2014 Fiscal Year Annual Research Report
パラ水素結晶中のラジカル分子を磁気センサとする電子の電気双極子モーメントの探査
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26287089
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
金森 英人 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (00204545)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
溝口 麻雄 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (20322092)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 電子の電気双極子モーメント / パラ水素結晶 / 時間反転対称性破れ / 極性ラジカル分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、電子固有のeEDMの存在を実証するために、不対電子を有する極性ラジカル分子をp-H2結晶中に取り込み、eEDMのシュタルクエネルギーに起因する熱的状態分布数の変化を、検出しやすい別の物理量の変化として観測することを目標としている。そのために、平成26年度は大量のラジカル分子の生成とp-H2結晶中への捕捉を目指した。 まず、不対電子を有する極性ラジカル分子として、分子内電場の相対論的増強効果が期待できる重元素を含む極性分子の中から、基底電子状態がeEDM測定に適した2Σ1/2であるHgHラジカルを選択した。これを固相で単離保持するマトリクス母体として、相互作用が非常に小さいp-H2 結晶を選択した。 HgHラジカルの生成には、先にHg原子をp-H2 結晶中に取り込んだ後に紫外光を照射する、光化学反応を用いた。水銀原子の供給にはHgを同伴させたp-H2気体を極低温基板に吹き付ける方法を採用し、紫外吸収スペクトルを測定することによって、p-H2結晶中でのHgの吸収スペクトルが約2nm幅の孤立ピークで観測されたことから、Hg原子が結晶中で孤立した状態であること、また吸収強度から目標である10e19個/cc の濃度を実現していることを確認した。さらに、スペクトルのピーク波長が気相より2nmブルーシフトすることを見いだしたので、波長可変紫外レーザーを用いて光反応生成物の波長依存性を調べた。生成物の定量にはFTIRを用い、紫外光照射時間ごとの反応生成物の生成量をモニターした。 その結果、HgHラジカルの生成速度には紫外光波長依存性が見られたが、最終生成量については見られず、照射後の短時間で10e17個/ccで飽和することが分かった。一方、副生成物と考えられるHgH2の生成量は照射紫外光量に比例した。これらの実験結果をもとに、結晶内での化学反応に関するモデルの検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大量のラジカル分子の生成とp-H2結晶中への捕捉法の確立については、Hg原子を10e19個のp-H2結晶の作成に成功した。次のステップであるら紫外光照射によるHgHラジカルへの変換過程の反応追跡において、紫外および赤外分光法を組み合わせることによって、リアルタイムで時間経過をモニターすることができるようになった。 これらの実験結果をもとに、結晶内での化学反応に関するモデルの検討を行えることになったため、今後の問題解決の見通しが立てやすくなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の主題である熱的状態分布数の変化を用いたeEDM測定のために、[1]大量のラジカル分子の生成とp-H2結晶中での捕捉、[2]外部電場による分子の配向制御、および[3]高感度磁化率測定を実現する実験システムを構築していく。 [1]については、前年度までにHg原子を10e19個のp-H2結晶の作成に成功したが、そこから紫外光照射によるHgHラジカルへの変換を試みたが、生成量は10e17個に留まっている。今年度はこの変換効率を高めるために、紫外線の波長・強度依存性を調べて、最適化を行う。 [2]については、HgHのeEDM測定に必要となる外部電場、磁場装置をp-H2クライオ装置に組込む。一様な静電場としては、分子を配向させるために必要となる10 kV/mmを実現する。一方、一様な静磁場を印可するために、1対の超伝導ソレノイドコイルで結晶を挿む。必要となる磁場の強100ガウスを実現する。分子の配向度の確認のためには、昨年度準備した偏光子 を組み込んだ高分解能FTIRおよび赤外レーザーシステムを用いた偏光分光法を用いる。 [3]については、SQUIDおよび光磁気効果を用いた高感度磁化測定システムを導入する。SQUIDの測定対象となる試料の微少磁化量は分子の配向を外部電場を高速スイッチングすることで行うことができるので、SQUID素子としては1 MHzまで応答する高速なものを選択する。 一方、磁化の変化をファラデー効果として検出する実験については、電子EDMによる磁気サブ準位間の分布数の差に起因する微少の磁化の変化量を検出するために、共鳴条件を外した波長のレーザー光を使って、磁気回転効果を測定する。予想される分布数の変化はファラデー回転角にして10e-8 radと見積もられるので、これを検出可能とするため、ショット雑音限界の検出システムの構築を目指す。
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Causes of Carryover |
今年度購入予定の器材購入のため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
磁気検出器の購入予定
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