2015 Fiscal Year Annual Research Report
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26292167
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Research Institution | Azabu University |
Principal Investigator |
茂木 一孝 麻布大学, 獣医学部, 准教授 (50347308)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
守口 徹 麻布大学, その他部局等, 教授 (10512006)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 母子関係 / オキシトシン / 帯状回皮質 / 発達 / 社会行動 / 社会認知 / 人工哺乳 / マウス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は動物がその繁殖能力や環境適応能力を適切に発揮するための基盤となる“社会性”が、母性因子によって発達する新たな生理的メカニズムを解明し、さらにそのメカニズムを利用した社会性発達の人為的制御方法を見出すことを目的としている。申請者はこれまでの知見から、“母性因子が幼少期特異的なオキシトシン(OT)神経系を活性化し、それによって帯状回皮質を中心とした社会適応性を司る神経系が適切に組織化する”という社会性発達メカニズム仮説を立てて実験を進めている。この幼少期特異的OT神経系の解剖学的特長として、帯状回皮質、島皮質、扁桃体といった脳部位におけるOT受容体発現細胞の数は、成長したマウスよりも生後14日齢の仔マウスの方が多いということを明らかにしてきた。今年度はB6系統のマウスを用い、OT阻害剤を徐放する薄いシートを仔マウスの帯状回皮質表面に留置することで幼少期のOT神経活性を抑制した結果、成長後に他個体への親和性や母性行動が減少し、社会記憶能力も低下することを明らかにできた。このことから社会性の適切な発達には幼少期OTの帯状回皮質への作用が重要であることが改めて示唆されたが、仮説の更なる実証に向けてDREADDsシステムを用いた機能実証も進めている。現在までにOT受容体-Cre仔マウスの帯状回皮質のおけるOT受容体細胞に、ウィルスベクターによってDREADDs-Giを導入することに成功している。また、今年度は成長後に社会性低下がみられる人工哺乳マウスの人工哺乳時期に、母乳は出ないが母性行動は高い経産マウスを導入する育成を試みたが、現在までのところ成長後の社会性低下を完全にレスキューすることができてはいない。一つの可能性として、人工乳内には社会性発達に必要な何らかの因子が不足していることも考えられるため、今後はその可能性を調べる必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はB6系統のマウスにおいて幼少期にOT神経系の活性を抑制し、成長後の社会性が低下することを明らかにできた。これは幼少期OT神経系の生理的役割を示唆するのみならず、DREADDsシステムを用いた細胞特異的な機能実証のためにB6系統をバックグラウンドとするOT受容体-Creマウスを用いる正当性を示すものとなる。さらに幼少期OTシグナルが発達脳のトランスクリプトームに及ぼす影響を調べる際にもB6系統のマウスを用いることができれば利便性が高く、本年度の結果は研究計画全体にとって大きな前進だと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
社会性発達への幼少期OT神経系の機能を、OT受容体細胞特異的に活性操作が可能なDREADDsシステムを用いて実証する。現在までにウィルスベクターを用いてDREADDs-GiをOT受容体-Cre仔マウスに導入し、DREADDs-Giを帯状回皮質のOT受容体細胞に発現させることに成功しているため、今後はDREADDs-Giを幼少期特異的に活性化し、成長後の社会性を観察する。 人工哺乳マウスにみられる成長後の社会性低下を人工哺乳期間中の経産マウスの導入でレスキューできなかったことから、通常の母乳では大量に含まれているOTを混ぜた新たな組成の人工乳での人工飼育を試みる予定である。もしこれによって成長後の社会行動低下がレスキューできれば、社会性発達の人為的制御方法を見出すという意味でも大きな成果となる。 幼少期OTシグナルの組織化作用を、帯状回皮質や扁桃体といった幼少期にOT受容体細胞発現の多い神経核をターゲットとして、網羅的遺伝子発現変化の解析などから進める。
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Causes of Carryover |
実験計画のひとつとして、幼少期OTシグナルが阻害されたことによる発達脳のトランスクリプトームの違いをcDNA microarrayやRNA-seqによって解析し、社会性発達に関与するシグナル伝達経路や転写産物などを探索する計画がある。この解析のためにはOTシグナルの幼少期阻害が成長後の社会行動に影響することをインブレッドのB6系統のマウスで実証する必要があるが、その実証に昨年度一杯かかってしまったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
幼少期OTシグナルが阻害されたことによる発達脳のトランスクリプトームの違いの解析とともに、27年度の他の実験計画を進めるためにも使用する。
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