2015 Fiscal Year Annual Research Report
小脳疾患患者・マウスの運動力学解析に基づく姿勢機能障害の構成論的解明
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26289063
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
舩戸 徹郎 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 助教 (40512869)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柳原 大 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (90252725)
石川 欽也 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 教授 (30313240)
青井 伸也 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (60432366)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 姿勢制御 / 小脳疾患 / 力学モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
小脳疾患に伴う姿勢制御機能の変化のメカニズムを明らかにするため、本年度は1:小脳疾患ラットの運動計測及び解析、2:小脳疾患ラットの制御系の評価を行い、以下の結果を得た。 [1:小脳疾患ラットの運動計測と解析] 下オリーブ核に障害を持つラットに対して、後肢2足による直立動作を180秒以上計測し、重心動揺の解析を行った。ヒトの小脳疾患患者の運動を解析した従来研究から、疾患に伴ってカオス的複雑性が上昇すると指摘されており、今回のラットにおいて、同様の変化が生じるかを調べるため、リアプノフ指数によってカオス的複雑性を調べた。その結果、疾患ラットでは、健常ラットに比べて、リアプノフ指数が明らかに上昇し、この変化が動作によって示唆された疾患の重症度を反映することを示した。 [2:小脳疾患ラットの制御系の評価] 小脳疾患に伴うカオス的複雑性の変化がどのような制御メカニズムによって生じているかを調べるため、倒立振子による身体モデルと非線形性を持った制御モデルからなる力学モデルを用いて、制御系の評価を行った。同定の結果、制御ゲインの低下はみられたものの、同定した力学モデルは小脳疾患ラットで見られたカオス的複雑性の変化を示さなかった。このことは、カオス的複雑性の変化に、制御ゲイン以外の要因が関わっている可能性がある。そこで、一つの可能性として、小脳疾患に伴う振戦による振動が関わっている可能性を考え、制御系に振戦を加えたシミュレーションを行った。その結果、振戦による振動がカオス的複雑性の変化を説明できることが示された。 カオス的複雑性に影響を与える可能性のある運動変化として、振戦以外に関節間協調の低下に伴う身体モデルの変化や、筋緊張の低下などが考えられるため、今後、実際の患者におけるこれらの変化の計測と、力学モデルによる影響の評価を行うことで、姿勢動作の変化のメカニズムを明らかにしていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の研究では、昨年度構築したラットの2足直立の実験と、それによって得られたデータを中心に研究を進めてきた。実験では、健常及び小脳系に疾患を持つラットに対して直立動作を計測し、両方の実験において、非拘束下での定常的な直立状態に成功している。特に小脳疾患を持つラットにおいても、180秒の長時間にわたって実験データが得られたことは、想定以上であり、他の研究でみられないユニークなデータが得られた。また、解析によって得られたリアプノフ指数の変化は、過去の小脳疾患患者の研究と同様の性質をしており、得られたデータを元に、ヒトの疾患へのアプローチが可能な、良質なデータであると考えられる。これらの結果から、実験に関しては、当初の想定以上の結果が得られていると考えられる。 力学解析に関しては、得られた小脳疾患のラット、及び健常ラットのデータを元に順調に解析が進んでいる。疾患による制御系の変化が、単なる制御ゲインの変化で説明できなかったことは、予測と異なっていたが、このような変化が生じる原因を挙げ、そのうちの一つの可能性として、振戦などの外部振動要因を考慮することで、データの説明ができるようになった。これらの要因が実際の疾患患者の運動において、解析で予想された通りの働きをするかという問題が、次年度の課題として残されているが、解析の達成度は順調であると考えられる。 平成27年度の残された課題として、ヒトの小脳患者の解析が遅れていることが挙げられる。一方で、これまでのラットの実験を通して、考えられる機能低下のメカニズムやそれを解析するための具体的な計測項目について、洗い出すことができたため、平成27年度の研究における計測・解析によって、これらのメカニズムがヒトにおいても成り立つかという観点を中心に、順調に検証できると考えられる。 以上の結果から、現在までの達成度は「順調」であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
ラットの運動計測に関しては、現在の実験環境を用いて、小脳疾患を持つラットの動作計測を続けていく。また、投与した薬物がどの程度神経系に影響を与えているかを調べるため、実験後に脳切片を取り出し、神経の数をカウントする。また、カオス的複雑性の変化を生じた可能性の一つとして、筋緊張の体が生じているかを筋電の計測によって検証する。 力学解析については、平成27年度の研究で考慮した振戦の影響以外に、関節間協調の変化による身体モデルの変化、及び筋緊張の低下が、カオス的複雑性の変化をもたらすかを検証する。身体モデルとして、これまでに考慮してきた1リンクの倒立振子モデルに加えて、体幹の動作を加えた2リンクの倒立振子モデルを用いた力学モデルを構築し、2リンクの身体モデルにおいてリアプノフ指数を計算する。振戦や関節間協調の変化をラットの実験データにおいて定量的に評価し、これらの変化によってカオス的複雑性の変化が生じるのかについて、定量的に解析する。 最後に、小脳疾患患者の運動計測・解析を行い、ラットの実験を元に得られたメカニズムが、ヒトにおいても成り立つのかについて検証する。
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Causes of Carryover |
平成27年度の研究の中で、ラットの実験によって想定以上に有用なデータが得られたため、平成27年度はラットを中心とした研究に重点を置いた。そのため、小脳疾患患者の実験・運動解析に関わる費用を次年度に繰り越し、次年度の運動計測・解析を中心として当該費用を使用することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に繰り越した費用は、平成27年度に行わなかった小脳疾患患者の運動計測のための謝金や、実験に関わる消耗品、及びヒトの実験・力学解析に関する打ち合わせのための旅費に用いる。
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Research Products
(21 results)