2015 Fiscal Year Annual Research Report
魚類が示す筋肉の高い再生能力と成長能力を可能にする分子メカニズムを探る
Project/Area Number |
26292112
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
木下 滋晴 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (40401179)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 魚類 / 筋肉 / 再生 / 成長 / 老化 / 終生成長 / ゼブラフィッシュ / 筋衛星細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までにトラフグの新生筋線維で特異的に発現する遺伝子MYHM2528-1のプロモーター制御下でGFPを発現するトランスジェニック系統をゼブラフィッシュで確立し、それを用いたレポーターアッセイから、3か所のNFAT結合部位が、プロモーター活性に寄与することを明らかにした。本年度は、NFAT結合部位に加え、2か所のmyoD結合部位についても、それらを欠損させたレポーターベクターを作成した。その結果、いずれについてもプロモーター活性の有意な低下を確認することができた。哺乳類では筋肉の損傷時に筋再生のために新生筋線維が作られ、そこで胚型/新生児型MYHが一過的に発現するが、その発現にはNFATおよびmyoDが寄与する。われわれの結果は、哺乳類の筋再生に関わる分子経路が、魚類の終生成長に関与する可能性を示す。 また、哺乳類では加齢に伴って筋肉の再生能力は低下し、筋量が減少する。一方、魚では筋線維数が終生増加し、再生能力も高く維持される。そこで、ゼブラフィッシュ筋肉の加齢に伴う遺伝子の発現変化を網羅的に調べ、哺乳類との違いを検討することとし、昨年度から今年度にかけて、2ヵ月齢(幼魚区)、1年齢(若齢魚区)、および3年齢(老齢魚区)のゼブラフィッシュを用いて、骨格筋でRNAseqを行った。また、ラット骨格筋におけるRNAseqデータ(Yu et al., 2013)を用い、メタ解析を行った。遺伝子発現パターンの階層的クラスター解析の結果、幼魚区は他の二区と明らかに区別され、一つのクラスターを形成するが、若齢魚区と老齢魚区は同一のクラスター内で混在し区別されなかった。一方、マウス骨格筋においては、同様の解析で若齢個体と老齢個体の遺伝子発現パターンが明確に区別された。以上の結果は、哺乳類と異なり、魚類骨格筋においては、全体的な遺伝子発現パターンは加齢によってほとんど変化しないことを示す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Pax7を用いた筋衛星細胞の可視化にはまだ成功していないが、新生筋線維を可視化するトランスジェニック系統を用いて、筋衛星細胞が働く筋肉の再生経路の活性化が、魚類における終生成長の鍵であることを示す結果を得ることができた。また、予定通り、ゼブラフィッシュの加齢に伴う遺伝子発現変化の網羅的解析を行い、データを得た。この解析および哺乳類における既存のデータとのメタ解析から、哺乳類筋肉では加齢により遺伝子発現パターンが明確に変化するが、魚類筋肉では老齢魚と若齢魚の遺伝子発現パターンは区別できないことが示された。
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Strategy for Future Research Activity |
ゼブラフィッシュで行ったシーケンシングのリード数は既報のほ乳類のそれと比べて少なく、発現量が低いと予想される遺伝子の一部が検出できていないこともあり、哺乳類との違いについてはさらリード数を増やすなどの検討が必要である。また、大型魚でありかつ長命種であることが知られるアコウダイのサンプリングを本年度に試みたが成功していない。次年度再度サンプリングを試み、小型魚であるゼブラフィッシュとの比較から、検討を加えたい。シーケンシング解析と、トランスジェニックを用いたレポーターアッセイから魚類筋肉の再生や成長に寄与する幾つかの候補遺伝子を得ており、ゲノム編集等を用いたそれら遺伝子の改変が、筋肉の再生や成長に与える影響を検討する予定である。
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Research Products
(3 results)