2016 Fiscal Year Annual Research Report
東アジアの生物多様性の保全と家畜生産性/健全性の関係解明に向けた日韓協働研究
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26292142
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小倉 振一郎 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (60315356)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
八代田 真人 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (30324289)
川村 健介 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター, その他部局等, その他 (90523746)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 放牧 / 家畜生産 / 植物多様性 / 行動 / リモートセンシング / 栄養 / 中山間地 / ドローン |
Outline of Annual Research Achievements |
放牧地の植物多様性と家畜の養分摂取・健康性との関係を解明するため,植生および畜種の異なる条件下において,以下の調査を実施した。A.リモートセンシング:広島と韓国サイトでは,無人飛行機による空撮画像から圃場内の広域的な分布を明らかにした。また,韓国,宮城,広島サイトでは,携帯型分光放射計を用いた地上ハイパースペクトルデータ計測と地上部の刈り取り,その一般成分の分析データから地上部草量を非破壊で推定するモデルの開発を行った。広島サイトでは,放牧期間のドローン空撮画像データから植被と正規化植生指数(NDVIrb)の空間的な分布とその季節変動を明らかにした。B.動物行動モニタリング:野草地に放牧したウシの摂食植物種とその頻度を小型カメラにより撮影した。カメラ映像による推定精度(96-97%)は,直接観察(86-88%)にくらべ高かった。さらに,野草地放牧ヤギの摂食行動を小型カメラで記録することで,26種のバイト様式を識別できること,およびこのバイト様式を用いて摂取行動を時系列に解析し,摂取植物の栄養価を重ねることで放牧家畜の栄養摂取パターンを経時的に追跡できることを示した。C.家畜の養分摂取-利用の解明:多様な植生下での放牧牛の血液成分を分析した結果,Ca等のミネラル濃度は高い多い一方,晩夏-秋にエネルギーとリンが不足する傾向がみられた。野草地ヤギ放牧では,3年間の結果,栄養状態は概ね維持された。植物多様性の異なる草地で放牧飼養されたウシのルーメン内消化性の違いをin vitro法で分析したところ,イネ科牧草地由来ルーメン液ではイネ科牧草の初期消化が良好であったのに対し,多様な植生下の放牧牛由来ルーメン液では広葉草本の48 h後の消化率が高いことが明らかとなった。一方ヤギではルーメン消化と植物多様性との明確な関係は見出されなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
A.リモートセンシング:広島サイトの空撮画像データから,放牧期間における植被は66%から33%に減少したのに対し,植生の活性を示すNDVIrbは夏期も0.55以上の高い値を維持した。NDVIと地上調査の種数と間に直接的な関係は認められなかったものの,春から夏にかけて寒地型から暖地型の牧草が優占する植生に変化していること,また地上部草量の減少には放牧期間中の再生産力が影響していることが示唆される。B.動物行動モニタリング:野草地放牧ヤギの摂食行動を小型カメラで撮影した結果,植物種,植物の構造,葉の形態および想定されるバイトサイズから26種のバイトカテゴリに識別できることを明らかにした。これに基づきバイト様式をコード化し,ヤギの摂食行動を時系列で記録し,さらに摂取植物種別の栄養価を分析することで,ヤギの栄養摂取パターンを経時的に解析する方法を提案した。ウシの摂食行動解析の結果,小型カメラによる摂食植物種の推定精度は,林地で96-97%,草地で99-100%であり,目視による観察(林地86-88%,草地94-95%)よりも高かった。カメラで認識できなかったバイトは全て死角からの摂食であり,死角を減らすことでほぼ全てのバイトを記録できることが明らかとなった。C. 家畜の養分摂取-利用の解明:植生および放牧家畜の摂食植物に関するデータ,および放牧地植物多様性とルーメン消化機能との関係について知見が得られた。また,放牧家畜の血液性状に関するデータも得られた。しかし,主要植物種地上部の化学成分値については,今年度分析に供したサンプル数が多く,分析依頼先機関での作業が当初の見込み以上に時間を要し,当該年度内にデータを得ることができなかった。データが得られ次第,植物多様性と家畜の養分摂取との関係について3年間分の結果を解析する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
A.リモートセンシング:担当者(川村)の転職により広島サイトでの試験は困難となったが,他サイトでの試験は継続して実施しており,広島サイトにおいても過去2年間に取得したドローン空撮画像および地上ハイパースペクトルデータと地上部の草量および飼料成分データを用いて,非破壊で草量と飼料成分を推定するモデルを開発し,これらの研究成果の論文執筆を精力的に行う予定である。 B.行動モニタリング:ヤギの採食行動を中心に小型カメラによる映像データと加速度センサによる顎運動の振動記録および機械学習によって,放牧家畜のバイト様式の特徴を抽出し,摂取した植物タイプとその植物へのバイト回数を自動的に識別する方法を開発する。これをもとに,多様な植物が生育する半自然草地において放牧家畜の栄養摂取量の経時的モニタリングを確立する予定である。 C. 家畜の養分摂取-利用の解明:植物体摂食部位を採取し,その化学成分および消化性を解析する。現在分析中の植物体成分データが得られたら,各サイトの3年間の成分値をデータを解析し,植物多様性と家畜の養分摂取との関係を総括する。同様に,放牧家畜の血液データについても3年間のデータを総括し,摂食植物種数と家畜健康性との関係を考察する。さらに,採取・保存しているルーメン液サンプルの菌叢を解析することにより,家畜の摂食植物種多様性とルーメン消化機能との関係を解析する予定である。
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Causes of Carryover |
「C.家畜の養分摂取-利用の解明」で次年度使用額が生じた。主要植物種地上部の化学成分値を得るため外部機関に分析依頼したサンプル数が多かったため,分析依頼機関での分析作業が当初の見込み以上に時間を要し,当該年度内にデータを得ることができなかったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
「C.家畜の養分摂取-利用の解明」では,今年度に完了しなかった植物体地上部の化学性分析を進める。すでに分析依頼済みであるため,年度明け早期に結果が得られる見込みである。
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