2014 Fiscal Year Annual Research Report
スピン分解光電子分光による運動量空間スピンテクスチャーマッピング
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26287071
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
相馬 清吾 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 准教授 (20431489)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 光電子分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、試料のスピン偏極度の運動量依存性マッピングを実現するための装置開発として、光電子分光用の極低温試料クライオスタットの設計製作、光電子分光装置との同期プログラム、マニピュレーター多軸化のための電子制御機器の製作、電子分析アナライザーの偏向レンズシステムのテストを行った。試料回転の多軸化に向けて、市販のクライオスタットでは寸法や干渉などの多くの制限があったことから、独自の設計に基づくクライオスタットを設計製作した。また、市販品には熱遮蔽シールドのコーティングなどに磁性体が使われ、5-20 mG程度の残留磁化を測定試料周辺で発生していることが分かったので、新しいクライオスタットには、これらを完全に除去するため全ての部材に非磁性体を用いた。このクライオスタットを現行の光電子分光装置に設置し、電子分析器の制御プログラムと試料マニピュレーターの制御プログラムを同期させることで、光電子分光測定の自動化させることに成功した。これにより、角度分解光電子分光測定の効率を格段に向上させることができた。 装置開発と並行して、トポロジカル絶縁体などの重金属を含む様々な物質についてスピン分解光電子分光を行い、各物質特有のスピンテクスチャーを観測した。Si(111)基板上に成長させたBi薄膜においては、三角形状に成長したアイランド構造の1次元エッジに由来する電子構造の観測に成功した。そのスピン偏極度の面直成分は、2次元ラシュバ効果で期待されるような面内成分よりも大きく、その電子状態の1次元性をよく反映するものであった。トポロジカル絶縁体TlBi(S,Se)2の面上に成長させたBi薄膜では、膜厚が1BLの超薄膜領域においてBiの量子化井戸準位(QWS)がラシュバ型のスピン分裂をしていることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
物質内の強いスピン軌道相互作用と空間反転対称性の破れに由来する特異なスピン偏極構造の実験的決定を行う本研究計画において、26年度では大きな進展が二つあった。一つは、Bi薄膜のエッジ構造に由来する1次元電子バンドの観測である。薄膜のエッジ領域に局在した電子状態は、一次元のナノスケール領域に量子的に閉じ込められ、その空間反転対称性の破れの帰結としてスピン軌道相互作用による有効磁場は、運動方向(y)に直交する2方向 (x,z)の成分を持つ事が期待される。エッジ状態のような存在比の圧倒的に小さい電子状態を他と分離して観測することは大変困難な問題であったが、本研究では、申請者が建設したスピン分解光電子分光装置の高い測定効率と高分解能を活かすことでこの困難を克服し、Bi薄膜のエッジ状態のスピン偏極度の観測に成功した。このBiエッジ状態は大きなスピン偏極を持つ量子細線として、トポロジカルに非自明な超伝導状態やマヨラナ準粒子などのエキゾチック量子相の発現やスピントロニクス素子などへの応用が期待されるものである。 26年度のもう一つの成果として「トポロジカル近接効果」の発見があげられる。高精度のスピン分解光電子分光実験により、トポロジカル絶縁体TlBi(S,Se)2の面上に成長させたBi超薄膜において、ラシュバ分裂したQWSバンドの観測に成功した。さらに、このBiのQWSバンドがTlBiSe2の表面ディラックバンドとスピン選択的な混成する事により、トポロジカルに保護された電子状態がTlBiSe2の表面からBi薄膜の方へ空間的に遷移する「トポロジカル近接効果」が起きていることを見出した。今後、トポロジカル絶縁体と様々な金属との接合によりあらたな量子電子相の開拓が進むことが期待される。以上の成果は、新しい量子状態や物質相の開拓を目指す本研究の目的によく合致するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、現在稼働している高分解能スピン分解光電子分光装置に、角度スキャン機能を付与して、バンドの等エネルギー面に沿ってスピン偏極度の運動量依存性を精密に測定することで、スピンテクスチャーマッピングを実現する。そのために、試料を任意の角度にゴニオ回転できる多軸回転試料マニピュレーターの開発と、試料を回転せずともスピン測定する光電子の脱出角度を電子分析アナライザーにおいて任意に操作できる電子軌道偏向法の開発を、引き続き進めていく。さらに、スピンテクステクスチャーマッピングの高度化には、光電子分光測定自体の効率を底上げすることが重要であるので、スピン検出器の高効率化を強力に推し進めていく。また、本研究で用いる高分解能スピン分解光電子分光装置は実験室ベースの装置であるため、測定の効率化には光源の高強度化も欠かせない。現在、プラズマ放電管内における希ガスプラズマの超高純度化に取り組んでおり、発光エネルギーが極端紫外光領域の放電管を窓材やフィルタを通さずとも使用できるようにすることで、光電子強度の圧倒的な向上を目指す。 装置開発と並行して、トポロジカル絶縁体、トポロジカル結晶絶縁体、重金属吸着表面、トポロジカル絶縁体吸着表面、磁性薄膜、希薄磁性半導体、トポロジカル絶縁体ヘテロ構造などについて、スピン分解光電子分光実験を進めて、各々の物質がもつ対称性に対応したスピンテクスチャーを見出し、特異な物性との関連を明らかにする。空間反転対称性の破れ、時間反転対称性の破れ、表面方位の回転対称性などの観点から、バンドのスピン分裂やスピンテクスチャーがどのような影響を受けているのか、全体の実験結果を俯瞰し、スピン軌道相互作用の微視的機構についての理解を目指す。同時に、様々なトポロジカル物質の実験結果を相互比較することで、トポロジカル量子相転移を実現する物質や構造の設計指針を獲得する。
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Causes of Carryover |
26年度は50万を越える主要物品として、プラズマ放電間のUHV高輝度ヘッドと非蒸発ゲッターポンプの購入を予定していたが、光電子分光装置と試料マニピュレーターの開発改良において、当初の改良計画に変更が生じた。どちらもプラズマ放電間の高輝度化に必要なものであったが、放電間本体の高輝度化よりも、発光に用いる希ガスの超高純度化を行った方が、最終的な光電子強度を得るのに大きな効果が見込めると判断したため、次年度以降にその開発に注力するために、以上の予定していた大型物品の調達を取りやめた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
プラズマ放電管の超高純度化のために、放電管本体のシール改良、希ガス配管の真空溶接、真空排気ポンプの強化を行う。また、26年度の研究において、トポロジカル絶縁体の表面に金属を吸着させることで、あらたなトポロジカル物質相の開拓できる可能性が見つかったことから、そのような研究をさらに進めていくために、薄膜作成装置の製作と改良、調整を行う。
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Research Products
(12 results)