2015 Fiscal Year Annual Research Report
魚類のストレスの見える化:可視光通信技術を用いたバイオセンシングシステムの創出
Project/Area Number |
26292114
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
遠藤 英明 東京海洋大学, その他部局等, 教授 (50242326)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | バイオセンサ / 魚類 / ストレス / 可視化 / モニタリング / 光通信 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,魚のストレス指標となる血中グルコース,コレステロール,コルチゾル等の基質濃度変化を,魚が泳いでいる状態で目視により簡単に判別でき,かつそれらを定量的にモニタリングできる光通信技術を応用した新しいバイオセンシングシステムを創出することを目標としている.本年度は,前年度に得られた成果を基盤に,グルコース/コレステロール同時計測用バイオセンサの開発,カーボンナノチューブを電子移動媒体として用いたコルチゾルセンサの開発,さらに昨年度試作した光通信型グルコースセンサを実際に試験魚に装着し,魚を遊泳させた状態での血糖値モニタリングを試みた. まず,グルコースとコレステロールの同時計測には,分子識別素子としてグルコースセンサにはグルコースオキシダーゼを,コレステロールセンサにはコレステロールオキシダーゼとコレステロールエステラーゼを作用電極上に固定化することにより各種バイオセンサを製作した.また,生体内へ刺入したセンサ表面のタンパク質の吸着を抑制するために, MPCポリマーをセンサ検出部に被覆した.そして,魚を遊泳させた状態で両物質の計測を試みたところ,それらの同時モニタリングが可能であった. 次に,コルチゾル測定用バイオセンサについては,抗-コルチゾル抗体を金電極表面(センサ表面)に固定化した後,センサの出力を増幅するために導電性が高い単層カーボンナノチューブをセンサ表面に修飾することにより免疫バイオセンサを製作した.その結果,コルチゾル濃度とセンサの電流減少値との間に良い相関関係が認められ,コルチゾルの迅速な定量が可能となった. さらに,前年度に試作したLED型光通信システムを用いて,バイオセンサ用光送受信回路を製作し,魚の血糖値測定を試みた.その結果,水面付近の受光器とLEDとの間で通信を行わせることにより,魚のストレス応答のリアルタイムモニタリングが可能であった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は「魚類のストレスの見える化」を念頭に置き,魚のストレス応答における一次及び二次応答を目視で簡単に判別でき,かつコルチゾル,グルコース,コレステロール等のストレス指標を定量的にモニタリングできる新しいバイオセンシングシステムを構築することを目的としている. 本年度の研究においては,魚を自由に遊泳させた状態で,ストレスの指標なるグルコース濃度と抗病性の指標となるコレステロール濃度を,同時に計測できるモニタリングシステムの開発を試みた.特に今回は魚体内に長時間挿入できるバイオセンサの構築を目指して,生体適合性を有したMPCポリマーをセンサの基質検出部に被覆することにより,in vivoの状態で7日間のリアルタイムモニタリングを実現することができた. 次にコルチゾルの測定には,センサの出力を増幅するために高い導電性を有するカーボンナノチューブをセンサ表面に修飾することにより,156~10,000 pg ml-1のという広い濃度域においての測定を可能にし,高いダイナミックレンジを有する新しいバイオセンサシステムを開発することができた. さらに、光通信型グルコースセンサを実際に魚体に装着し,魚を遊泳させた状態での血糖値モニタリングを試みたところ,測定データの約94%が伝達可能であることが確認できた,そして魚体に物理的および化学的ストレス因子を負荷したところ,グルコース濃度の上昇が確認でき,本システムを用いることで魚のストレス応答の光通信モニタリングを実現することができた. 以上の進捗状況から,本研究はおおむね順調に進展していると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は最終年度にあたり,以下の計画に従って研究を遂行する. 1)コルチゾル連続測定用システムの改良および魚体への留置・装着法の検討:前年度はマイクロポンプを用いたコルチゾル連続測定法の確立を検討したが,フローシステムの構造が複雑であったため,システムが大型になっていまい,魚体への装着が困難であった.そこで,本年度は更なるシステムの小型化を検討する.具体的にはフローシステム流路の経路設計の見直し,フローチェンジャーの部材を変更し,更なる小型化を検討する. 2)ストレス応答の強弱に対応した光発光システムの製作:前年度までは,グルコース測定用バイオセンサの出力電流値を可視光に変換できる回路を設計・作製し,「赤」,「黄」,「青」の3色のLEDを用いて,有線の状態でそれら色の変化から魚のストレス応答を目視で把握できるシステムを試作してきた.今年度は,このシステムを更に小型化すると共にフルカラーLEDを用いて,魚を遊泳させた状態での「ストレスの見える化」に取り組む.また,赤色を送信光として水面に設置した受光カメラとの間で通信を行い,見える化と共に血糖値のリアルタイムモニタリングの実現を検討する. 3)ストレスの見える化~モニタリングシステムとしての評価:上記システムが完成した後,水槽内で魚を遊泳させながら各種ストレスを負荷し,そのストレス応答モニタリングを行う.そして一次ストレス応答におけるコルチゾルレベル,二次ストレス応答におけるグルコースの動態をモニタリングすることにより,「真のストレス応答」を知るためのデータ取得と解析の可能性を検討する.また,従来法で分析された値との相関性を比較検討,ストレス応答測定システムとしての特性評価を行う.
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Causes of Carryover |
平成27年度に使用予定であった実験に関わる消耗品類,設備品の一部を,既存の現有品を用いることにより研究が遂行でき,予定よりもやや少ない支出になったため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度作製したバイオセンサの他に,新たなセンサシステムを製作する予定があるため,それに必要な電子回路部品類,酵素,抗体等の生化学試薬類,ガラス器具類等を購入する経費として使用する.また旅費については,いくつかの研究成果が得られたので,2016年5月にスウェーデン・ヨーテボリ市内で開催予定の国際会議"Biosensors 2016",および10月にアメリカ・ホノルル市内で開催予定の国際会議" PRiME 2016"において発表予定があり,その経費として執行する.
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Research Products
(11 results)