2016 Fiscal Year Annual Research Report
LIS1-細胞質ダイニンの分子ダイナミクスと滑脳症発症機構の解明
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26293066
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
山田 雅巳 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (10322851)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 神経細胞遊走障害 / LIS1 / 細胞質ダイニン / 細胞内物質輸送 / 蛍光分子イメージング / クラスIIIβ-チューブリン / α-シヌクレイン |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに私たちは、胎児期の神経細胞遊走(移動)障害に起因した脳形成不全を伴う滑脳症の疾患発症に至る分子メカニズムの解明と創薬探索の両側面からその治療戦略に取り組んできた。滑脳症は、脳回・脳溝(いわゆる脳のしわ)の欠如、脳の層構造の異常を伴う先天性神経疾患で、臨床的には重度の精神発達遅滞、てんかんを主な症状とする。その罹患率は、新生児1万5千人に1人程度の割合ではあるが、根本的治療法は確立していない。私たちは、この責任遺伝子産物のひとつであるLIS1が微小管分子モーターの細胞質ダイニンの輸送活性を制御することに着目し、細胞内ロジスティックスあるいは分子ダイナミクスといった独自の観点から疾患発症に至る分子レベルの研究を展開させてきた。また、このLIS1がタンパク質分解酵素のカルパインによって分解されることを独自に発見し、カルパイン阻害活性を有する低分子化合物が滑脳症疾患モデル(Lis1遺伝子ヘテロ欠損マウス)でみられる滑脳症(様)症状を個体レベルで改善させることを明らかにした。これらにより、カルパイン阻害薬による滑脳症治療薬の開発へと研究を展開させることができた。 本研究課題に於いては、蛍光分子イメージングの先端技術を駆使し、LIS1-細胞質ダイニンをインビトロおよび神経細胞内で可視化して微小管上での分子動態を観察・解析することにより、移動細胞内マシナリーを明らかにすることで、LIS1機能不全が如何にして滑脳症発症に繋がるのかを分子レベルで解明することを目指した。一方で、LIS1-細胞質ダイニンを含む輸送複合体の形成に関与し、LIS1の機能を制御することが示唆されるいくつかの候補因子をMS/MS質量分析法を用いて同定することができた。それらの中でも特に、パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患の原因遺伝子として知られているα-シヌクレインの機能的役割について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに私たちは、LIS1-細胞質ダイニンを含む順行性輸送複合体の土台となる微小管フラグメント(transportable microtubule: tMT)の構成因子でもあるクラスIIIβ-チューブリンに対する特異的なマウスモノクローナル抗体のTuj1を用いた免疫沈降実験により、いくつかの共沈する因子をMS/MS質量分析法を用いて同定することができた。それらの中でも、α-シヌクレインは、パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患の原因遺伝子として知られていることから、これまでに私たちが明らかにしてきたLIS1-細胞質ダイニンを含む順行性輸送複合体、特にその土台となる微小管フラグメント(tMT)の形成過程に於ける役割およびその輸送過程に於ける機能的役割を明らかにしたいと考えた。そこでまずは、神経細胞内でのα -シヌクレインとLIS1/細胞質ダイニン/(荷台となる)微小管フラグメントを含む順行性の輸送複合体を経時的に直接観察できるシステムを確立した。具体的には、高速(切り替え)フィルターホイールを要する蛍光顕微鏡システムによるライブセル・イメージングにより、mTurquoise、mNeonGreen、mCherryの異なる3波長領域の蛍光タンパク質で標識した上記因子の融合タンパクなどを神経細胞内に発現させて、それらの分子動態を解析した。その結果、α -シヌクレインは、細胞質ダイニン/(荷台となる)微小管フラグメントと細胞内で挙動を共にしていることを直接観察することができた。さらに、超解像蛍光顕微鏡により、その輸送複合体の土台を形成する微小管フラグメントの構成因子でもあるクラスIIIβ-チューブリンは、細胞骨格を形成するレールとなる微小管と局在を同じくすることから、α-シヌクレインは、細胞質ダイニン/(荷台となる)微小管フラグメントと微小管で挙動を共にしていることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
今回、私たちは、前述の荷台となる微小管フラグメントを構成する神経特異的クラスIIIβ-チューブリンとの結合因子として、パーキンソン病などの神経変性疾患に特徴的な構造体であるレビー小体を構成するα-シヌクレインをMS/MS質量分析法を用いて同定した。さらに、蛍光イメージング技術を駆使することにより、α -シヌクレインは、細胞質ダイニン/(荷台となる)微小管フラグメントと微小管上で挙動を共にしていることを明らかにすることができた。今後は、LIS1/細胞質ダイニン/(荷台となる)微小管フラグメントを含む順行性の輸送複合体の形成、この微小管フラグメントそのものの形成あるいは輸送過程に於けるα-シヌクレインの機能的役割を明らかにしたい。 その為には、まず、ピペットチップ型電極による電気穿孔法を工夫して、幼若マウス由来の後根神経節細胞内への遺伝子導入効率をあげることを試みる。また、高速(切り替え)フィルターホイールを要する蛍光顕微鏡システムでのライブセル・イメージングにより、mTurquoise、mNeonGreen、mCherryの異なる3波長領域の蛍光タンパク質で標識した上記因子の融合タンパクを神経細胞内に発現させて、それらの分子動態を同時に観察してさらなる解析を行う。さらに、ホルマリン固定後の同神経細胞を対象として、超解像蛍光顕微鏡を用いて、これらの輸送複合体構成因子の詳細なる解析を行う。
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Causes of Carryover |
平成28年4月1日付で、研究代表者の山田雅巳が大阪市立大学大学院医学研究科から福井大学学術研究院医学系部門へとi異動したことにより、本研究計画に於いて若干の遅れが生じたため、研究計画を完遂するために基金分を次年度(平成29年度)へ繰越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後は早急に、ピペットチップ型電極による電気穿孔法を工夫して、幼若マウス由来の後根神経節細胞内への遺伝子導入効率をあげる。また、高速(切り替え)フィルターホイールを要する蛍光顕微鏡システムでのライブセル・イメージングにより、mTurquoise、mNeonGreen、mCherryの異なる3波長領域の蛍光タンパク質で標識した融合タンパクとして発現させた上記の因子などの神経細胞内に於ける分子動態を同時に観察してさらなる解析を行う。さらに、ホルマリン固定後の同神経細胞を対象として、超解像蛍光顕微鏡を用いて、これらの輸送複合体構成因子の詳細なる解析を行う。最終的には、LIS1/細胞質ダイニン/(荷台となる)微小管フラグメントを含む順行性の輸送複合体の形成、この微小管フラグメントそのものの形成、あるいは輸送過程に於けるα-シヌクレインの機能的役割を明らかにする。
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Research Products
(3 results)