2016 Fiscal Year Annual Research Report
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26292029
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
刑部 正博 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (50346037)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菅原 達也 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70378818)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | UVB / 光回復 / 光修復 / カロテノイド / 環境適応 |
Outline of Annual Research Achievements |
UVBによるDNA損傷は、損傷を受けた遺伝子が発現しない発育ステージでは大きなコストにならず、遺伝子発現までに光修復が完了すればハダニはUVによる致死的ダメージから回復できるという仮説を検証するため、ナミハダニ幼虫にUVBを照射(2.088 kJ/m^2)し、その後の発育状況を調査した。最終的にすべての個体が死亡し、75%の幼虫は第一静止期まで発育した。しかし、対照区に比べて発育が遅延し、全ての発育個体は第一静止期のままか、もしくは脱皮の失敗により死亡した。このことから、UVBによる死亡は静止期に集中することが明確になると同時に、形態形成が阻害されていることが示唆された。また、昨年度の光回復におけるDNA修復の結果と合わせて、DNA損傷の修復が行われない一方、幼虫のまま死亡した25%の個体は、照射の1日後には正常に活動していたが、その後苦悶する様子が見られ、徐々に死亡していった。幼虫期の発育遅延および死亡には昨年度ミカンハダニで確認したUVBにより発生した活性酸素による脂質の酸化が影響している可能性が考えられる。次に、幼虫期にUVBを照射した後に第一静止期に入った個体を集めてRNAを抽出して、次世代シーケンサーによるRNA-seqを行い、UVB無照射の個体と遺伝子発現量を比較した。この結果、myosin heavy chainやcuticle proteinなどの顕著な発現低下が明らかになった。さらに、UVBの生物影響に対する気温の影響を、夜間のUVB照射と日中の光回復という条件下で検証した。その結果、気温の低下により、ハダニに対する生物影響が高まることが明らかになった。一方、ハダニの天敵であるカブリダニに対しては気温の低下による生物影響の増大は認められなかった。これらの違いには、発育速度が影響している可能性が考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、DNA損傷による致死効果の確認から、DNA損傷の影響による致死メカニズムの解明とカロテノイドの生体保護機能の検証を目指している。これまでにDNA損傷と修復パターン、致死と光回復のタイミング、カロテノイドによる過酸化脂質蓄積の抑制などが分かってきた。さらに、昨年度、発育ステージ特異的な死亡とUVB照射区の死亡ステージにおいて、キューティクルなど脱皮や形態形成に関連する興味深い遺伝子の発現低下がRNA-seqによって明らかになった。また、気温の低下がハダニに対するUV影響を強めることと、一方で天敵であり発育速度が速いカブリダニにおいてはそのような影響が見られないことが明らかになった。本年度は、これらの現象を検証していく予定であり、それによって当初の目的が達成されるものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度のRNA-seqにより、UVB照射によって発現抑制されていた遺伝子について、発現変動およびDNA損傷との関係を検証して、発育ステージ特異的死亡のメカニズムを証明していく予定である。 また、気温の低下によるハダニでのUV生物影響の増大と天敵であるカブリダニへの影響の小ささには、DNAのUV損傷が積算照射量に比例することと光回復における修復酵素の活性と気温との関係などが影響している可能性が考えられる。これらの現象の解明は、現在、農業現場において取り組まれているUVBランプを利用したハダニの防除技術開発に大きく貢献する知見にもなる。このため、今後、気温とUVBによる致死効果の関係を精査する予定である。
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Causes of Carryover |
次年度参加予定の国際会議の開催時期が未定で、参加料の支払いに備えていたなどの理由により、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度に当たり、RNA-seqで得られた成果の検証ならびに国際研究集会での成果発表などに補充して有効に使用する予定である。
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Research Products
(9 results)