2015 Fiscal Year Annual Research Report
双安定性によるO-O結合の可逆的開裂を鍵とする実用酸化触媒の開発
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26288027
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
小寺 政人 同志社大学, 理工学部, 教授 (00183806)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 二核鉄錯体 / 酸素活性化 / 基質酸素化 / パーオキソ二核鉄(III)錯体 / トリオキソ二核鉄(IV)錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、二核鉄錯体による酸素活性化と基質酸素化を効率的に進行させることを目的とした。今回は、6-hpa二核化配位子の二核鉄錯体を用いて、過酸化水素との反応により、パーオキソ二核鉄(III)錯体の生成とこのO-O結合の開裂によるトリオキソ二核鉄(IV)錯体の生成を分光学的に追跡すると伴に、生成したトリオキソ二核鉄(IV)錯体のアルカンに対する反応性を検討した。まず、パーオキソ錯体の生成とトリオキソ錯体への変換は、電子スペクトルによる追跡で両者を明確に見分ける事に成功した。さらに、この変換を共鳴ラマンスペクトルにより追跡する事ができた。共鳴ラマンスペクトルでは、反応開始から1分以内にパーオキソ錯体のO-O伸縮振動が826 cm-1にあらわれ、さらに、反応開始後2-3分の間このバンドが821 cm-1にシフトした。この新たなバンドは、以前から報告していた様にトリオキソ錯体のFe(IV)=Oの振動バンドである。この様に電子スペクトルと共鳴ラマンスペクトルの追跡により、6-hpa二核鉄錯体は過酸化水素との反応の直後に、パーオキソ錯体を生成し、直ちにO-O結合の開裂によりトリオキソ錯体が生成する事を証明した。こうして生成したトリオキソ錯体と様々なアルカンとの反応を速度論的に追跡し、トリオキソ錯体の反応性の高さを明らかにした。6-hpaのトリオキソ錯体は、エチルベンゼンの酸化速度において、これまでに報告された最も反応性の高い、高スピン二核鉄(III)(IV)錯体と比べて620倍反応を加速した。また、重水素化されたトルエンを用いたKIEの値は、95であり、これまでに知られているに核鉄錯体の中で最も大きなKIEの値を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度の研究で観測されたトリオキソ二核鉄(IV)錯体の高活性は、アルカンの触媒的酸化反応において観測された。これらは、6-hpaに核鉄錯体のトリオキソ錯体が高スピン鉄(IV)をとること、また、Fe(IV)=Oの周辺の立体障害が小さい事が原因と考えられる。実際に、この反応速度の詳細な解析から、トリオキソ錯体はシン配向の錯体が最初に生成し、これがアンチ配向の錯体に構造変化した後にアルカンのC-H結合を切断する事が明らかになった。具体的には、6-hpa核鉄錯体のトリオキソ錯体とアルカンの反応の速度定数は、基質濃度が低いときには基質濃度に1次に比例し、基質濃度が高くなると基質の種類に関係なく一定の値に収束した。これは、基質低濃度領域では、トリオキソ錯体とある官能反応が律速段階であるが、基質高濃度領域では、トリオキソ錯体のシンからアンチへの構造変化が律速段階になる為である。これは、過酸化水素を酸化剤として用いる二核鉄錯体が触媒するアルカン酸化において初めて見いだされた現象であり、酸化活性種の反応性に及ぼす。高スピンFe(IV)=Oの効果、酸化活性種の立体的効果などを明らかにしたものとして重要である。
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Strategy for Future Research Activity |
上記に示した様に、これまでの研究で我々は、過酸化水素を酸化剤として用いる二核鉄錯体が触媒するアルカン酸化において、高スピンFe(IV)=Oの効果、酸化活性種の立体的効果が重要である事を見いだした。一方、シトクロムP-450の研究などから、アルカンの酸化反応においては、酸化活性種であるFe(IV)=Oの酸素原子の塩基性の高さが重要であると考えられている。そこで、2016年度の研究では、6-hpa二核化配位子に電子供与生の置換基を導入して、その二核鉄錯体を用いて、酸素活性化と基質酸素化を検討する。我々は、既にこの配位子を合成してその二核鉄錯体を合成している。そこで、この錯体による酸素活性化を分光学的に追跡すると伴に、様々な基質の酸化反応を検討する。最終的にはアルカン酸化の選択性を高めて、アルカン酸化に必要な具体的要件を明らかにする。
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Research Products
(5 results)