2015 Fiscal Year Annual Research Report
大気の無い惑星模擬表層の熱慣性測定:惑星リモートセンシングへの応用
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26287108
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Research Institution | Japan Aerospace EXploration Agency |
Principal Investigator |
岡田 達明 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 准教授 (30321566)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 熱物性 / 小惑星 / はやぶさ2 / 熱慣性 / 空隙率 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、高真空かつ太陽光照射条件で自転する惑星表層を模擬し、現実的な熱慣性を実験的に調査する。その目的を達成するために、様々な熱慣性をもつ惑星模擬物質に対し、リモート赤外撮像観測によって達成し得る精度について実験的に調査する。 平成26年度において、大気の無い惑星表層の物理状態と熱真空環境を模擬する実験系の新規開発を進めたが、試料を安定で再現性のよい熱制御を行うために、冷却方式を変更して機械式冷凍機を導入し、ペルチェ素子の併用する温調方式を採用することにした。その方式で温調した試料ホルダ内に惑星表層模擬物質を置き、強度可変の外部光源の照射によって試料表層を加温し、その表層温度の時間変化を赤外カメラで観察するシステムに設計変更した。 平成27年度においては、設計変更後の実験系の組立と改良を進めた。また、測定対象となる模擬試料としては、岩盤にみたてた稠密な岩石試料、月レゴリス等のソイル状表層にみたてた粉末試料や、多孔質岩石片をみたてた粉末の焼結試料に加えて、3Dプリンタの導入によって製作する多孔質試料も追加採用した。また、背景となる物理モデルに関しても並行して考察し、高真空中における物質の熱慣性が、物質の空隙率と指数関数関係で表現できることを示した。 実験や将来の観測計画については国際学会(EGU(2015年4月、ウィーン)、AOGS2015(2015年8月、シンガポール)やLPSC2016(2016年3月、米国))や研究会(惑星熱物理モデル研究会(招待、2015年6月、スペイン)、熱放射熱モデルワークショップ(主催、2015年12月、相模原))等で議論を進めた。また、物理モデルについては国際学会LPSC2016(2016年3月、米国)で紹介した。そのほか、物理モデル計算用の計算機、装置の改良のための金属材料等の消耗品費、旅費等を計上した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究を遂行するにあたり、試料表面の放射温度の計測時の不確定性を低減するためには、試料ホルダの温度安定性と再現性が極めて重要であり、1℃以内に制御する必要があることが分かった。当初提案していた試料台の温度制御の方式は、液体窒素を冷媒とし、ヒータで加温する方式であった。しかし、温度安定性と設定温度の再現性を追及した結果、機械式冷凍機とペルチェによる温調方式の方が優れ、かつコスト的に成立可能なことが分かった。そのため、実験装置の設計変更を実施した。 また、理論モデルからのアプローチも並行して進めることとした。これまで、粒子径や圧密度、焼結度、荷重など様々なパラメータがあり、実験パラメータが多様に過ぎることが問題点の一つであった。過去の真空環境下での月や地球の岩石・砂礫・粉末状の試料に関するデータを集計したところ、熱伝導率や熱慣性は空隙率とほぼ指数関数的な関係で表現できることを明らかにした。これは空隙のある物体中の熱伝導がフォノンの平均自由行程に比例することと整合する関係である。 そのため、今後の主な実験パラメータとしては空隙率を最重要とし、空隙率を制御した試料について実施する方針とすることとした。空隙率制御の方法として、既存設備を利用した微粒子の焼結に加え、3Dプリンタによる任意の空隙率の物質の作成などを試みることにした。そのための設備の導入も実施した。また、試料の熱放射率の空隙率依存性を調査するために既存のFTIRに拡散反射対応の追加を実施した。 以上のような装置の仕様変更、測定系の更新、試料作成法の追加を進める必要があると考えたため、これらを実施した。その結果として本格的実験の開始がやや遅延しているが、信頼性の高い確実な結果を得るための準備であり、研究自体は着実に進捗していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は設計変更後の改良中の実験系を完成させ、その後に各種類の模擬試料に対して熱慣性の測定を実施してゆく予定である。。空隙率の異なる試料について熱慣性を系統的に調査することにより、実際の惑星熱環境における観測値と比較可能な地上実験データベースの基礎情報を収集する。これは理論的に導出される熱慣性と空隙率の関係式(T. Okada, LPSC 2016)との比較も行うほか、過去の月探査、火星探査、小天体探査における熱観測結果と比較し、表層熱環境や表層物理状態の理解を深化する。 電気誘導過熱法などによって熱物性を調査しているドイツ航空宇宙センター(DLR)の惑星熱放射ラボ(PEL)と共同研究を行っており、本研究による成果とPELのデータを比較することにより、結果の検証や新たな課題の抽出を進める。また、表層凹凸によるラフネス効果など数値モデル計算とも比較する。これらの結果は、惑星熱物理モデルのコミュニティの一員としてより信頼性のある熱物性観測法の改良に貢献する。これらの結果は国際学会での発表や学術論文への投稿を進める予定である。 平成28年度の経費として、実験用の試料費、実験系真空機材・金属材料費、電子部品費等の消耗品購入費、国内・国外での学会参加費やPELへの出張のための旅費、および実験補助費や出版経費、会議費などを計上した。 平成29、30年度においては、これらの実験で使用する試料の組成や物理状態についてより広範な条件に対して準備を進め、実験に適用し、実験結果を集めてデータベースとする。平成30年度には、小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星Ryuguに到着し、小惑星の熱撮像観測を実施予定である。本研究の成果は「はやぶさ2」での中間赤外カメラTIRによる熱撮像観測の結果の解釈に適用する。また、米国の小惑星探査ミッションOSIRIS-Rexの観測結果の解釈にも適用する。
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