2015 Fiscal Year Annual Research Report
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26288029
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
稲辺 保 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20168412)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 分子性結晶 / 電荷注入 / 電子機能化 |
Outline of Annual Research Achievements |
26年度にスタートした本研究では、有機結晶の電子機能化のための電荷注入の手法として、異種分子結晶を接触させ、界面での酸化還元反応を利用する接触型ドーピングという新しい機能設計方法を提案している。界面での電子のやり取りの結果、単純に電荷注入のみが起こる場合と、さらに分子性錯体が形成される場合があるが、導電性の界面(表層)が形成される点は共通である。本研究では母体結晶として、酸化還元特性を持つπ共役系分子の単結晶を対象とし、接触物質としては電子注入能力の高い電子供与体結晶、電子引抜き能力の高い電子受容体結晶を用い、母体結晶の電子状態によって、どのような機構で結晶表層の電子状態変調、界面構造変化が起こるかを明らかにすることを目的としている。 上記目的のために以下の6種の母体結晶群を対象に3種の化学的電荷注入の実験を当初計画した。母体結晶(i)電子供与体または電子受容体単成分結晶。(ii)電子供与体(または電子受容体)が充分弱い中性基底状態の電荷移動錯体。(iii)イオン性基底状態の電荷移動錯体。(iv)カチオンまたはアニオンラジカル塩結晶。(v)有機・無機ハイブリッド金属ハロゲン化物半導体。(vi)水素結合分子錯体。ドーピング実験A:母体結晶、接触物質ともに単結晶状態、B:母体結晶は単結晶で接触物質は粉末(あるいは蒸気接触)、C:母体結晶、接触物質を磨砕混合。 27年度は母体結晶(i)、(ii)、(iv)について集中的に実験を行った。母体結晶によってドーピング実験A~Cの3種を使い分け、(i)については界面での純粋な電子のやり取りのみが起こる系について輸送特性と電子構造や接触状態の詳細を調べ、(ii)について、高秩序で薄膜が形成される組み合わせでの表面薄膜形成機構の解明を、(iv)については分離積層構造のアニオンラジカル塩へ初めてのホールドーピング実験を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
母体結晶(i)については強力なアクセプタであるF2TCNQ結晶を母体としてイオン化エネルギーの異なる種々のドナーをドーピング実験Aで接触させることで、どのような条件で界面の金属様の電気伝導の温度依存が実現されるかを調べた。これらの組み合わせでは接触界面で電荷移動錯体が形成される兆候は一切示されず、接触界面での導電性発現が純粋に接触面での電荷注入に起因していることが示唆された。それぞれのドナー結晶に注入されたホールとF2TCNQに注入された電子のどちらが優勢キャリアであるか調べるために熱電能の測定を行い、ホールが優勢キャリアであることが示された。しかし、金属様の輸送特性の出現とイオン化エネルギーとの相関が見られないことから、接触表面をAFMで詳細に調べたところ、表面の粗さとの相関が見出されている。また、TIPS-ペンタセンや金属ポルフィリン化合物を母体結晶とした実験も行い、基本的な輸送特性について明らかにした。 母体結晶(ii)については、多様な中性交互積層TCNQ錯体を対象に、接触物質としてTTFを選び、ドーピング実験Bにより母体結晶表面にTTF-TCNQの薄膜形成実験を行った。繊維状結晶の成長方向は、母体の交互積層方向に沿っており、母体結晶中の電荷移動相互作用の働く方向に沿って、表層の構造崩壊とTTF-TCNQナノ結晶成長が起こるという機構を提案している。また、クロラニル錯体を母体としてTTFを接触させることで表層に中性-イオン性転移を示すTTF-クロラニル結晶薄膜の作成も試みている。 母体結晶(iv)については、TCNQアニオンラジカル塩を対象に、強力なアクセプタであるF4TCNQの接触(手法A,B,C)実験を行い、ホールドーピングを試みた。その結果、導電性の向上と相転移(パイエルス絶縁体→モット絶縁体)が不明瞭になることが見出された。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度での主な計画は、(i)の錯体形成を起こさない電荷注入について上記の結果をまとめるとともに、新たにTTF誘導体も母体結晶に加え、予備実験(手法A)で見出された接触界面のスイッチング現象についてその機構を明らかにすることも計画に加える。また、金属錯体を対象にした実験では中心金属が非磁性の場合と磁気モーメントを持つ場合とでどのように違うかを調べる予定である。母体結晶(ii)については様々な中性クロラニル錯体を母体として表面でのTTF-クロラニル錯体形成の条件を探索するとともに、多形出現の条件を明らかにする予定である。 母体結晶(iii)については、ET系Mott絶縁体に電子ドーピングを行い導電性界面の生成を目指す。また、母体結晶(iv)については、主にアルカリ金属と組み合わせたTCNQ系ラジカル塩の結果についてまとめるとともに、TCNQアニオンラジカル塩を半導体層としたFETの作製を試み、接触ドーピングと電荷注入の効果の違いを調べる。 一方、母体結晶(v)として金属ハロゲン化物有機-無機ハイブリッド化合物を対象にした予備実験を行った結果、ハロゲンの遊離に伴う化学反応も同時に起こることから、有機結晶と同様な手順で実験を進めることが困難と判断した。また、母体結晶(vi)については強誘電体フェナジン-クロラニル酸の薄膜形成にチャレンジしてきたが、条件を変えても膜質を改善すること困難であったため、実験対象から外すこととした。 28年度が本研究の最終年度であることを考慮し、これまで明らかになった接触型ドーピングによる化学的電荷注入で形成される特異な電子構造を持つ界面について、成果をまとめるとともに、機能化に向けた指針を提案する予定である。
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Causes of Carryover |
使用予定であったAFM拡張オプションの消耗品であるプローブの購入とともに、従来のAFMプローブの消耗が予定より少なく減額した。その他、一部薬品に関しても他研究室からの提供が得られたことで、使用額が減少している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記プローブ(原子間力顕微鏡および、光ヘッド、導電性AFM)には寿命があるため、前年度消耗は少なかったが、実験が順調に進むと今年度の消耗が増加すると予想される。そのためこれらの購入に次年度使用額を充当する予定である。
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Research Products
(35 results)