2016 Fiscal Year Annual Research Report
マイクロ・ナノ電気穿孔法による細胞核への分子導入法の開発
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26289035
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
新宅 博文 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80448050)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小寺 秀俊 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20252471)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 電気穿孔 / マイクロ流路 / DNA / RNA / 一細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
-オリフィス径と核膜に与えられる電場強度について系統的に解析を行い,それらを関係付ける近似式を開発した.近似式の妥当性を数値解析結果と比較することで検証し,その近似式で精度良く電場強度を算出できる範囲を明らかにした.具体的には,オリフィス径が細胞膜と核膜の距離と比較して小さい場合に近似式は精度良く電場強度を予測できるのに対して,オリフィス径が前述の距離と同程度あるいは大きくなると予測精度が低下することがわかった.ただし,本研究が対象としているマイクロ・ナノ電気穿孔はオリフィス径が十分に小さいという条件を通常満たすため,近似式は本研究の対象範囲において有用であると結論づけた. -細胞周期を同定するためにHoechstを用いてDNA量を定量する光学計測システムを構築した.このシステムでは加えて三種の蛍光DNAを観察するために合計四色のLED照明を組み合わせた.蛍光DNAとして末端をFAM, Cy3およびCy5で修飾した22ntの一本鎖DNAを用い,各蛍光計測に他色の蛍光の漏れ込みがどの程度あるか評価し,それらの漏れ込みを補正する係数行列を実験的に求め,蛍光計測の定量性を高めた. -本研究ではPDMS製のマイクロ流路を使用しているが,PDMSはタンパクが非特異的に吸着しやすい材料として一般的に考えられている.しかし,核酸分子(RNAおよびDNA)の吸着性に関して定量的に評価した研究例は少なく,ここでは特にRNAのPDMSに対する吸着性を評価した.まず,RNAを蛍光色素で染色して定量する方法を試みたが,電場印可時の電気泳動を観察できるという利点がある一方で,蛍光色素自体がマイクロ流路表面に吸着して定量評価の妨げになることがわかった.そこで,RT-qPCRを併用し約10~1,000 pgのRNAをマイクロ流路内で電気泳動させた場合,壁面への吸着は10%程度以下であることを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H26年度においてマイクロ電気穿孔の基本的な実験システムを構築し,マウス由来のA20細胞を用いて原理検証を達成した.これに加えて,実験システムのマイクロ流路内部における流体の流れと核酸分子の濃度を同時に計測する二色蛍光同時計測システムを構築し,その応用例として核酸のハイブリダイゼーションの加速実験を実施した. H27年度はマイクロ電気穿孔システムを改良し,逆円錐状ウェル構造およびオリフィスを有するマイクロ流路で構成する新しいチップデザインを開発し,遠心操作を活用することでウェルに滴下した一細胞を生存状態でオリフィスに捕獲する方法を確立した.また新しいチップデザインの採用により印可電圧を従来の1/10程度に低減できることが分かった. H28年度は蛍光観察システムを四色に拡張するとともに,蛍光計測の定量性を大幅に改善する補正係数行列を作成した.また,マイクロ電気穿孔システムの応用範囲を検証するため,様々な大きさを有する細胞を用いて実験を行なったところ,10~40 μmの細胞で正常にシステムが動作することを確認できた. 以上加えて新たな展開として,電気穿孔時に細胞から溶出する核酸分子が高い品質を有していることが予備実験から明らかとなったため,これを活用して網羅的遺伝子発現解析へ展開することを検討している.
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Strategy for Future Research Activity |
-マイクロ・ナノ電気穿孔法では細胞を固定するオリフィス内部において電気力線が集中し,局所的に電流密度が高くなる.その結果,オリフィス周辺において局所的にジュール熱が生じる.熱の発生は局所的であるが,細胞はオリフィスに接触した状態であるため数値解析を用いて温度上昇を定量的に評価する.数値解析により温度上昇が顕著であることが明らかになった場合は,電気穿孔に用いるバッファのイオン強度を調整することでジュール熱の発生を抑え,細胞の生存率を最大化する条件を探索する. -電気穿孔後の細胞の生存率を高く維持することが困難であることに関連して,電気穿孔の前後で細胞質および核内部から溶出する核酸分子について網羅的な解析を実施する.解析法としては,次世代シークエンシング技術を用いた方法を検討している.具体的には電気穿孔直後の細胞および周囲流体を回収し,それらの溶液に含まれる核酸分子の配列を同定し,溶出している核酸分子における長さ依存性や二次構造との関連性の有無等を多角的に検討する.これをもとに電気穿孔に用いる電場強度と溶出分子の関連性を調査し,分子の溶出が少ない低侵襲な条件を割り出す. -電気穿孔実験のデータを蓄積することで,方法の再現性について検討する.実験の効率を向上するために並列で電流計測できる装置を開発する.電気穿孔を一細胞ごとに検討するために,それぞれの電流計測を電気的に絶縁し,低ノイズでサブμAオーダの計測を可能にする.また,並列化による回路および計測系の煩雑化を抑えるためにデマルチプレクサを用いた回路を開発する.
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Research Products
(6 results)