2015 Fiscal Year Annual Research Report
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26287091
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
冨田 誠 静岡大学, 理学部, 教授 (70197929)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 速い光 / 情報速度 / パルス伝播 / 非解析点 |
Outline of Annual Research Achievements |
「速い光」は、一見、相対論的な因果律に矛盾するように見える。広く受け入れられつつある考え方は、ピークの到来は、それ以前の時刻までにすでに到達した波形情報から解析的に推定されるため真の情報ではなく、 “真の情報は非解析点に含まれている”、という解釈である。平成27年度は、超光速度のパルス伝播と情報速度について、以下の2点について研究を進めた。 (1)“速い光”、“遅い光”の中でのパルスのピークの物理的な意味を明らかにする目的で、従来から研究の行われてきた“ガウス波形”から、ピークを先鋭化した“両指数型パルス”へ連続的に推移する異なった形状のパルス系列の伝播について調べた。先鋭化されたパルスピークは速い光の中をcで伝播する。これは、先鋭化されたパルスのピークは一種の非解析点をみなすことができ、情報を運ぶことができることを示す。一方、パルスピークがなだらかになるにつれてパルスピークは対応する群速度で、負もしくは正の方向への時間遅延を示すようになった。この推移は、“遅い光”と“速い光”では異なる振る舞いを示した。また、平成26年度におこなった、「ピークを持たないガウスパルスによる出射パルスピークの観測」について、先鋭化されたパルスピークについても実験を行った。 (2)非解析点を調べる別の手法として、ガウス型のパルスに非解析点としてエンコードされた情報の伝播について、入射パルスのバンド幅を制限することで非解析点の先鋭さを変化させながら、その伝播の様子を調べた。バンド幅が十分広い条件下では、非解析点は、「速い光」の系でも、「遅い光」の系でも光速度cで伝播し、これは相対論的な因果律の要請とよい整合性を示している。バンド幅が制限されるにしたがって非解析点はなだらかになり、やがて群速度で伝播するようになる。しかしながらこの速度の変移は速い光と遅い光では定性的に異なっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、真の情報としての意味をもつ非解析点の伝播について実験を進めることができた。即ち、(1)パルスピークの形状を連続的に変化させる手法、(2)バンド幅を制御することによって非解析点の先鋭さを変化させる手法、により非解析点の伝播の様子を調べることができた。特に、(1)の方法は、当初、科研費の研究計画には記載されていないものであるが、研究を進める中でたどり着くことが出来たユニークな方法であると考えている。 従来、分散媒質中でのパルス伝播の研究としては、もっぱらガウス型のパルスのみが対象とされてきた。ガウスパルスは、その形状からいくつかの特殊性をもっている。“ガウス波形”からピークの先鋭化した“両指数型パルス”へ連続的に推移する異なった形状のパルスの伝播について調べることにより、ガウスパルスの特殊性を浮き彫りにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)平成28年度は、27年度の研究を踏まえて、情報を搬送すると考えられる非解析点の伝播について研究を進める。バンド幅を制限された現実的な非解析点が光速度cよりも速く伝播することは、バンド幅を制限された非解析点では、この点を越えて未来のパルス波形が推定できることを示唆している。平成28年度は、バンド幅を系統的に制御して、パルスの未来の形状が予測可能であることを調べる。予想される結果は、バンド幅がある臨界的な値を越えて制限されると未来の波形が推測できる様になることが期待できる。このとき現実的な非解析点は情報を運ぶことは出来ない。 (2)また、科研費申請当初の研究計画に従って、直列型リング共振器における0πパルスを開始する。“リング共振器”モードが作り出す分散は、“原子”の作り出す分散と対応している。本研究では、共鳴周波数が完全に一致した複数の共振器を直列に配列した系を対象にし、原子ガス中の波束の伝播効果に対応する現象を観測する。実験で使用する共振器は、その線幅が1MHz程度と非常に狭く、複数の共振器を1つの共鳴周波数に同調することは極めて困難である。本研究では、この困難さを克服する方法として1つの共振器に、光ファイバーによる外部帰還ループを設けることで、実効的に完全に同一の共鳴周波数を持った直列配置共振器列を作り出す。具体的実験として、共振器の通過回数が増加するに従って、“共鳴プリカーサー”が“0πパルス”に発展する新しい現象を捉えたい。
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Causes of Carryover |
繰越金額が発生している理由は、平成26年度からの繰越が引き続いているためである。 平成26年度は、「ピークを持たないガウスパルスによる出射パルスピークの観測」について成果を得ることができた。当初計画では、本研究課題は平成27年度に遂行する計画であった。しかし、実験条件を詳細に検討した結果、単一のリング構造でも実現できる可能性が示唆され、研究資源を本課題に集中した結果、当初計画よりも早く原理的な実証実験に成功することが出来たものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初予定の逆CRIT構造の分散は、より大きな分散を利用して、大きな時間推進をもった速い光の実現や、波形歪のない実験結果を得るために有用であると考えている。このため、逆CRIT構造の分解析についても平行して研究を進め、科研費のルールに従って目的達成のために次年度に繰越額を使用していく。
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Research Products
(4 results)