2015 Fiscal Year Annual Research Report
遺伝的多様性維持機構の解明:ヤチネズミ個体群の空間構造と個体数変動に着目して
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26291086
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
齊藤 隆 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (00183814)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒木 仁志 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20707129)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 生物多様性 / 遺伝的多様性 / 集団遺伝学 / 国際研究者交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は,エゾヤチネズミ個体群の遺伝子分析に基づき,北海道本島の個体群では,ミトコンドリアDNAの多様性は核DNAのそれとほぼ同等か,ミトコンドリアDNAの方が高い,というパターンを見いだした.しかし,哺乳類におけるミトコンドリアDNAの有効遺伝子数は,核DNAのそれよりも理論上は四分の一であり,集団遺伝学上の理想集団においては,ミトコンドリアDNAの多様性は核DNAのそれよりも低くなると予想される.代表者は,理論的予測と実測値の違いを説明するために,「ミトコンドリアDNAに基づく集団構造は核DNAに基づく構造よりも小さく,核DNAに基づく集団に内包される,という分集団構造を持ち,ミトコンドリアDNA分集団間の移動によって,ミトコンドリアDNAに対してより高い多様性がもたらされる」という仮説を提唱した.
これまでは,この仮説による予測をエゾヤチネズミ個体群を対象に着実に実証してきたが,本年度は,実証研究を進めるとともに,この仮説の一般性を検討するために,集団遺伝学の基本理論を再整理し,他の哺乳類個体群の分析結果をメタ解析することによって,仮説を補強することに努めた.その結果,哺乳類19種,80個体群のほとんどは理論予測とは異なる遺伝的多様性パターンを示し,哺乳類の野生集団は集団遺伝学上の理想集団とは異なる性質を持っていることを明らかにした.理論値からの逸脱の原因をシミュレーション分析によって解析した結果,代表者が提唱する仮説に基づく性質に加えて,哺乳類個体群は過去に強いボトルネック(非常な低密度)を経験していることが強く示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究代表者が提唱する遺伝的多様性の維持機構に関する仮説の一般性を検証する中で,個体群の空間構造に加えて,ボトルネックの効果が重要であることがわかった.これは,遺伝的多様性の維持機構に関する研究における大きな進展である.本課題では,検証すべき第3の予測として「個体群が大発生すると移動性が促進され遺伝的多様性が高まる」を考えてきたが,この予測の検証とともに,第4の予測「個体群がボトルネック(非常な低密度)になると遺伝的多様性が個体群間変異が大きくなる」ことについても検証する必要性が生じた.つまり,本課題の達成度は,当初に予定していた仮説を着実に実証しているのに加え,今後の発展につながる新規事実を発見したと自己評価できる.
これらの研究成果は東アジア生態学会連合大会のシンポジウムで発表し,現在,論文執筆に入っている.
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Strategy for Future Research Activity |
検証すべき第3の予測として「個体群が大発生すると移動性が促進され遺伝的多様性が高まる」と第4の予測「個体群がボトルネック(非常な低密度)になると遺伝的多様性が個体群間変異が大きくなる」を検証する.また,これまでの成果を論文にまとめる.また,スウェーデン個体群の遺伝子分析は,北海道個体群で培われた手法が有効であることを確認した.平成28年度に本格的な分析を行う.
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Causes of Carryover |
消耗品を節約したため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
試薬を購入する.
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Research Products
(14 results)