮蔽による遍歴化の拮抗」という量子多体問題上の重要な学理に関連し、数々の理論的提案がなされてきたが、いずれも模型での遮蔽考慮の流儀次第で結論が大きく変わり、決定的解明に至っていない難問である。平成26年度においては、3次元系に対する励起子モット転移に関連して、正常相、励起子気体/分子/ウィグナー固相の大域的出現範囲を解明する研究を進めた。この過程で、大質量比極限で局所安定解に相当する励起子気体が得られてしまい、水素分子形成に相当する励起子分子形成は再現出来ないことが明らかになった。対分布関数による解析から、励起子分子から水素分子への連続記述には多体試行関数における4体項が不可欠で、現行実装を更に拡張する必要性が明確となった。これまで記述に問題の発生しなかった2次元系では、低次元系の一般的性質として束縛状態が形成されやすいが、3次元ではその傾向が弱まり、より精細な試行節調整が必要となるものと考えられる。この試行関数実装改良は、長期での取組みを要するため、今後も継続的努力を払うとして、当面の取組みとして、励起子分子相出現がリーズナブルに記述出来る別方策を模索する必要が生じた。そこで、回避策として、平成27年度には、2次元系に対象を限定し、「実効相互作用+励起子複合体のみの波動関数」を用いた記述方策に移行して研究を進めた。電子正孔質量比と、実効相互作用の遮蔽パラメタの、2パラメタ空間中で電子正孔束縛エネルギー値を評価する拡散モンテカルロ法計算のプロダクトランが順調に進んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
途中、大きく方針転換が生じたものの、原著論文成果を出口に見据えた上での達成度としては、おおむね順調な進捗を辿っている:本研究遂行中に、概要で述べた通り明らかとなった問題点に対する当面の回避策を模索し、2年度目には、対象系を2次元系に限定し、「ベア相互作用+多体波動関数(励起子複合体+環境を構成する他粒子)」を用いた記述から、「実効相互作用+励起子複合体のみの波動関数」を用いた記述方策に移行して研究を進めた。この取扱いにおいては、上記に述べた「多体波動関数構築上の技術的難点」を回避出来るのみならず、質量比を自在に変化させる事で、ポジトロン、ミューオンのイオンや、物質中のドナー・アクセプタなど不純物への電子正孔束縛の記述も可能となる。平成27年度中旬には順調にプログラム実装まで完了した。電子正孔質量比と実効相互作用における遮蔽効果パラメタの2パラメタ空間中で電子正孔系の束縛エネルギー値を評価し、対数極限、クーロン極限の夫々について、既知の解析的結果が再現されるかどうかの較正まで無事完了し、プロダクトランに進むことが出来た。プロダクトランでの要衝となる変分最適化は大変順調に進んでおり、現在、全てのパラメタ点に対する拡散モンテカルロ法計算に進み、統計蓄積が順調な進捗で進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度内には、特徴的なパラメタ点でこれら計算結果、考察をまとめて、まずは方法論開発に特化した原著論文を執筆し、出版までを行う予定である。現状において、方法論実装は既に確立し、電子正孔質量比と、実効相互作用における遮蔽効果パラメタの、2次元パラメタ空間中で自在に拡散モンテカルロ法蓄積が可能となるので、上記原著執筆と並行して、対分布関数によるコンタクト対密度の計算を開始する。これは物質中に生じた電子正孔対の寿命を決定づけ、最終的に励起子寿命の質量比や粒子濃度依存性に関する知見を得る事が出来る。本研究は、半導体不純物の問題や、ポジトロンなどの粒子線に関連した広範な応用に繋がり得る枠組みであるが、上記の、方法論主眼の原著出版の筋とは並行して、これら応用面での適用可能性についての吟味を進め、平成28年度以降、新たな応用系プロジェクトの策定に繋げる。一方、「ベア相互作用+フル多体波動関数(含、環境構成する他粒子)」を用いる元来の方策については、陽な4体項を考慮した試行関数実装という長期的挑戦として振り出しに戻った観があるが、この実装を推し進めると、3次元系での量子ダイナミクス(原子核位置も量子力学的に扱う)に迫ることが出来る、挑戦しがいのある課題である。この課題についてはコミュニティ全体での学位論文テーマのような課題設定により、長期的な進捗を狙う予定である。
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Causes of Carryover |
成果発表にかかる海外渡航については、例年開催される予定であった国際会議(イタリア8月)が、主催側の都合により平成27年度には開催されなかった事、分野集中型でよりインパクトを期待出来る国際会議(中国重慶6月)が平成28年度に企画されたため、渡航を繰越し、次年度執行する事とした。呼応して、会議参加費が不要となったこと、及び、原著論文誌の投稿料が無料であったことなどから、その他費目についても未使用額が生じた。物品費については、学内スパコン資源が拡充されたため(Cray社製スパコンのCPUアップグレードに伴うコア数増強、及び、SGI社製スパコンの新規導入)、当初予定していた自前の計算機資源拡充分が不要となり支出が減った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
旅費の未使用分は、6月の中国重慶での国際会議出席、及び、ガーナで開催される国際会議(多体電子論のシミュレーションプログラムに関するチュートリアルスクール)出席に充てる予定である。呼応して、中国重慶の国際会議参加費は、その他費目の繰越分から充当する。物品費の昨年度剰余分については、今年度も学内スパコン資源の利用を想定するため、上記旅費の不足分に費目流用して充当する予定である。
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