2015 Fiscal Year Annual Research Report
水素原子レベルの時分割解析による呼吸鎖末端酸化酵素のプロトンポンプ機構の研究
Project/Area Number |
26291033
|
Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
吉川 信也 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 名誉教授 (40068119)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 呼吸鎖末端酸化酵素 / プロトンポンプ / 膜タンパク質 / ヘムタンパク質 / 時分割X線構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
O2還元過程の赤外/可視分光解析。文献記載のCaged O2化合物の性能を組織的に検討し、光感受性は遮光と温度により制御でき、本研究の目的には十分の速度でO2が放出されることが明らかになった。また、2種の新規化合物の合成にも成功した。一方フローフラッシュ法の精度向上は順調に進歩し摂氏5度ではO2結合型70程度の寿命を持つことが明らかになった。 時分割X線構造解析。昨年度のXFELによる休止酸化型の無損傷X線構造につづいて、CO光解離後の時分割X線構造解析により赤外分光学的にとらえられている中間体の時分割構造解析を、常温でSACLAにより行った。その結果、CuB がポンププロトン逆流防止(したがって、エネルギー変換効率の向上)機構の中核として機能していることが明らかになった。また時分割XFEL実験に不可欠な湿度制御システムが開発された。 CcO反応中間体の静止X線構造解析。P中間体のCO/O2混合気体による調製法がほぼ確立された。その他の中間体については複数の中間体が混在している状態の解析法により構造解析の精密化が進められた。O2還元中心の機能解析のためアジ化物結合をX線構造解析とラマン分光法により解析し2当量を受容できることが認められた。また質量分析により2量体形成機構への脂質の関与が証明された。 チトクロムc(CytcC)/CcO相互作用解析。複合体の三次元構造解析に大幅な進歩があり、3層の水分子が複合体安定化に寄与していることが認められた。これは水分子の新規の機能を示唆している。一方、CytcC の部位特異的変異の電子伝達反応に及ぼす効果とX線構造に基づいて代謝回転中の複合体構造が導出された。これと関連して低酸素耐性因子であるHigD1aもプロトンポンプ機能を促進していることを示唆する結果を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献記載のCaged O2化合物に光感受性が発見されたため実験条件の再検討を昨年度行い、現在結晶CcOでの反応追跡に利用するための条件の検討中である。この課題は当初の計画よりやや遅れているが、これ以外は順調以上に進展している。特に休止酸化型CcOの無損傷構造の決定につづいて、CuB がポンププロトン逆流防止(したがって、エネルギー変換効率の向上)機構の中核として機能していることを明らかにしたSACLA実験の成果はCcOのプロトンポンプ機構解明に大きく貢献するだけではなくフェムト秒レベルの時間分解能の時分割X線構造解析が可能であることを実証するものであり、生命科学全体への大きな波及効果が期待できる(投稿準備中)。また、チトクロムc/CcO 複合体の3次元構造解析から明らかにされた複合体形成機構は、プロトンポンプにはチトクロムcからの制御された電子伝達が不可欠であるので、プロトンポンプ機構解明に大きく貢献することが期待できる。また、三層の水分子配列形成による複合体の安定化は、エネルギー変換効率の最適化に大きく寄与していると考えられるがこのような例は他には知られていない。さらに部位特異的変異解析結果に基づく代謝回転中の酵素基質複合体形成機構や質量分析による2量体形成機構への脂質の関与の証明等はどれも当初計画以上に大きく進展した課題といえる。特に前者はCyt.C-CcO間の電子伝達機構を代謝回転中のCyt.C-CcO複合体の構造から解明することを目指す新規な蛋白質機能解析方を提示するものであり大きな波及効果が予想される。Caged O2を利用した反応追跡システムの開発が遅れているため、区分(2)を自己点検評価とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
O2還元過程の赤外/可視分光解析。結晶中のCcO反応の追跡に利用できる化学的性質を検証しつつCaged O2化合物の設計合成を継続する。フローフラッシュ法により完全還元還元型および部分(2電子)還元型CcOによるO2還元過程の赤外/可視分光解析を行う。Caged O2化合物による対照実験も行う。またCaged O2化合物を利用して結晶中での反応過程を追跡する。 時分割X線構造解析。初年度に開始したCO光解離後の時分割X線構造解析により赤外分光学的にとらえられている中間体のX線構造決定は昨年度ほぼ完了したが、実験条件の改善によってさらに分解能の向上を目指す。この結果に基づいてプロトン取り込み機構の理論的解析を昨年度に引き続き継続する。上述の結晶中での反応過程の赤外/可視分光解析結果に基づいて各反応中間体(A, P, F, O)の存在割合の最も高い時間の見積りを行い、その時間でのX線構造のXFELによる時分割解析を行う。時間的制約と学術的重要性を考慮して中間体Aを第一目標とする。静的状態でのP, F, O中間体のX線結晶構造を可能な最高分解能で決定する。 チトクロムc/CcO相互作用解析。TLC法によるCcOに直接関与するアミノ酸残基の同定、チトクロムcとCcOとの熱力学的解析を行う。また、チトクロムc/CcO複合体の2次元および3次元結晶構造解析の結果及び代謝回転中の酵素基質複合体の構造解析結果に基づいて、チトクロムcによるプロトンポンプ制御機構の解明を目指す。平行してHigD1a結合型の高分解能X線構造およびラマン分光解析に基づいたプロトンポンプ機構の議論も行う。 中性子構造解析のための結晶化条件の探索。当面3オングストローム分解能を目標とする。 理論解析による評価をうけた上述の実験結果にもとづいてプロトンポンプ機構を演繹する。
|
Research Products
(24 results)
-
[Journal Article] Osuda Y, Shinzawa-Itoh K, Tani K, Maeda S, Yoshikawa S, Tsukihara T, Gerle C.2016
Author(s)
Osuda Y, Shinzawa-Itoh K, Tani K, Maeda S, Yoshikawa S, Tsukihara T, Gerle C.
-
Journal Title
Microscopy
Volume: 65
Pages: in press
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Acknowledgement Compliant
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
[Presentation] Collection of 4 pumping-proton equivalents into Mg2+-containing water cluster of cytochrome c oxidase, revealed by X-ray analyses2015
Author(s)
S. Yoshikawa, N. Yano, A. Shimada, K. Muramoto, S. Takemura, K. Shinzawa-Itoh, E. Yamashita, T. Tsukihara
Organizer
Bioenergetics, Gordon Research Conferences
Place of Presentation
Procter Academy Andover, NH (USA)
Year and Date
2015-06-21 – 2015-06-26
Int'l Joint Research
-
-