2015 Fiscal Year Annual Research Report
暖流系生物の分布拡大で変遷する寒流域生物群集-漂着・繁殖あるいはゲノムパラサイト
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26292098
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
宗原 弘幸 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (80212249)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒井 克俊 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (00137902)
武島 弘彦 総合地球環境学研究所, 人間文化研究機構, 特任助教 (50573086)
矢部 衛 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (80174572)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 半クローン / アイナメ系雑種 / クジメ系雑種 / DNAバーコーディング / 分子分類 / 季節回遊魚 / 雑種の交配 / 戻しスジアイナメ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、地球規模の環境変動で温帯種との遭遇機会が増える北日本に生息する魚類の応答について解析することを目的とした。そのためにDNAバーコーディングにより、北日本に漂着する稚魚類を分子分類し、魚類相の動態を捉えることを試みた。また連続採集できた種については、形態変化および初期生活史を明らかにした。さらに過去に起きた環境変動により二次的遭遇で半クローンが系代するようになったアイナメ属雑種の遺伝生態学的研究を進めた。これらの結果以下のことが明らかに出来た。 1.前年度までの結果を含めて、スキューバ潜水などにより採集した寒冷種および南方からの季節回遊魚の稚魚は約91種になり、そのうち8種については、分子分類で初めて稚魚の形態を明らかにすることができた。さらに、未記載と見られるダンゴウオ科魚類も採集した。この種は遺伝子は、カムチャッツカで採集したナメダンゴと同種に分けられたが、形態が著しく異なっていた。そこで、採集地の違いかどうかを検討するため知床から標本採集し分析を試みた。その結果、知床とカムチャッツカは遺伝子も形態も一致し、それらはナメダンゴと同定されたため、未だ道南のは、同定できない。 2.アイナメ属雑種については、クジメとスジアイナメ両種のゲノムを持っているクジメ系雑種の配偶相手を見つける核型のマーカーの発見に成功した。核型マーカーは、野外雑種でのみ、2つの染色体が動原体で融合したロバートソン型融合染色体で、他の染色体と比べ、大型であることから識別できる。そこで両種のなわばりから各卵塊から数粒づつ採集する標本採集を行った。解析途中であるが、クジメ系雑種の一部は、スジアイナメと交配していることが示唆された。 3.前年度より半クローンを誘導に関与する候補遺伝子を絞り込むため、次世代シーケンサーを使ったトランスクリプトーム解析をした。バイオインフォマテック解析に手間取っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、道南地域のDNAバーコーディングライブラリーの作成とともに、標本採集と解析が順調に進み、本研究以前に報告があった113種の稚魚形態に加えて、分子分類により始めて記載できた8種、分布北限を記載できた5種、初期形態・生活史の全容を解明できた1種など、多くの新知見が得られ、学会、論文執筆も順調に進められた。また、二次的遭遇により交雑が始まり、半クローン系統の進化にいたったアイナメ属についても遺伝マーカーの開発、それを使った集団解析、それらの結果得られた全雌半クローンが母種の雄との戻し交配を通じて、一部がスジアイナメに還流するなど、これまで全く知られていなかった集団構造の実態が明らかに出来つつあるからである。 特にアイナメ属雑種の研究については、染色体の核型を遺伝マーカーとするミクロの視点からの研究成果を、スクーバ潜水による野外調査というマクロな手法を使ったフィールド研究と併用させることで、従来出来なかった研究が可能になると言う、水圏生物の新たな研究モデルになる画期的研究スタイルおよび研究成果が上がりつつあると評価できる。 一方、「当初の計画以上にすすんでいる」とまでは評価できなかったのは、関連候補遺伝子のバイオインフォマテック研究が停滞させてしまったからである。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、停滞している半クローンを誘導する候補遺伝子群の特定を第一に進めたい。半クローン研究の大きな成果の一つとして、これまでクローン、半クローンと言った交雑起源の特殊な遺伝様式は、2種間の遺伝的和合性にのみ着目されていたことが、本研究により、人為的なF1雑種では、半クローンにならず、野外雑種のみでしか発現しないこと、そして野外雑種には、ロバートソン型融合染色体が見られるなど確かな証拠により、半クローンには分子基盤があることを見つけたことである。これを多角的観点から疑いのないものにするためにも、バイオイフォマテック解析を完了させたい。 また、半クローンは、遺伝的多様性を作り出せること、および雌だけである、といった個体群の増加速度の観点から、単性生殖と有性生殖の利点を持ち合わせながら、母種(スジアイナメ)を絶滅させることなく共存する。このような、これまでどの半クローン、クローンでも知られていない集団構造を持っている。最終年は、この謎解きにも挑戦する。共存は、やはり海洋という大きな生息域が関与するが、母種の雄と交配することで、半クローン集団が急速に増加しないこと、またそれによって半クローンゲノムをゲノムシャッフリングし、遺伝的多様性を増加させるシステムがあるかも知れないことが大きいと考えている。この仮説の実証のため、クジメ系雑種のスジアイナメへの還流過程と半クローン雑種の人為的な再現をしたい。
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Causes of Carryover |
消耗品が節約できたため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
消耗品の購入に使う予定
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Research Products
(4 results)