2015 Fiscal Year Annual Research Report
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26289050
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
稲田 孝明 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 省エネルギー研究部門, 主任研究員 (60356491)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 氷 / 核生成 / 表面 / 高分子 / 着霜 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、氷の核生成を抑制する効果を持つ合成高分子を利用して、過冷却水滴からの氷の核生成抑制を可能とする疎氷性固体表面の創出を試みることを目的としている。今年度は、合成高分子を作用させたアルミニウムなどの金属表面を作成し、その疎氷性の評価を行った。 まずは測定が比較的容易な金属微粒子を用いて測定を行った。金属微粒子には粒径1ミクロン程度のヨウ化銀とアルミナを用い、合成高分子にはポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)の三種類を用いた。金属微粒子を懸濁した10ミクロン程度の微小水滴を冷却して氷の核生成温度を測定することにより、合成高分子の疎氷性を評価した結果、ヨウ化銀に対してはすべての合成高分子の作用が疎氷性を示すが、アルミナに対してはPVAのみが疎氷性を示す結果が得られた。また高分子を作用させる時間によって異なる結果が得られ、高分子の拡散、吸着過程を考慮すべきこともわかった つぎにアルミニウム板にPVAを作用させた表面を作成し、その表面上に数百ミクロン程度の水滴を置き、これを冷却して氷の核生成温度を測定することによって、アルミニウム表面の疎氷性を評価した。その結果、PVAを作用させる際の濃度及び時間を最適化することにより、アルミニウム表面に疎氷性が付与されることがわかった。作用させるPVA濃度はng/ml以下のオーダーでも効果があったことから、PVAはアルミニウム表面の氷核活性サイトに対して選択的に作用していると考えられる。高分子を作用させる濃度及び時間の影響を考察することにより、高分子が固体表面の氷核活性を抑制するメカニズムを明らかにできる可能性があり、高分子の作用条件を拡大して疎氷性の評価を行う必要があると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、合成高分子を作用させたアルミニウムなどの金属表面を作成し、その疎氷性の評価を行うことを計画していた。また、測定結果に基づいて、合成高分子が固体表面の氷核活性を抑制するメカニズム解明に着手することも計画していた。 金属表面上では透過光による顕微鏡観察が行えないことから、疎氷性評価のための氷の核生成温度測定に技術上の工夫が必要であったが、比較的順調に解決することができた。その結果、実際に合成高分子を作用させたアルミニウム表面で疎氷性を確認することができ、さらに疎氷性が高分子を作用させる濃度及び時間の影響を受けることから、高分子の作用条件を変えた測定によってメカニズムを考察できる可能性を示すことができた。 以上の結果を得たことで、当初の計画通りおおむね順調に研究が進展していると自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究が計画通りに進展したため、来年度も当初の計画通りに研究を推進する予定である。 まずは今年度から継続して、合成高分子を作用させたアルミニウムの疎氷性固体表面を作成し、その固体表面上に置いた水滴中で氷の核生成温度を測定することによって、作成した固体表面の疎氷性を評価する。合成高分子の作用条件を拡張したデータを取得することによって、疎氷性固体表面作成方法の最適化を図ると同時に、メカニズムの解明にも取り組む。 さらに、合成高分子を作用させた疎氷性固体表面の技術的な実用性を検証するために、ヒートポンプ用熱交換器を模擬した着霜実験を行う。空気の温湿度条件制御が可能なチャンバー内に疎氷性固体表面を設置し、固体表面温度を制御して、水滴の凝縮、水滴中の氷の核生成、水滴の凍結、霜の成長といった一連の現象を観察できるような測定装置及び手法を確立する計画である。固体表面の疎氷性は、水滴凝縮から氷の核生成に至るまでの時間で評価する。それ以外にも、実験開始から水滴が凝縮するまでに要する時間、凝縮水滴の接触角、サイズ分布、数密度、水滴凍結後の霜成長の様子などに対する固体表面の影響も評価し、さまざまな視点から実用上最適な疎氷性固体表面について検討する。 なお、得られる疎氷性の結果によっては、着霜実験の評価項目の一部を縮小して、引き続き疎氷性固体表面の作成方法の最適化に重点を置く、あるいは疎氷性のメカニズム解明を急ぐなど、研究目標に向けて効率的に研究が進められるように、進捗状況に応じて柔軟に対応してく予定である。
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Causes of Carryover |
今年度は実験が計画段階で予想していたよりも不具合なく遂行でき、また現有設備を使用することで十分な実験を行うことができたため、物品費支出額が当初の計画よりも大幅に少なく済んだ。旅費、人件費・謝金、その他の使用額については、当初の計画から多少の増減はあったものの、ほぼ計画通りの支出額で収めることができた。その結果、全体として1,242,350円の次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、主に疎氷性評価や着霜の実験の進捗を加速する目的で、実験・データ解析補助要員の人件費、及び実験で使用する消耗品の物品費として使用する計画である。
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