2015 Fiscal Year Annual Research Report
原子分解能で細胞を解析する部位選択高感度固体核磁気共鳴法
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26291029
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
藤原 敏道 大阪大学, たんぱく質研究所, 教授 (20242381)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 細胞内分子構造 / 核磁気共鳴 / 生物物理学 / 常磁性造影剤 / 細胞内局在イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内において運動性の高い球状蛋白質などの機能,構造,相互作用,安定性を原子分解能で解析できるのがIn-cell NMR分光法である。本課題では,この方法を発展させて運動性の低い生体膜の蛋白質構造や細胞質の蛋白質集合体構造を定量的高感度でNMR解析可能にする。同時にNMRで細胞内での位置情報を得られるようにする。応用としてモデル膜蛋白質pHTrIIについてNMRで得られた蛋白質構造や細胞内位置情報,電子顕微鏡像を組み合わせて,0.1nmから1μmの分解能で細胞モデル構造を提示する。このために,1) 多次元固体NMR定量測定法,2)NMR感度を1000倍向上させたDNP固体NMR法,3)位置情報を与える常磁性造影剤・分極剤の細胞局在法,4)スピン拡散距離測定法,5)対象蛋白質選択的な安定同位体13C,15N標識法を実施する。 細胞部位選択的高感度固体NMR法の確立するために,初めに次の要素技術を高度化した。1) 多次元固体NMR定量解析法,2) DNP-NMR感度向上法,3) 細胞に局在する常磁性造影剤・分極剤利用法,4) スピン拡散距離測定法,5) 細胞内の特定蛋白質選択的な同位体標識法。例えば,2)では感度向上DNP用分極剤の細胞内局在の実証,4)では細胞表面に局在する造影剤との距離を求めるための磁気緩和速度解析である。これらを標識蛋白質が含む細胞系に適用可能にして統合した。各要素技術は既に部分的に開発を進めた。これらを統合して,膜蛋白質pHtrIIと水溶性蛋白質ユビキチンについて,細胞内での蛋白質構造など状態,蛋白質数,細胞内での存在分布を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
NMR定量法として,細胞当たりについて,標識蛋白質数,共鳴周波数で区別できる他の蛋白質,核酸,糖,脂質を定量できるように検量した。ここではNMRのシグナル面積強度は,試料内の核スピン数に比例することを利用する。定量性を損なう分子運動に依存した信号強度変調を除去し,実験中の溶菌を防ぐために,実験は250 K以下の低温で行う。装置に依存した感度の影響を除くために,内部基準を加える。細胞数については,透過型電子顕微鏡での細胞の形状測定,光学顕微鏡による細胞数計測も組み合わせることにより,NMRで求めた。 細胞に局在する常磁性造影剤・分極剤利用法として,常磁性造影剤は,これまで核磁化緩和促進度が最も大きいGd3+イオンを調べた。Gd3+については弱いながらも,大腸菌の内膜に対する透過性を示す結果を得ている。この解析では,細胞内の水の核磁化緩和速度から常磁性種濃度を見積もった。望ましい毒性の低いキレート錯体Gd3+-DOTAについても細胞での局在を調べて応用した。 DNP-NMR感度向上法については,磁場強度700MHzのDNP-NMR装置で,Heガスで30Kの極低温下で1000倍近い感度向上を行った。この世界的にも最高の感度で,1細胞当たり分子数100の蛋白質まで解析できるようになった。この感度で,同位体標識化合物の代謝過程が検出できることを確認している。また,標識蛋白質と他の細胞成分,例えば膜蛋白質pHtrIIでは脂質膜,ペプチドグリカン,リポ多糖との相互作用の検出を核双極子結合を利用して行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
DNP-NMR感度向上法として,In-cell 固体NMRスペクトルは,大量発現させた菌体であっても,通常固体NMRスペクトルに比べて約2割程度の感度になり,測定には数日の積算を要した。DNP法で500倍以上高感度化させることで,1時間以下での測定や発現量の低い蛋白質の解析が可能にする。DNP実験では,ラジカル化合物テンポールあるいはアミュポールなどを用いる。親水性の異なるラジカル化合物や基剤を試して,NMR感度が最大になるよう条件を最適化する。DNPによる感度向上を行うDNP-NMR装置は,1H共鳴周波数700MHzの磁場強度で,2015年からは13C-高分解能固体NMRの測定をできるようにした。ジオルレゾンス社と開発した磁場強度700MHzの装置を蛋白研に設置して,感度と分解能向上を計る。この装置についてもマシンタイムの一部を本課題に供する予定である。 磁場強度700MHzのDNP-NMR装置では,Heガスで30Kの極低温下で1000倍近い感度向上を予定している。この世界的にも最高の感度で,1細胞当たり分子数100の蛋白質まで解析できるようになる。この感度で,同位体標識化合物の代謝過程が検出できることを確認する。また,標識蛋白質と他の細胞成分,例えば膜蛋白質pHtrIIでは脂質膜,ペプチドグリカン,リポ多糖との相互作用の検出を核双極子結合を利用して行う。 蛋白質立体構造解析として,標識した蛋白質については,13C,15Nについて一連の多次元マジック角回転固体NMRスペクトルを測定して,残基分解能での高次構造を明らかにする。このスペクトル解析には,我々が開発したNMR蛋白質情報学に基づく自動構造解析法RESPLSを用いる。また,シグナルの線幅から構造の揺らぎ情報を得る。膜蛋白質pHtrIIとユビキチン等について,この解析を行う。
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Causes of Carryover |
本年の学会発表は招待講演が多かったために,また論文の出版費も共著者が負担するものがあった。装置が安定に実験を行えるようになったのでNMRローターの破損数などが予定より少なかった。これにより支出は予定より少なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初計画に従って,試料調製用同位体や固体NMR測定備品などを購入して,実験的研究を進める。また,装置使用分の電気代などの増加を負担する必要が出てきたので,これにも充当する。
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