2014 Fiscal Year Annual Research Report
血管内皮機能不全を誘導する細胞内代謝変動と遺伝子発現制御機構の解析
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26292055
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
町田 幸子 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品総合研究所 食品バイオテクノロジー研究領域, 上席研究員 (30353981)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 純 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品総合研究所 食品機能研究領域, 主任研究員 (10374729)
石川 祐子 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品総合研究所 食品機能研究領域, 上席研究員 (40353940)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 細胞・組織 / シグナル伝達 / 脂質 / タンパク質 / ストレス |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者らは、脂質過酸化反応の結果生じる4-hydroxy-2nonenal (HNE)付加体などに、強いLOX-1結合能と血管内皮機能不全誘導能があること、さらに、LDL中のApoB由来の配列に、LOX-1のリガンド結合部位への結合が予想されるヘリックス構造があることを既に明らかにしていた。H26年度は、酸化LDL中の機能不全誘導に関わる分子の同定を目指し、ApoB由来アルデヒド修飾ペプチドのLOX-1リガンド活性評価を進めた。対象としてLOX-1リガンド認識部位への結合が予想される22残基の3種類のペプチド(名称2173, 4237, 4463)を選抜した。各ペプチドの配列は以下の通りである。2173(ApoB α2由来) :NH2_NIIDEIIEKLKSLDEHYHIRVN_COOH、4237(ApoB α3由来):NH2_DVISMYRELLKDLSKEAQEVFK_COOH)、4463(ApoB α3由来):NH2_DYHQQFRYKLQDFSDQLSDYYE_COOH 。さらにHNEで修飾した各ペプチドを準備した。6種類のペプチドのLOX-1安定発現細胞における酸化LDLの取り込み阻害を観察した。酸化LDLは脂溶性の蛍光色素で標識し、細胞への取り込み量の定量を可能にし、各ペプチドのLOX-1への結合能を評価した。 その結果、HNE修飾4463(HNE-4463)に強い阻害活性が観察された。未修飾の4463を200μM添加しても阻害活性が観察されないのに対し、HNE-4463は、10μMの添加で、LOX-1の酸化LDL結合の阻害効果が観察され、200μMの添加で結合を100%阻害した。このことは、ApoB上の4463番目のDから始まるペプチドがHNE修飾を受けることにより、LOX-1への結合能を獲得することを示している。実際のLDLの酸化的修飾により、HNE修飾を受けた4463が生じるのか現在解析中である。 一方、酸化LDLの取り込みにより生じる細胞内代謝物が、エピジェネティクスに必要な基質、補酵素の供給源となる可能性を明確にするために、ヒト大動脈内皮細胞を対象に代謝物量の変動解析を進め、メチル基供与体の経時変化を追跡しているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H26年度の主たる研究目標は、「酸化LDL中の機能不全誘導に関わる分子の同定」であり、そのために、ApoB上のLOX-1リガンド活性発現に重要な構造上の特徴を解析することである。LOX-1への結合が予想されるペプチド配列から、HNE修飾によりリガンド活性を獲得する特異的な配列の同定に成功し、概ね目標を達成した。 さらに、実際の酸化的修飾により、HNE-4463が生じることを確認し、LOX-1_酸化LDL複合体中に、HNE-4463を質量分析により検出することも試みたが、解析が非常に複雑なため確認には至っていない。解析方法の検討も含めて、次の課題として残されている。 一方、2点目の目標である「酸化LDL取り込みによる細胞内代謝変動の解析」に関しては、順調にデータの蓄積が進行している。以上から、概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
H26年度に引き続き、酸化LDL取り込み後の細胞内代謝物変動の解析を進める。解析途上で新たに顕著な変動を示す代謝物が明らかになった場合には、質量分析による同定も試みる。また、平成26年度に同定された酸化LDL中の機能不全誘導に関わる分子に関しては、該分子の取り込みに伴う細胞内代謝変動の解析を進める。また、メチル基供与体であるSAMが、細胞内に単一プールとして存在しているのか、あるいは、細胞質、核などに個別のプールがあるのか不明であるが、この個別プール量の変動のエピジェネチィクスにおける重要性を明確にするため、SAMの細胞内局在を効率的に解析する手法を確立する。 一方、H26年度に明らかにしたApoB上のLOX-1リガンド活性発現なHNE修飾ペプチドは、脂質過酸化反応に伴い生じるアルデヒドによる修飾により、LOX-1リガンド活性を獲得することが明らかになった最初のペプチドである。この修飾ペプチドが、実際のLDLの酸化的修飾に伴い生じ、さらにLOX-1への結合に寄与しているのか、酸化LDL_LOX-1複合体断片の解析などを進め明らかにする。 さらに、酸化LDLや酸化生成物の取り込みによる代謝変動が、血管内皮機能不全に関わる遺伝子の発現誘導に与える影響の解析に着手する。血管内皮を対象にしたエピジェネチィクス制御に関する報告は限られているが、2012年に転写制御因子であるNfr2の機能が関係することが報告された。NFr2は、抗酸化関連遺伝子の上流域AREに結合し転写を制御する。そこで、AREへのNfr2の結合の検出系を組みたてる。
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Causes of Carryover |
酸化LDLの取り込みにより生じる細胞内代謝物変動の解析を進める過程で、単に変動を追跡するのみでは無く、その細胞内プール量の変動を解析することの重要性が示唆された。そこで、次年度に新たな手法を導入し、細胞内のプール量に着目した解析を進めることで、一層の研究の進展が期待されるため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究計画に従い、メチル基供与体であるSAMなどが、細胞内に単一プールとして存在しているのか、あるいは、細胞質、核などに個別のプールの有無を明らかにし、さらに、この個別プール量の変動のエピジェネチィクスにおける重要性を明確にするため、SAMの細胞内局在を効率的に解析する手法を確立する。
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