2016 Fiscal Year Annual Research Report
植物葉緑体内包膜における蛋白質輸送メカニズムの完全解明
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26291060
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中井 正人 大阪大学, たんぱく質研究所, 准教授 (90222158)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 葉緑体 / 蛋白質輸送 / 蛋白質膜透過 / オルガネラ / 生合成 / 膜蛋白質複合体 |
Outline of Annual Research Achievements |
葉緑体の多様な機能発現には、核ゲノムにコードされた2千種類を超える蛋白質が協調的に発現し葉緑体に輸送されることが必須である。この過程に関与する葉緑体内包膜蛋白質輸送装置の実体は長年議論の的であったが、我々は、双子葉モデル植物のシロイヌナズナを用いた解析で、1MDaの新奇な膜蛋白質複合体が葉緑体内包膜で蛋白質輸送の中心的な役割を担う事を示し、すべての構成因子の同定に成功した。続けて、この輸送装置に付随しATP依存的に蛋白質引き込みを行なう7因子からなる新奇な2MDaの輸送モーター複合体の同定にも成功した。これらの構成因子は、どの一つの欠損もシロイヌナズナにおいて致死性であった。比較ゲノム解析の結果、この輸送装置およびモーター複合体は、緑藻および陸上植物において広範囲に保存されていた。同時に、非常に興味深いことに、単子葉植物の中でも最近分岐したイネ科植物においてのみ、中核因子Tic20は保存されているものの、その他のほとんどすべての因子は失われている事が分かった。この事は、葉緑体蛋白質輸送という植物にとっては根幹の分子機構が、イネ科植物においては大きく変化したことを示している。本研究期間において、われわれは、イネ科に残された中核Tic20を手掛かりにイネ科の輸送装置の単離と全因子の同定に成功し、その詳細な解析を進めることができた。このような研究の進展において、今後は、イネ科特有の葉緑体蛋白質輸送装置のさらに詳細な分子メカニズムの解明とその生理的意義を明らかにすることも重要な研究課題として浮かび上がってきている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
葉緑体蛋白質輸送装置の解析は、新奇の膜透過装置の全因子の同定、付随して働くモーター複合体全因子の同定、さらには、進化の段階の異なる藻類や、イネ科植物の輸送装置の同定にまで、解析を進めることができた。このことは、本研究分野の進展において大きなブレークスルーとなったと自負している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後しなければならないことは、まず第一に、これらの新発見をインパクトの高いジャーナルにおいて論文発表することである。そして、この分野の研究の世界的な方向性を決定付けたのちに、ここの複合体、そしてそれらを構成する個々の蛋白質因子の詳細な役割について、構造レベルの解析を加えながら進めていく必要がある。さらには、個々の因子の機能的連携、複合体間の機能的連携にまで研究を発展させる。また、藻類やイネ科の輸送装置についても、同様の詳細な解析を進めていく必要があり、それらを通して、生物が長い進化の過程で確立してきた、葉緑体への蛋白質輸送装置の全容解明に、ひいては、真核細胞構築原理の理解に貢献できると考えている。今後は、益々、解析に人手や研究費が必要となると考えられ、科研費を中心とした外部資金の獲得にも注力したい。
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Causes of Carryover |
葉緑体蛋白質輸送の分子機構の詳細な解明を進める本研究では、その解析に、植物体を栽培し、そこから調製した葉緑体で輸送実験を行う必要がある。1回の実験に用いる植物体の栽培には2週間以上必要で、さらに輸送実験の結果の解析には1週間程度必要である。現在進行中の解析で、論文を完成させるには、あと数回の輸送実験を行う必要があり、使用期間の延長を申請した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度使用予定額は、非常勤特任研究員の雇用費と消耗品費に充てる。
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