2017 Fiscal Year Annual Research Report
マイクロ・ナノ電気穿孔法による細胞核への分子導入法の開発
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26289035
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
新宅 博文 京都大学, 工学研究科, 助教 (80448050)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小寺 秀俊 京都大学, 工学研究科, 教授 (20252471)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 電気穿孔 / マイクロ流路 / DNA / RNA / 一細胞 / 電気泳動 |
Outline of Annual Research Achievements |
マイクロ・ナノ電気穿孔法における膜穿孔をSmoluchowski式で記述し,細胞膜における分子透過性および電気伝導性の局所的な変化を数値解析的に算出した.さらに,Nernst-Plank式により電解質イオンおよび核酸分子の流動を解析した.得られた結果から,電気穿孔により分子透過性が上昇する領域はオリフィス近傍のみであり,オリフィスの反対側ではほぼ分子透過性が変化しないことが明らかとなった.これにより,電気穿孔後に生じる細胞内の分子流動は基本的に拡散支配であり,電気泳動の効果は相対的に小さいことがわかった.ただし,オリフィス近傍では電気泳動により核酸分子が輸送され,その結果として生じた細胞内の濃度勾配により細胞内部の濃度変化が起こるという過程が明らかとなった.以上の結果は細胞内外の電気伝導性に非依存的であり,ジュール熱を抑えることを目的に電気伝導性の低いバッファを用いた場合においても細胞内からの分子の溶出は高々拡散による程度であるということも明らかとなった.マイクロ・ナノ電気穿孔における分子流動の素過程を可視化した実験結果と上記数値解析結果は定性的に一致しており,基本的に分子透過性の変化はオリフィス近傍のみに生じており,細胞内外の分子流動はその周辺のみで観察された. マイクロ・ナノ電気穿孔を並列化するマイクロ流体システムおよびその制御回路を開発した.細胞をマイクロ流体システムに導入する煩雑な作業を簡便にするためにミリスケールのウェルからマイクロ流路のスケールを滑らかに接続した構造を生産するための方法論を検討し,別々に製作した部材の貼り合わせによる方法を実現した.また,デマルチプレクサを用いた回路で64チャンネルに対して並列に電圧の印加とμA程度の電流計測を実現することに成功した.これら製作した並列マイクロ流体システムの動作確認を行い,設計仕様を満たしていることが確認できた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
H26年度においてマイクロ電気穿孔の基本的な実験システムを構築し,マウス由来のA20細胞を用いて原理検証を達成した.これに加えて,実験システムのマイクロ流路内部における流体の流れと核酸分子の濃度を同時に計測する二色蛍光同時計測システムを構築し,その応用例として核酸のハイブリダイゼーションの加速実験を実施した. H27年度はマイクロ電気穿孔システムを改良し,逆円錐状ウェル構造およびオリフィスを有するマイクロ流路で構成する新しいチップデザインを開発し,遠心操作を活用することでウェルに滴下した一細胞を生存状態でオリフィスに捕獲する方法を確立した.また新しいチップデザインの採用により印可電圧を従来の1/10程度に低減できることが分かった. H28年度は蛍光観察システムを四色に拡張するとともに,蛍光計測の定量性を大幅に改善する補正係数行列を作成した.また,マイクロ電気穿孔システムの応用範囲を検証するため,様々な大きさを有する細胞を用いて実験を行なったところ,10~40 μmの細胞で正常にシステムが動作することを確認できた. H29年度は上述の研究実績に加えて溶出分子を回収して網羅的遺伝子発現解析を実施した.これにより一細胞からおよそ6,000種類の遺伝子を検出する事に成功した.また,溶出した分子は基本的に細胞質由来であり,溶出分子とそれ以外をそれぞれ回収すると細胞質成分と核成分に高い精度で分離できることが明らかになった.この発見を応用したSINC-seq法(Single cell Integrated Nuclear and Cytoplasmic RNA-seq法)を開発した.
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度までに開発した並列マイクロ流体システムを用いた実証実験を進める.これまでは主にK562という血球系の培養細胞で実験を実施して来たが,扱う細胞種を増やし,開発した方法の応用範囲を広げたい.哺乳類細胞を中心に実験を進めることを計画しているが,藻類あるいは植物細胞などについても検討の幅を広げたい. また,数値解析により得られている知見について細胞内外の電気伝導性,膜の分子透過性(電気穿孔により生じるポアの大きさ),輸送される分子の流動性(核酸分子の長さ依存性)等が結果に及ぼす影響を系統的に解析し,マイクロ・ナノ電気穿孔における分子流動の詳細を明らかにしたい.
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Causes of Carryover |
本年度調達を予定していた研究資材が年度内に納品できないことが明らかになったため,H29年内の発注は取りやめた.
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