2015 Fiscal Year Annual Research Report
星間物質の分子進化の解明を目指した超高速分光システムの構築
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26287140
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伏谷 瑞穂 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (50446259)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 超高速分光 / 極低温反応 / 固体水素 |
Outline of Annual Research Achievements |
宇宙空間において最も組成比の大きな元素は水素である.そのため,星間空間における分子進化を理解する上で,極低温下の水素(プロトン)が関与した化学反応を定性的かつ定量的に分析することは極めて重要であると考えられる.本研究では,こうした化学反応を高い時間分解能で実時間追跡することが可能な,極紫外および中赤外域のフェムト秒レーザーパルスを利用した先進的分光計測システムの構築を目的としている.これにより,星間空間における分子進化を反応ダイナミクスの観点から考察し,星間分子の存在形態や生成・消滅過程を反応素過程のレベルで理解することを目指す.
昨年度開発した極紫外光(~80 nm)の超短パルスを実際に実時間分光計測に応用するため,基本的な分子の一つである窒素分子を標的としてその超高速光電子分光を行った.この極紫外光をポンプ光,赤外光(800 nm)をプローブ光として窒素分子の光電子スペクトルの時間変化を調べたところ,観測された光電子ピークは約300 fsの振動周期を示すことが明らかとなった.この振動周期は極紫外光によって生成されたリュードベリ波束の分子ダイナミクスを反映していることが明らかとなった.一方,固体パラ水素に捕捉した分子のみをイオン化することを目的に,基本波400 nmの3倍波である波長133 nmの超短パルス光源の発生を行った.この超短パルス光源を用いることで,固体パラ水素中に捕捉した中性分子からイオン種を「その場」生成することが可能となる.また,星間空間で観測されている,水素を有する基本的な分子の一つであるホルムアルデヒド(H2CO)のレーザー光誘起反応を調べ,イオン状態における光解離チャンネルの分岐比などについて明らかにした.現在,これらの光源を用いて固体パラ水素中に捕捉した分子の光誘起反応の実時間計測に取り組んでいる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では極紫外域および中赤外域におけるフェムト秒レーザーパルスの整備が鍵となる.このうち,極紫外域のレーザー光源に関しては,80 nmや133 nmなどの異なる波長域においてレーザー光を独立に発生させることに成功しており,さらにこれらのレーザー光を分光計測における超短パルス光源としても応用できることを実証している.一方,中赤外域のフェムト秒レーザーについてはこれをプローブ光源として分光計測を行うまでには至っていない.しかしながら,これは予想以上に極紫外の光源開発・応用に注力する必要があったためであり,今後の研究計画遂行に大きな支障はないと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き,本研究手法において鍵となる中赤外域フェムト秒レーザーパルス光源などの整備を行う.これと平行して,可視・紫外域などの超短パルス光源の整備にも着手する.これは,これらの波長域の光は分子の光誘起反応を駆動する励起光源または反応途中にある分子の電子状態を検出するプローブ光源としても利用できるためである.これらの光源開発を進める上で,必要があればレーザーシステムの出力改善も試みる.
上記光源系の整備の後,測定系との統合を図り,超高速分光計測システムを構築する.本計測システムの評価を行うため,固体パラ水素中における水素の関与する化学反応の実時間追跡に適用する.これにより,反応生成物のみならず,反応途中で生成する中間体を過渡吸収スペクトルの変化として実時間で観測し,その反応経路や反応機構の直接観測を試みる.反応中間体の振動・回転遷移の振動子強度が小さい場合など,観測が難しいときには電子遷移やレーザー誘起蛍光など異なる検出方法を試みる.必要に応じて,固体希ガス中に捕捉した分子も標的として調べ,固体水素に捕捉した分子の光誘起化学反応との比較検討を行う.
超高速分光計測システムの評価の後,星間分子の分子進化に重要な反応系へと展開し,星間空間における分子進化の反応機構とその特徴を明らかにすることを目指す.
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Causes of Carryover |
研究費を効率的に執行したため,若干の未使用額が生じた.この研究費は次年度の計画実施のために有効に活用する.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
主に装置の真空度を保持するためのガスケットなどの消耗品に研究費を使用する予定である.
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Research Products
(6 results)