2014 Fiscal Year Annual Research Report
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26292048
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
宮崎 健太郎 独立行政法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 研究グループ長 (60344123)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 応用微生物学 / 進化 / バイオテクノロジー / リボソーム / 水平伝播 |
Outline of Annual Research Achievements |
課題1年目にあたる平成26年度は、環境ゲノムおよび進化に生じ得た過渡的な16S rRNAなど、種々の16S rRNA遺伝子を取得し、大腸菌リボソームにおける機能をスクリーニングした。 環境ゲノムを用いた16S rRNA遺伝子の機能相補実験については、全長16S rRNA遺伝子を増幅するプライマーをいくつかのパターン設計し、スクリーニングを行った。その結果、16S rRNAの微生物起源によっては、遺伝子の末端付近にミスマッチが導入されてしまう場合があり、これが機能に影響することが判明した。また同様の箇所におけるミスマッチであっても、その種類によっては、リボソーム活性を失わずに、薬剤耐性を獲得するという発見した。 ミスマッチの効果とは別に、それを排除できるように新たに設計したプライマーを用いて環境16S rRNA遺伝子を機能スクリーニングしたところ、従来知られているものよりもさらに遠縁、すなわち門レベルで異なる微生物由来の16S rRNA遺伝子が機能相補可能なことを見出した。 これらの遺伝子について「なぜ機能し得たか」を解析した。機能性16S rRNA遺伝子のマルチプルアラインメントと、ゲノムデータベース上に登録されている16S rRNA遺伝子を系統群ごとにマルチプルアラインメントを作成し、座位ごとの多様度を解析する手法により、大腸菌で機能する16S rRNA遺伝子について、機能性16S rRNAに特徴的な領域が存在することが判明した。 バイオインフォマティックスによる祖先型の推定については、大腸菌とサルモネラ菌の共通祖先などを推定し、さらに共通祖先から現存する子孫へ進化してきたであろう進化史を表現する派生遺伝子を推定した。これらについて、幾つかの遺伝子の合成を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画以上に進展している。とくに、環境ゲノムからの遺伝子増幅の際に、プライマー配列を再検討した結果、遺伝子の開始部位付近にプライマーと鋳型の組み合わせによってはミスマッチが生じてしまうことを見出した。また、ミスマッチが機能にどのように影響するかを詳細に調べた結果、ミスマッチのタイプにより大きく表現型が変わることがわかった。とくに、失活したり、温度に対して感受性を示すことや、それらの影響なく、薬剤耐性という新たな機能が出現するという現象を発見できた。本研究で見出された薬剤耐性変異は、従来のリボソームの変異データベースには記載のないタイプの変異である。人工的に変異を導入することで新たな機能を付加できる発見は、工学的な面からも利用価値があると考えている。より具体的には、既存生物の翻訳系が抗生物質により阻害を受けるのに対し、ミスマッチ導入型の新規人工翻訳系では阻害を受けないため、抗生物質を誘導剤として、翻訳系の切り替えが可能となる可能性がある。 このように、本計画を開始するにあたりPCRプライマーによってこのような機能発現が起きることは当初想定していなかったことであり、大きく研究を前進させることができた。また環境ライブラリーを徹底的にスクリーニングした結果、門レベルで異なる16S rRNAが機能相補することを見出したのも、基礎生物学的な観点からも、また表現系の多様化をさらに拡大するという観点からも有意義な結果であった。 一方、バイオインフォマティックス的手法で構築された16S rRNA遺伝子については、配列を一つに絞り込むことが原理的に難しかったが、いくつかの候補配列を構築することができた。また推定した配列にもとづき実際に発現系の構築と生育相補性の確認も行い、研究を順調に推移した。
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Strategy for Future Research Activity |
ミスマッチ導入による抗生物質耐性の出現については、薬剤の種類や濃度が生育に与える影響などを詳細に解析する。現在、増殖速度の観点から予備的に検討してきたが、in vitroの系やそれに準じたo-ribosomeの系などを活用し、抗生物質がタンパク質合成に直接影響しているのか、それとも間接的に耐性が現れているのかなどを解析する。 環境ゲノム由来、あるいはバイオインフォマティックス的な手法で構築された種々の16S rRNA変異大腸菌について、種々の条件で適応株を選抜する。実験スケールなどについて決定するため、同様の実験を何度か繰り返し、得られる独立クローンの種類や、そのために解析すべきクローン数などを予備的に決定する。 進化実験については、わずかな選択条件の違いが異なる進化パターンを与えると予想されるため、温度制御などについては厳密に行う。変異株については表現型の不安定化が起きやすいことを経験的に感じているので、とくに注意を払う。また増殖特性の評価を行う際には、シングルクローンに分離した状態の増殖と、様々なクローンが混じり合った状態で行う場合とでも差が出たり、植え継ぎのタイミングでも優先種が異なったりする。そこで、mid-log phaseで増殖の最大速度を見る場合と、log phaseで最大の菌体密度が得られる条件で植え継ぐ場合なども比較しながら進める。
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Causes of Carryover |
研究は、ほぼ計画通りに進行した。購入物品の一部で、予想していた額よりも安価に納入されたことで、若干の残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
消耗品の購入に充当する予定である
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