2015 Fiscal Year Annual Research Report
重・超アクチノイド元素の化学結合に寄与する7p_1/2電子軌道の影響の探索
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26288028
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
浅井 雅人 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 研究主幹 (20343931)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 超重元素 / ローレンシウム / メンデレビウム / フェルミウム / イオン化エネルギー / 吸着エンタルピー / 真空クロマトグラフィー / 表面電離イオン化法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、重・超アクチノイド元素の化学結合に寄与する相対論効果の影響を、荷電子の束縛エネルギーや原子の吸着特性を測定することで実験的に明らかにすることを目的とする。平成27年度は、重アクチノイド元素の第一イオン化エネルギー測定を継続するとともに、重・超アクチノイド元素の吸着エンタルピーを測定するための新しい実験手法の開発に着手した。 イオン化エネルギー測定では、昨年度手法を確立し102,103番元素No,Lrの測定に適用した表面電離イオン化法を、100,101番元素Fm,Mdにも適用し、Lrまでのすべての重アクチノイド元素の第一イオン化エネルギーを実験的に決定した。このイオン化エネルギーの傾向から、重アクチノイドでは、原子番号が増えるにつれて5f軌道に電子が一つずつ充填され、Noにおいて5f軌道がすべて満たされ、Lrから次の新しい軌道に電子が入り始める、という電子配置の描像が初めて実験的に確認された。このことは、重い元素領域における周期表の構築、という極めて重要な意義を持つ。 吸着エンタルピーの測定では、表面電離イオン化法を応用して高温金属表面におけるLrの吸着を観測するための新しい実験手法を開発し、Lrの吸着エンタルピーを測定した。実験は成功し、現在解析中であるが、Lrの基底状態に現われる7p_1/2電子軌道の寄与がLrの吸着に及ぼす影響を初めて定量的に明らかに出来ると期待される。 更に、より重く半減期の短い超重元素のイオン化エネルギー、吸着エンタルピーを測定するため、荷電交換法や真空クロマトグラフィー法など、全く新しい実験手法の開発にも着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度当初の研究計画は、①表面電離イオン化法を用いたLrの吸着エンタルピーの上限値の決定、②表面電離イオン化法を用いたZr,Hf,Rfのイオン化試験、③真空クロマトグラフィー装置およびその前段に使用するガスセル型イオン冷却装置の開発、④イオンビーム荷電交換法を用いた新しいイオン化エネルギー、電子親和力測定法開発のための実験装置の設計・製作、であった。 ①については、表面電離イオン化法を用いたLrの吸着エンタルピー測定実験を成功させた。現在データ解析中であるが、吸着エンタルピーの上限値だけでなく値を決定できる結果が得られており、当初の想定以上の進展があった。 ②については、Hfの表面電離イオン化試験を行い、表面吸着の影響が大きいことを定量的に確認することが出来た。 ③については、真空クロマトグラフィー法の論文を発表し、今後の改良策を検討するとともに、ガスセル型イオン冷却装置の設計と周辺機器の整備を行った。ガスセル型イオン冷却装置の設計が遅れ、製作が来年度前半にずれ込んだが、研究計画はおおむね順調に進展している。 ④については、イオンビーム荷電交換法の詳細検討を行い、既存の装置を一部改良してテスト実験を行う準備を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の大きな目標であったLrのイオン化エネルギーの決定は、表面電離イオン化法を確立することで達成され、No,Md,Fmなど他の重アクチノイドのイオン化エネルギーもすべて決定できた。もうひとつの大きな目標であったLrの吸着エンタルピーの測定も、表面電離イオン化法を応用することで達成できる見通しを得た。これによって、Lrの化学結合に寄与する7p_1/2電子軌道の影響を定量的に明らかにできると期待できる。 一方、更に重いRfやそれ以降の超アクチノイド元素のイオン化エネルギー測定、Noなど揮発性の高い元素の吸着エンタルピー測定には、表面電離イオン化法は適用できないので、荷電交換法や真空クロマトグラフィー法などまったく新しい実験手法を開発する必要がある。今後は、Rfのイオン化エネルギー測定、Noの吸着エンタルピー測定を次のターゲットとしつつ、7p_1/2軌道の次に現れる7p_3/2軌道が関与する未知の化学結合の解明も視野に入れ、実験手法の開発を進めていく。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、真空クロマトグラフィー装置ならびにその前段部に使用するガスセル型イオン冷却装置一式の製作および関連する実験機器等の購入に370万円、荷電変換装置の開発整備に150万円、学会等発表費、旅費に80万円、イオン源消耗部品等の購入に90万円、合計約690万円を使用する計画であった。このうち、3つの装置に共通して使用できる真空ポンプ3台の購入に286万円、イオン冷却装置周辺機器の購入に87万円、学会等発表費、旅費に22万円を使用した。これに加えて、ガスセル型イオン冷却装置本体の製作に290万円を予定していたが、設計が遅れ完成が年度末に間に合わない可能性が生じたので、万全を期すため発注を次年度早々に行うよう計画変更した。この結果、約290万円を次年度使用に回した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は、次年度使用に回した290万円でガスセル型イオン冷却装置本体を早急に製作し、更に50万円を加えてその周辺機器等を整備して装置一式を完成させる。また、既存の荷電変換装置の改良と実験用消耗品代として90万円、学会等発表費、旅費に50万円、合計約480万円を使用する計画である。
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Research Products
(4 results)
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[Journal Article] Vacuum Chromatography of Tl on SiO2 at the Single-Atom Level2016
Author(s)
P. Steinegger, M. Asai, R. Dressler, R. Eichler, Y. Kaneya, A. Mitsukai, Y. Nagame, D. Piguet, T.K. Sato, M. Schaedel, S. Takeda, A. Toyoshima, K. Tsukada, A. Tuerler, A. Vascon
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Journal Title
The Journal of Physical Chemistry C
Volume: 120
Pages: 7122-7132
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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