2014 Fiscal Year Annual Research Report
湿地生態系における樹木を介したメタン放出:変動要因の解明と系全体フラックスの推定
Project/Area Number |
26292089
|
Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
寺澤 和彦 東京農業大学, 生物産業学部, 教授 (30414262)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 健四 地方独立行政法人北海道立総合研究機構, 森林研究本部林業試験場, 研究主幹 (00414277)
石塚 成宏 独立行政法人森林総合研究所, その他部局等, 研究室長 (30353577)
阪田 匡司 独立行政法人森林総合研究所, その他部局等, 主任研究員 (50353701)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 生態学 / 生物圏現象 / 土壌圏現象 / 地球温暖化 / メタンフラックス / 湿地林 / ハンノキ / ヤチダモ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、湿地からのメタン放出機構の中で最近まで見落とされてきた樹木経由の放出経路に着目し、観測事例が限られている野外の林冠木を対象として、樹幹からのメタン放出量の変動要因と生態系全体のメタンフラックスへの寄与度を明らかにしようとするものである。 平成26年度は、北海道東部の泥炭湿地林(網走サイト)において、①ハンノキ樹幹からのメタン放出量の鉛直方向の変動および季節的変動、②地表面メタンフラックスの季節的変動、③高木層と下層植生層の植生構造と立地条件、について調査を行った。また北海道中部のヤチダモ林(月形サイト)において、④地表面メタンフラックスの季節的変動の測定、⑤下層植生からのメタン放出量の測定手法の検討を行った。主な成果は次のとおり。 1.網走サイトのハンノキ3個体における樹幹からのメタン放出量は、いずれの個体においても幹の最下部から上に向かって急激に減少したが、高さ1~5mにおいてもメタン放出がみとめられた。個体あたりの樹幹メタン放出量は、8月で800~3200 μgCH4 h-1、9月で500~800 μgCH4 h-1と推定された。 2.ハンノキの樹幹メタン放出量(地上0.15m)は、8月に最大6600 μgCH4 m-2h-1を示した後に11月に向かって減少し、温度による律速が示唆された。同サイトの地表面からのメタン放出量は8月で1011±768 μgCH4 m-2h-1であり、11月に向かって減少した。 3.月形サイトにおける地表面メタンフラックスは、夏季に吸収量が増加する傾向を示し、フラックス(マイナスが吸収)の群落内平均値は、ヨシ群落で-19~+7 μgCH4 m-2h-1、オニシモツケ群落で-24~-5 μgCH4 m-2h-1であった。ヨシ群落の植生経由のメタン放出量を試作チャンバーによって測定し、10 mgCH4 m-2h-1オーダーの放出量を確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、①樹幹からのメタン放出量の時間的・空間的な変動要因の解明、②湿地林全体のメタンフラックスに対する樹幹からのメタン放出の寄与度の評価、の2つの目標を掲げて北海道内の2か所の観測サイト(網走と月形)において研究を進めている。 目標①については、メタン放出量の幹鉛直方向での変動を網走サイトのハンノキ3個体で2回測定して変動パターンを明らかにするとともに、この観測結果を用いて樹木個体あたりのメタン放出量の推定を行った。樹幹からのメタン放出量の時間的変動についても、夏~初冬での4回の観測を実施して明瞭な季節変動パターンを検出するとともに、その変動に関わる環境要因のひとつとして温度(地温・気温)が重要であろうことを見出した。 目標②については、生態系全体のメタンフラックスをボトムアップ推定するために、網走および月形の両サイトにおいて地表面メタンフラックスの観測を継続して実施し、サイト内での空間変動や季節変動についてのデータを蓄積した。また下層植生経由のメタン放出が想定される月形サイトにおいては、下層植生層におけるメタンフラックス測定用のチャンバーを試作して観測を試行し、測定手法の妥当性を確認した。これら地表面および下層植生層のフラックスに、目標①で述べた樹木個体あたりのフラックス推定値を加えることによって、湿地林生態系の全体でのメタンフラックスおよびその中での樹幹からのメタン放出量の寄与度を推定することが可能になる。 以上のように、今年度に得られた研究成果は、本研究の目標達成に向けた初年度の成果として十分なものとみなされ、本研究計画はおおむね順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
網走サイトでは、調査プロット内の林冠木約10個体を対象とした樹幹メタン放出量の観測を季節を変えて数回実施する。あわせて、メタンの生成や放出に関わる地下水位、地温、地下水溶存メタン濃度などの環境要因の観測を継続する。これらのデータから、網走サイトにおける樹幹からのメタン放出量の水平的な空間変動と季節的変動のパターンを明らかにし、それらの変動に関わる要因の検討を進める。また、樹幹から放出されるメタンの炭素安定同位体比の測定を試行し、樹幹内部でのメタンの輸送様式の検討を行う。地表面でのメタンフラックスについては、調査プロット内の測定箇所の数を約10個に増やして観測を実施し、土地面積あたりのメタンフラックスの推定精度の向上を図る。以上のデータを用いて、網走サイトにおける湿地林全体でのメタンフラックスの推定を行い、全体のフラックスに対する樹幹からのメタン放出量の寄与度の評価を行う。 月形サイトでは、H26年度に手法の検討を行った測定方法を用いて下層植生層におけるメタンフラックスの観測を季節を変えて数回実施し、植生の種類や時期などの違いがメタンフラックスに及ぼす影響を把握する。あわせて、地表面メタンフラックスと地下水位、地温などの環境要因の観測を継続し、生態系全体のメタンフラックス推定のためのデータを蓄積する。樹幹からのメタン放出量については、ヤチダモ3個体を対象とした幹鉛直方向の変動の測定をH27年度に試行、H28年度に本格実施して変動パターンを明らかにするとともに、個体あたりの樹幹メタン放出量の推定と湿地林全体のメタンフラックスへの樹幹メタン放出量の寄与度の評価を行う。
|
Causes of Carryover |
物品費:観測サイト(網走)の土壌水分環境が予想以上に湿潤であったため、購入予定であった土壌マルチプローブ・PDAモニター(530千円)の替わりに地下水位ロガー(現有機)での観測に切り替えた。樹幹メタンフラックス測定用の全周チャンバー(特注品)に関して、約100個の製作を予定していたが、今年度は性能検証のための試作品12個の製作にとどめた。 旅費:観測サイト(月形)でのフラックス観測等を主に研究分担者(山田)が行うことで、研究代表者(寺澤)の同サイトへの調査出張を最小限に留めた。成果の論文発表に注力し海外学会での発表を見合わせた。国内学会への出張旅費を別経費にて充当した。 人件費・謝金:ガス濃度分析に関して、使用している分析機器の不具合などのため、随時、機器調整が必要であったことから、研究分担者(阪田)本人による分析を主体とし、分析補助者の雇用を最小限に留めた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費(3,506千円):樹幹メタンフラックス測定用の全周チャンバー(800千円)、観測用足場(400千円)、現地観測器材(1,000千円)、薬品・分析用ガス(600千円)、分析器具(706千円) 旅費(1,370千円):調査研究(500千円)、研究打合せ(300千円)、国内学会(200千円)、海外学会(370千円) 人件費・謝金(730千円:分析補助)、その他(300千円:論文英文校閲、通信費など)
|
Research Products
(1 results)