2015 Fiscal Year Annual Research Report
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26288034
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
吉川 浩史 関西学院大学, 理工学部, 准教授 (60397453)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 固体電気化学反応 / 超伝導体 / 分子クラスター / 二次電池 / XAFS |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、ナノ分子及びナノ複合体の蓄電特性、および固体電気化学反応を利用した新奇物性発現とスイッチング、において以下のような研究成果を得た。 まず、ナノ分子及びナノ複合体の蓄電特性についてであるが、分子クラスターの一種である様々なバナジウムクラスターを正極活物質とするリチウム電池を作製し、V15クラスターの場合に250 Ah/kg以上の電池容量と100回以上のサイクルを経ても初期容量の95%以上を保つ高いサイクル安定性を見出した。この電池反応の機構を解明するため、operando XAFS分析を行ったところ、放電過程でV15クラスターが14電子還元を示すことを明らかにし、これにより実測の電池容量を説明できることが分かった。グラフェンとのナノ複合化でも容量の上昇に成功しており、今後さらに、より高容量な電池特性を示す分子性材料の設計へと生かす。 次に、固体電気化学反応を利用した新奇物性発現とスイッチングについてであるが、磁性以外の物性として、金属酸化物超伝導体であるYBCOとリチウムチタン酸LTOを対象に、固体電気化学反応による超伝導状態の制御を検討した。YBCOの場合、放電過程において、超伝導転移温度はほぼ変化しないものの、徐々に超伝導フラクションは減少し、最終的に0.95Vで超伝導転移が消失し、その変化は不可逆であった。一方で、LTOの場合、LTOを正極活物質とする電池を作製しただけで、電池の自己放電によって、極低温における超伝導フラクションが100分の1程度になった。しかしながら、LTOを電解液溶媒に浸漬することで、LTOの超伝導転移温度を12Kから13.5Kへと上昇させることに成功し、その変化が可逆であることを見出した。 このように、固体電気化学を基盤として、新たな分子クラスターの高い蓄電特性を見出すとともに、超伝導状態変化の試みまでを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
高い蓄電特性を示すナノ材料として、分子クラスターの一種である様々なバナジウムクラスターを正極活物質に用いることで、正極活物質重量当たりの容量ではあるが、従来のリチウムイオン電池よりも大きな容量を得ることに成功しているため、当初の予想以上に研究は進行しているといえる。また、放射光施設を利用したXAFS分析より、その反応機構解明も順調に進んでいることも大きな要因である。 一方で、固体電気化学反応を利用した新奇物性開拓研究については、磁性以外の物性開拓に着手できた。すなわち、超伝導体について固体電気化学反応による制御が可能かどうかを検討することができたことから、当初の計画以上に進んでいる。その過程で、超伝導状態の可逆な電気化学的コントロールは難しいという結論に達したものの、極性溶媒に浸漬することで、ある超伝導体に関しては、可逆に転移温度をコントロールすることに成功した。このように、当初予期していなかった現象を見出したということも、研究が良く進んでいると考える理由の一つである。 以上のように、高い蓄電特性を示すナノ材料の研究と電気化学反応を利用した新奇物性開拓の研究両方で、研究は計画以上に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ナノ分子及びナノ複合体の蓄電特性、および固体電気化学反応を利用した新奇物性発現とスイッチング、において以下のように研究を推進することを予定している。 まず、ナノ分子及びナノ複合体の蓄電特性についてであるが、より高性能な正極活物質材料を開発するため、これまで研究を行ってきた分子クラスターを基盤に、分子クラスターを酸化還元活性な配位子などで架橋した金属有機構造体(多電子レドックスMOF)を新規に開発し、それを正極活物質とするリチウム電池において、より大きな容量と安定なサイクル特性を実現する。また、これまでの研究において、中にはナノカーボンとの複合化が難しい物質群があることがわかっており、様々な溶媒などを検討することでこのような物質群のナノ複合化を改善する予定である。 次に、固体電気化学反応を利用した新奇物性発現とスイッチングについてであるが、これまでは主に遷移金属酸化物を中心に、その電気化学物性制御の開拓を行ってきた。今後は、それだけではなく、高蓄電特性の開発で新規に得られる多電子レドックスMOFなどを対象に、その電気化学的物性制御に挑む。 なお、上記の研究とともに、その場観測法を利用した機能解明についても適宜行っていくつもりであり、すべての研究をトータルに遂行することで、固体電気化学反応を基盤としたナノ材料の新機能創出を実現する。
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Causes of Carryover |
今年度は、研究室に既にある器具や装置類を用いて物質合成や電池特性および物性評価をすることができたため、そういう面で新たな設備投資が必要なかった。また、主に試薬類をはじめとする消耗品に研究費を使用するだけで、当初の計画以上に研究が進展したため、次年度使用額が生じたと考えている。さらに、大学に共通で使用できる設備などがあったのも、備品などの物品費に研究費を大きく使用しなくてよかった大きな理由の一つではないかと考えている。 なお、今年度は成果をあげることができたものの、遠距離で開催される学会などにあまり参加しなかったことも利用の一つである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の研究を踏まえて、次年度は金属有機構造体の新規作製とその電気化学物性の開拓へと研究を進展させる。その際に、金属有機構造体の基礎物性を検討する必要性があり、そのためには熱重量測定装置の導入が必要であり、その購入に研究費を使用する。また、この研究に従事する研究員の雇用にも使用する予定である。 なお、前年度までと同じ規模で、試薬類やガラス器具、電池部材などの消耗品に研究費を使用する予定である。
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Research Products
(13 results)